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邪神眼

作者: 月野とうふ
掲載日:2026/08/07

三間利津子はワクワクしていた

ボロいアパートの一室で

閉店間際に半額でゲットした

もち麦蟹玉餡掛け炒飯に

舌鼓を打っている


「か~っ旨い」


自分には行くところが無いと

常々思っていた

実家では二言目には出ていけと言われ

言葉に窮する日々


自分の部屋に籠っていれば

問題無かったし

まぁ多少音を立てず

トイレも我慢すれば

何てこと無い


ある日何時ものように

同じことを言われ

カバン一つで家を出た

遅い時間でバスも無く

とぼとぼ駅まで歩いた

星が綺麗だった


掠れた文字で

よく見えないが深夜営業の

不動産屋があり

「不動産」の文字だけ読めた

何時もの自分なら絶対入らない

外観なのに扉を開けた


看板を仕舞い忘れた

だけなのか

出てきた婆さんに鬱陶しげに見られた


「一番安い部屋ありますか

直ぐ住みたいです」


…で紹介されたのがこのボロいアパート

言いたく無い程家賃が安く飛び付いた

コーポディストピアと言われたが

お婆さんだから

ユートピアと言い間違えたのだろう


何しろ来たばかりで

カーテンも付いてないので

窓枠の下に成るべくいる


2階の住民の足音が五月蝿く

不動産屋のお婆さんに

苦情を入れたら

「あんた意外住んでない」

と言われた

そっと電話を切った


床下の板が開くように

なっており

床下収納便利と御札らしきものを

丁寧にカリカリ剥がして使ってる


寝転んでいたら

天井から赤い蜘蛛のようなものが

するすると降りて来た

何か悔しかったので

立ち上がって睨み付けていたら

するすると天井に戻って

フッと消えた


お値段なりの事情があるとは

思ったが其れより家賃が安かった

言いたく無い程に


住み始めて暫く

どんよりしながら

帰って来た利津子


両手にはスーパーで買った食材

ぐじぐじしながら

玉ねぎを刻む利津子

「…っチーフあんなに

怒らなくても」

うじうじしながら

人参とじゃがいもの皮を剥く


クミンシードをバターで

炒めて玉ねぎを投入する

豚コマも入れて焦げ目を付ける


カレーを作ると何故かいつも

鍋から溢れんばかりの量に

なってしまい

表面張力に頼りながら

ルーを入れる


部屋に充満するカレーの匂い


部屋の押し入れの前に

踞っていた影が

ゆっくり立ち上がった

ここに越してきた時から

影が踞っている事には

気付いていたが

鋼の精神力で気付かない

振りをしていた


表面張力の力が弱まって

来ていたのでルーを救い上げ

炊きたてご飯にサッと掛ける

二人分用意した


心なしか減っていくカレー


半ば自棄糞の利津子

「美味しいでしょ

拘りの二種カレールー使いよ

同じメーカーのルーを

使うのがコツ」



「カレーは初めて食べたのに

探し求めていた味がする?

そうでしょ、そうでしょ」

減っていくカレーに

甘らっきょうを入れてあげる利津子


「何で言葉が分かるのかって?

知らないわよ

勝手に頭に浮かぶのよ

其れとあんたに気持ちで

負けると何だか具合が悪くなるのよね」



「よく其れで済んでるな?

ですって?何なのよ警察呼ぶわよ

あ、お祓いの方かな?」

カレーを足してあげる利津子


「大体あんた何なのよ

…実体が無いから憑依して

見せようか?って何」


不意にドンドンとドアが叩かれた


「何なのよ?」


利津子がドアを開けると

「ほら見てみろよ

廃墟アパートに人が住んでるっ…

ってぎゃあああ」

一目散に逃げ出す数人の若者


「…何なのよ

こっちが驚くわよ

ってあれ、あんた何処いったの」


利津子が洗面台の鏡に目をやると

「嫌ちょっと眼ぇ怖っ

…ちょっと勝手に憑依してんじゃないわよ

よく其れで済んでるな?

じゃないのよ」


利津子が出なさいよと

自身の瞼をペチペチしてると

とっくに出てカレーを食べていた

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