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カロン・エファト 3-5


「次の問題は、リラクスト君解いてみて。………リラクスト君? リラクスト君! 起きなさい!」


その怒鳴り声を聞いて目を覚ました。

教科書の影に隠れて寝ていたのに、あのジジィ何で俺ばっかりに目がいくんだよ……ゆっくり頭を上げて自分の席の前の奴に答えを聞いて答える。ジジィはまた五月蠅い声で授業を進め始めた。

あれから三日経ったがカロンはこの三日学校に来ていない。

窓際の席をちらちら見てみるがいつも真面目に受けている小さい背中が無かった。

皆勤賞を狙っているのか、っというほど学校を休んだことが無いカロンが三日も休んだのだ、クラスの女子も少しざわつき俺に何で休みなのかを何度も聞いてきた。

答えたいのは山々だが俺も知らない。あいつの家に行きたいがあんな山奥まで歩いて行くのはごめんだし、電話をしたいがあいつの家は電話が無い……そして、俺とジーニが今はまっていることは……


「あぁ~誰かさんのせいでカロンが三日も学校に来ない。誰かさんがカロンを虐めるから……」


休み時間になると、グリードの机に行って二人でこう呟く。

俺は半分冗談で言っているが、ジーニはオーラーが本気なのを物語っている。

グリードは身を縮め俺らの言葉を聞いている。俺らはグリードの机に座り、椅子に足を乗せる。教室の空気が少しだけ重たくなっているが、そんなこと気にしない。

実際グリードのせいかどうかは分からないが、この怒りをどこかに持って行かなければ頭がいかれそうだ。グリードもこの前の件で俺らを怖がってるみたいだし、なにも言わずにじっと座っているだけだ。

こいつは格好つけるつもりでカロンに突っかかったのだろうと思うが、逆に女子に敵を増やしてしまった。この前の件で女子にカロンファンが増え、ストーカーが急増した。そんなカロンが三日も学校に来ていない、女子からしたらグリードに恨みを持っている人も多い。


「っでグリード君、何にも言わないけど、どう思ってるの?」


ジーニの言葉にブルッとしたグリードはゆっくりと口を開いた。その時……教室のドアがゆっくりと開いた。その影は小さく見覚えのある人物だった。


「あれ? ジーニにブレイン、どうしたんだ? グリードが固まってるぞ。」


まだ包帯だらけの格好で教室に入ってきたのは今、話になっていたカロンだった。傷でボロボロになり包帯だらけで松葉杖をつきながら片手で鞄を持ったカロンはきょとんとした顔で俺達を見ていた。


「どうしたと聞きたいのは俺達の方だ、この三日間学校休んで何やってたんだ?」


ぴょこぴょこ松葉杖で歩きながら窓際の席に行き座る。歩くのもしんどいのだろう。そりゃそうだ、打撲、切り傷、擦り傷、捻挫、そして肋骨が二本と鎖骨、右足が折れていたのだから……

でも、その傷跡はこの三日でだいぶ消えていた。どんな治癒能力なんだよ……


「一日目は傷が熱をもって母さんが学校に行っちゃ駄目って言ったから行けなくて。昨日今日は病院とかいろいろ手続けとかで休んでた。」


カロンはそう言って大きなあくびをしながら鞄の中から教科書を取りだし机の中にしまう。

カロンの前の席にジーニアスが座り、俺はカロンの机に軽く腰を掛けてカロンの話を聞いた。

話によるとカロンはあのレストランを辞めて、今は新聞配達をしているらしい。母親は母子家庭の手当てを受けて少しはお金に余裕ができたらしいが、やはりまだ生活は苦しいのだろう。

虐められていたことや、暴力を受けていた事は親が学校と話し合って少しずつだが解決していくらしい。これで、教室の虐めも無くなるだろう。女子の人気も高くなったカロンは、少しずつみんなにも心を開いていくだろう。


「良かったな、これで学校にも気楽に来れるな。これからも仲良くしようじゃないか。」


ジーニアスはそう言って少し微笑みながらカロンの頬をつまんでのばして遊んでいた。それを見て俺もカロンも自然と笑みがこぼれた。

俺とジーニアスとカロンは今回の事がきっかけで意気投合し仲良くなった。その日から3人でよくつるむようになった。そして……今、こうやってミドルの町の軍隊本部、カラーに3人で入っている。



****



「っでなんでそんな夢見たんだ? なんが入院中そんなに俺達に会えなくて寂しかったのか?」


「違うわ! なんでそうなるんだよ。それにいつ夢を見るなんて分からないだろ……」


カロンはそう言って俺の方にむき直して少し微笑んだ。

今見ても、その笑顔は※セコンダリー、いやプライマリーの時から全く変わってない。少し声変わりをしてほんの少しだけ低くなっただけで見た目も中身も変わってない。童顔の顔に低い身長、テンションが高く、思考は小学生高学年で止まっている餓鬼。でも、その小さな背中にはいろんな影を背負っている。※(中学生)

 俺は“そうか”と言ってカロンの笑顔に微笑み返しゆっくりとカロンの横に立つ。そこから見える町の景色はとても綺麗だった。


「カロン、今日の軍事会議お前でない方が良いんじゃないか? ほら、まだ怪我も完全に治ってないし、熱だって……」


カロンの額に手を当てると、普通より少し体温は高かった。脂汗をかいて、まだ肩で息をしている状態だ。こんな状況で仕事をしていたら、そりゃ気分が乗らないわな……カロンは俺の手をはらって顔を背ける。


「俺は平熱が高いの、だから大丈夫。俺は会議に出る。そろそろ戻らないと部下に怒られる。」


そう言ってゆっくりと廊下を歩き出す。

その後を追うように俺も歩くが、カロンの方が足が短いからすぐに俺が追いつく。廊下を歩いて尉官が仕事をする部屋にたどり着いた。カロンは何も言わずにその部屋に入り消えていった。俺はこれからどうするかを考えながら扉の前で立ち止まっていた。その時……


「あれ? リラクスト代将。どうしたんですか、こんなところで。エファト大尉なら先ほど気分が悪いと言ってどこかへ行きましたが……」


グレイ少尉が大量の資料を持ったまま少しきょとんとした顔をして立っていた。

カロンなら今入っていった事を伝えるとグレイ少尉はとても嬉しそうな顔をし、俺に一礼をしてから部屋に入っていった。

あいつ、カロンを尊敬しているのは分かる、でもそこまで喜ぶことか? グレイ少尉の後を追って尉官フロアに入ると、小さなソファーに寝転がっているカロンを見つけた。

その横に資料を持ったグレイがカロンになにやら話しかけている様子。そう言えばグレイ少尉ってカロンにボールを投げてとせがむ犬のようだ。ジーニアスももうすでに部屋の椅子に座って紅茶を飲んだいた。そんなとき、急に扉が開きこの軍内では見かけないほど小さなお客さんが入ってきた。



「カロン・エファト大尉さん! こんにちわ~」


部屋に入ってきたのはこの間の内戦でカロンが助けたという少女ハーネスだった。

入ってきたと同時にソファーに座っているカロンに抱きついた。体を起こそうとしていたカロンはバランスを崩しソファーに寝転がった。


「ハーネス! だっけ……どうしたんだこんな所まで来て。」


カロンは驚いた顔をしてハーネスを抱きかかえると体を起こした。

ハーネスはにこっと笑ってからカロンに抱きついた。カロンはハーネスを抱きかかえ、慣れた手付きでハーネスをあやす。

確か、カロンはハーネスぐらいの年の従妹がいると聞いたことがある。それで慣れているわけだ。


「あのね、助けてもらったお礼をしに来たの~大尉さんにはいっ!」


っとハーネスは鞄から箱を取り出してカロンに渡した。その箱を見るとどこの国の食べ物なのか、英語では無かったため読めなかった。

でも、パッケージの絵からチョコレートなのは分かった。カロンはハーネスにありがとうと頭を撫で、微笑んだ。ハーネスはカロンを気に入ったのか、カロンに甘えて離れない。そんなハーネスは少ししたら帰ってしまい、疲れ切ったカロンだけが残った。


「やっぱ餓鬼は餓鬼に好かれるんだな。そう言えば、さっきハーネスがくれたチョコレート食べようぜ。」


「誰が餓鬼だ! 俺は餓鬼じゃねぇし。まぁ、しょうがねぇチョコレートは頂こう。」


カロンはチョコレートを持ってきて机に置いた。俺達もみんなでそのチョコレートをつつく。

食べた瞬間口の中にウイスキーの味が広がった。これはお酒が入ったチョコレートだったらしく酒が好きな俺にとってこのチョコレートはおいしいものだ。

ジーニアスやカロン、グレイ少尉もおいしそうにチョコレートを頬張りながらジーニアスの紅茶やグレイ少尉が入れたコーヒーを飲み、少しの休養をとる。そんなとき、カロンの顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。もしかして、いやもしかしなくても……


「カロン、酔っぱらってる? こんなチョコレートで?」


「酔ってねぇ~よ。でも、なんか世界がぐるぐる回ってる様な気がするんだけど~」


そう言えば、こいつ酒に弱いんだった……弱いっと言うより駄目だったんだ。

酒を一杯飲ましただけで倒れてしまうほどの酒の弱さだ。こいつの唯一の弱点だ。大学を出たこいつが一度帰ってきた時に飲ましたらヘロヘロになってしまったこいつにいろいろと質問したら、ぺらぺらと答えてくれた。酒を飲むとこいつは歯止めがきかなくなるので自分の思っている事をぺらぺら喋ってしまう。しかも、その喋った記憶がないと言う全く都合のいいことだ。だから、何か聞き出したいときはこいつに酒を飲ませて聞き出すのが一番だ。


「カロン……もう寝ろ。そんな状態で会議にも出れないだろ……」


カロンをソファーに寝かすとすぐに寝息を立てて寝だした。この早業、こいつだから出来る技だ。

さて、邪魔者は消えた事だしさっさと会議室に行くか……




「今回の議題は、本日欠席のカロン・エファト大尉の中佐に昇任させるという事です。前回の内戦でも、これまで出た戦いでトップの頭を取っているのはほぼ全てが彼の働きです。これだけの働きをしていれば昇任させる理由も十分かと。」


大佐の発言はもっともなことだ。カロンは戦となると人が変わるから、誰よりも強い。しかし……


「断る。あいつは大尉で十分だ。」


ジーニアスはそう言って机に脚をかける。そう、カロンが一年以上ずっと大尉でいるのは俺とジーニアスがこうやってあいつを上に上げない様にしているからだ。あいつならばもっと上に上がれる実力がある。しかし、俺たちはあいつを上に上げたくない。他の隊たちはジーニアスがそうやって言う理由を聞きたがっている。


「だって、あいつが上に上がってこれ以上仕事が増えたら俺たちの仕事があいつに回せなくなる。そうなったら俺たちが困る。だからこの議題は終わり。つまりこの会議も終わり、俺はもう帰るぞ。」


そう言ってジーニアスはゆっくりと会議室を出て行った。俺もジーニアスの後を追って大きなあくびをしながら出ることにした。これ以上罵声を聞きたくないし、こんな堅苦しい会議に出てられない。会議室を出るとジーニアスが廊下の壁にもたれかかりながら待っていた。俺が来るとジーニアスはゆっくりと歩いていった。待っていたと言うことは、ついてこいということだろう。

後をついて行くと明らかにフラフラしながら歩いているカロンを見つけた。まだ酒が残っておいるのか、いつもならキチッとしている軍服もゆるゆるになっている。そんなカロンを見ているとさっき軍事会議の話題になった男とは思えない奴だ。そんなとき……



『カロン・エファト大尉様、ロビーにお客様がいらしております。』



放送でそう呼ばれたカロンは頭を左右に振り、酔いを覚ませれからゆるんだ軍服を直してからゆっくりと廊下を歩いていった。歩いているカロンをグレイ少尉は見つけカロンの後をついて行った。カロンにお客なんて珍しい。人付き合いが苦手、というか、人が苦手のこいつに客なんてよっぽどの物好きらしい。おもしろそうだから見に行くことにしよう……


ロビーについたカロンは受付の女性に尋ねてどこに座っているかを聞き出す。どうやら三番の待合室にいるらしく。頭にハテナを出しながらゆっくりと待合室に歩いていく。三番待合室の扉をノックして中をのぞいたカロンの動きが固まったのを見た後俺たちもカロンに近づく。その待合室をのぞいてみると一人の少し小柄で茶髪の女性がソファーに座っていた。カロンに客が来ただけでも珍しいのに、それがまたしても女性となると余計に怪しい……この女性誰なんだろうか?


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