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カロン・エファト 3-2

重たい瞼を必死に開けながら、つまらない授業を耳に入れて反対側の耳から出ていく。

算数なんてめんどくさいし、このジジィ、モゴモゴしててなに言ってるか分からない。

しかもこのジジィ寝るなとか言い出しやがった。ふと、後ろを見るとジーニアスは静かに寝息をたてて寝ていた。何であいつは良いんだよ……

あまり気にしたことがなかったけど、授業中にあいつが起きてることは数少ない。それでも、いつも学年トップを取っているこいつが“化け物”扱いされるのもわかったような気がする……寝ていて、急に問題を当てられてもすぐに答えることができるんだ、こいつ本当に天才かもしれない……

今度は窓際を見て見るとカロンが真面目にノートを取りながら授業を受けている。顔には先ほどできた大きな痣を覆うようにガーゼが貼られていた。

あの後も、あの高校生に捕まって攻撃を受けたのだと思われた。授業に遅れてくるし、さっきより顔にできた痣が大きくなっている。こいつこんな怪我をしながら授業を受けるなんて、こいつ本当に真面目だな。俺だったら絶対保健室でサボってる。


「じゃぁ次の問題を解いてもらおうかな、え~とじゃぁカロン君解いてみて。」


先生に当てられ、すっと立ち上がりすらすらと数式を言う。しかもその答えは正解、でもこいつはジーニアスと違って努力の結果か、真面目からだろう。静かに席に座り机に頬杖を着いて黒板の文字を写し始めた。それを見て、よく思わない男子が授業中にこそこそと何かを話しにこっと笑うのが俺ははっきりと見た。

それから少ししたら5限目終了のチャイムが学校に鳴り響いた。先生は黒板に大きく明日の宿題のページ数を書いて教室から出て行った。

先生が出て行った瞬間、教室がざわめきだした。皆友達と話したり、遊んだり好きなことをやっている。

俺も大きく伸びをして椅子にもたれかかる。

カロンは窓際の席でいつもの通り机に顔を伏せて寝ている。

しかし、今日はいつもの通りにはいかなかった。


「おい、カロン。お前生意気なんだよ。すかした顔しやがって。」


クラスの男子が3人、カロンの机の周りを囲み、カロンを見下ろし、餓鬼みたいな理由でカロンに突っかかる。

カロンもそれに気がついたのか体を起こし薄く開いた目で3人を見る。

そして、めんどくさそうにため息をついて短く切られた髪をガリガリと掻く。


「別にすかした顔なんかしてないよ。そう見えたなら謝るけど、謝った方がいい?」


カロンはそう言って薄く開いた目で3人を見て首をかしげる。さっき会ったときのにこやかな笑顔の影はどこにもなかった。その目は怖くも感じるほどの殺気を出していた。


「てめぇふざけんな! 俺らのこと見下しやかって!」


3人の中のボス的存在の男子、グリードはカロンの胸ぐらを掴みカロンの体を持ち上げる。

カロンは平均身長より小さいから、ごつい体のグリードなんかには簡単に持ち上げられてしまう。

持ち上げられた時に上がった服から見えた腹には目を背けたくなるほどの、ひどい痣や切り傷、火傷がはっきりと残っていた。こいつ、こんな傷を受けてながらも毎日学校に来てるのか……


「別に……見下してなんか………ない……」


カロンは襟で首を絞められて息苦しそうだが、薄く開かれた目はさっきと変わらなかった。

カロンは首を絞めているグリードの手を掴み力を入れる。

それを反抗とみなしたのか、グリードはもう片方の手でガーゼで覆われた頬を思いっきり殴った。

カロンは窓に背中と後頭部をぶつけ崩れた。その瞬間教室にいた生徒は口を押さえて驚きながら一瞬静かになった。

カロンは咳き込みながら、小さく声を漏らし下唇を噛み締めて痛みに耐える。元々大きな痣があるところを思いっきり殴られたのだ、相当痛いだろう。


「知ってるぜ、お前の父親、山の動物殺しの為に軍隊やめたんだろ。元軍人が情けねぇよな。軍人辞めて、山の主になるなんてばかばかしいんじゃねぇか!」


その噂なら知ってる。カロンの父親はミドルにある軍隊本部カラーに所属し、大佐になるほどの人だったらしい。しかし、4年前に急に軍隊を辞めてこの町の自分の山で仕事をするようになったらしい。だが、それから一年もしないうちにに流行病にやられて死んでしまったっと……カロンはグリードの言葉を聞いた瞬間、今まで薄く開いていた緑がかった瞳を大きく開いた。


「俺の父さんはそんなんじゃねぇ! 父さんは俺や母さんの為に軍隊を抜けて、この山を大切にしながらこの仕事に誇りを持って働いてた! お前みたいなお金と親のすねをかじってるような奴に父さんを馬鹿にする価値なんか無い!」


クラスが一緒になって3年になるがこいつがここまで怒ったのは始めてみた。

自分をバカにされたことより、父親をバカにされたことの方が奴にとっての地雷らしい。

カロンはそう言った後、グリードを思いっきり殴った。男子がカロンを殴った力よりカロンが殴った方が威力は高いようだ。

グリードは後ろに飛び机に体を強く打ち付けた。今までこんなに怒ったカロンを見たこと無かった俺達はさっきよりも、もっと驚いて声も出なかった……カロンは息を荒げながら尻餅をついているグリードを見下ろしていた。


「痛っ……先生! こいつが俺を殴ったよ!」


グリードは頬を押さえながら教室に入ってきたばかりの先生に叫ぶ。

こういう奴が一番ムカつくんだよな、自分は被害者に成り下がる奴。先生も現在どういう状況なのかが分からず、とりあえず二人の間に入り事情を聞こうとする。その時―


「先生、グリード達が最初に手を出しました。カロンは正当防衛ですよ~」


教室の後ろから聞こえた声はやる気がない声だった。

後ろを見ると眠たそうな目をしながら手を上げるジーニアスだった。こいつがこんな発言するのにびっくりしてみんな動きを止めた。ジーニアスはひとつ欠伸をして続ける。


「そいつら、自分より勝ってる奴が嫌いみたいで、単なる腹いせですよ。」


ジーニアスはそう言ってカロンに近づき“お前はやり過ぎ”とデコピンをして髪をくしゃくしゃにした。


「そんなん知らない! こいつがいきなり俺を殴ったんだ!」


グリードはジーニアスの発言など無視してしらを切る。

グリードのその言葉を聞いた瞬間俺の中の制御装置がショートした。怒りで冷静な判断が出来ず、今の自分の感情に身を任す。

普段なら冷静な判断で無視、または公にならないぐらいに後で締めるのだが、今被害にあってる奴は短いが俺と交流があった奴、そして少なからずの好意を持った奴だ。だから―

俺は怒りの感情に身を任せ隣の奴の机を思いっきり蹴り倒す。机は隣の机にぶつかり凄まじい音と共に転がる。

その音に驚きジーニアス以外の教室にいた人が全員俺に視線を向けた。ジーニアスは俺がそうすると分かってたかのように俺を見てニコッと笑った。それも無視してポケットに手を突っ込みづかづかとグリードの前まで歩いていき、グリードの胸ぐらを掴み自分の方に引き寄せる。


「てめぇ、それでも男か!? 自分から理不尽な喧嘩吹っ掛けといて、立場が悪くなりゃあ我が身可愛さに、身の保身か!! どこまで甘ったれた根性してんだよ!? その根性叩き直してやる!?」


そう叫びグリードの額に思いっきり頭突きを食らわす。グリードは後ろに倒れ目に大粒の涙を溜めながら、何度も“ごめんなさい”と呟いていた。ジーニアスはひゅーと口笛を鳴らし、カロンは目を飛び出すほど開いてその様子を見て驚いていた。

しかし、一番驚いていたのは自分だ。なんで俺はこんな事をしたんだ?そして、ふと我に返って最高に後悔した。


「4人共、放課後生徒指導室に来なさい!」


先生はそう叫ぶと怒って教室から出ていった。周りも少し重たい雰囲気に包まれた。最悪だ……


「4人って俺も入ってんの? やだな~あっ、それよりブレイン。額から血が出てるよ。」


ジーニアスはそう言ってカロンの頭に顎を乗せてぐりぐりしていた。しかし、そういうジーニアスの顔は嫌そうな顔はしてなかった。むしろなんか楽しそう。グリードの取り巻きがグリードを保健室まで連れていってしまった。

俺はジーニアスにそう言われて額に触れてみるとヌルッとした液体が流れていた。おっと、さっきグリードを頭突きしたときに切ったのかな……?


「ごめんな、俺のせいで二人共巻き込んで。でも、助かったよ。」


カロンはそう言ってさっき中庭で見た時より輝いた笑顔をした。その笑顔を見た時、クラスの女子が少しざわめいた。こいつ天然っていうか素でこれなのか?

カロンは俺の額をハンカチで拭いてくれた。小さい身長と俺の長身で背伸びをしながらも必死に何度も拭いてくれた。


「いいよ、俺達は好きでやったんだから。そんなことより、昼休みといい今といい、なんでお前そんなにやられるんだよ。」


ジーニアスはハンカチで額を拭き終わったカロンの頭から顎を離しカロンの前に立ち、カロンの頬をゴムのように伸ばしながら“おぉ、よく伸びる、プニプニだな”と言いながら言った。ジーニアスはこんな真面目な時にもふざけている……


「そんなの、俺が貧乏で目の色が人とは違うからに決まってるじゃん。」


カロンは殴られたばっかりで腫れた頬を摘ままれ少し痛そうにしてるが答えた。

瞳の色だの金だのそんなことでこいつは虐められてるのか。そんなことをやってる奴の頭はどうなってるんだ? あっそういえば……


「お前、腹も怪我してただろ。見せてみろよ、手当てぐらいなら出来るし。」


さっき胸ぐら掴まれた時に見えたあの傷、頬の痣なんかよりもっとひどかった。

速く手当てしないと化膿してしまう。これでも医学の本は読んだし、手当ての仕方ぐらいは保健の時間に習ったからできるはず。カロンは頬を伸ばしているジーニアスの手をどけながら、こっちを見て少しびっくりし、そして少し怯え顔を青くした。


「いいよ、手当てぐらい自分で出来るし……それより、なんでこんな俺に構うんだ?」


カロンは不思議そうに俺達に問う。

そう言えばこいつが喧嘩以外で誰かと話すところなんて見たこと無かったな……

こいつ今まで一人でいたから誰かに構ってもらうという事が無かったんだ……


「そりゃ友達だから心配するのは当たり前だろ? それにお前面白いし、なんか気が合いそうだからな。」


そう言ってやると、カロンは“友達?”と首を傾げ、俺とジーニアスの顔を見る。少しして耳の端まで顔を真っ赤にして俯いた。こいつ単純だな……

俺とジーニアスはそんなカロンを見て少し笑って机に戻るために歩き出す。その時、


「………ありがとう。」


小さいがちゃんと耳に届くような声が後ろからした。

後ろを振り向いて見ると少し頬を染めて満面の笑みを浮かべたカロンが立っていた。それを見てつい俺とジーニアスも笑ってしまった。こいつもこんな笑顔ができるんだ……その笑顔を見て、またクラスの女子が騒ぎ始めた……


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