彼らは亡霊
ふと急に思いついたロボット物の導入をどうしても投稿したくなり、書いてみました
もし筆が乗ったり、要望があったりしたら続きを書くかもしれません
「はい、Aランチお待ち!」
恰幅の良い女将がトレーに乗った皿とコップをテーブルに置く、皿の上には薄いバンズに挟まれたシナシナのレタスとこれまた薄いパティが挟まれているだけ、ランチと呼ぶには少し質素なものだった。
「悪いね、この村じゃこれが今出せる精一杯のランチなんだ」
目の前のハンバーガーに目を丸くする青年に女将が謝る。
「いえいえ、僕にはこれで充分です」
女将の謝罪を受け入れ、昼食をとり始める青年、年は十六か十七だろうか?
「あんた学生、、じゃないよね。旅人かい?こんな田舎の辺鄙な村にくるなんて変わってるね」
「実は僕、時計職人になりたくて修行の旅に出てるんです。それで色んな場所を巡ってまして、いずれ何処かの町や村で店を開きたいなって」
「そいつは立派だね。でも悪いね。多分この村じゃアンタのお眼鏡に叶うような時計職人はいないし、店を開くことも出来ないよ」
そう言いながら窓の外を眺める女将、彼女の視線の先には村人や村の家屋があるが、村人は誰もが疲れ切った表情で家屋も所々破損しているものが殆どだ。
「戦争が終わって二年も経つってのにアタシらの生活は苦しいままだよ。首都の方は大分復興が進んでるって言うけど、貴族もいないこの村には国も何の支援もしてくれない」
ガルンド王国、キュケーネ連邦、トバッガ帝国の三大勢力によって勃発した大陸戦争。技術革新によるティターン量産などにより泥沼化した戦争だったが、重鎮の死、疲弊など様々な理由により二年前に終結した。
そして今はどの勢力も傷を癒そうと戦災復興に力を入れているが、戦争による疲弊で余り進んでいないと聞く。
この村もその一つ、青年が窓越しに外の景色を眺めていると突如、発砲音が広場に鳴り響き、一定の間隔で地面が揺れ始めた。
「また来やがったかい、旅人さん!急いでこっちに来て隠れな!絶対に顔を出すんじゃないよ!」
女将が青年の腕を掴み、台所の裏に隠すと宿の扉が乱暴に開かれる。
「よう、邪魔するぜ!」
現れたのは男性五人組、泥や砂で汚れた軍服に身を包み、酒瓶片手に入ってくる彼らに女将は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。
「今日は何の用だい?悪いけど、酒ならもう無いよ。先日アンタ達に全部取られたんだからね」
「あー、そういやそうだったな。じゃあ今日は食料を貰おうか、取り敢えずこの宿にある食料を全部寄越せ」
「なっ!ふざけんじゃ無いよ!食料全部奪われたらアタシらは生きていけないよ!ただでさえアンタ達の所為で金も食料も、、、」
反論する女将だが、次の瞬間巨大な金属の手が宿の扉を引きちぎり、破壊する。
「そんな冷たいこと言わないでくれよ?俺達はこの村の平和をまもってやってるんだぜ?、ちょっとくらい感謝の気持ちを貰っても良いだろう?」
「何が村を守ってるだよ!アンタ達が村を、、」
「あっ?今なんつった?俺達が何だって?」
宿の前に鎮座している巨大な鎧が扉越しに女将を睨む。結局女将は台所からありったけの食料を鞄に積めると、彼らに投げ渡す。
「いつも悪いね。それじゃまた世話になるよ」
宿から、他の村人達から金銭や食料を奪い満足した彼らは巨大な鎧の肩に乗ると、村から出て行った、
「あれは?」
彼らが去り、台所から顔を出した青年が尋ねる。
「軍人くずれの野盗さ、戦争が終わってから村の近くに住み着いて、アタシらに金や食料、村の若い女達を要求してきたんだよ。断ろうにも奴らはティターンを所持してるから、アタシらじゃ手の出しようが無いんだ」
ティターン、それは魔力による魔圧シリンダーと歯車によって動く巨大な鎧、所謂人型兵器というものであり、嘗ては貴族のステータスとして、お抱えの職人に作らせた決闘用の武器だった。
職人による手作業で作られる為、一体作るのに十数年も必要とするそれは、大陸戦争による技術革新による工場生産で量産が可能となり、戦場で兵器として活躍した。
戦後は破棄されたティターンの残骸を売る、若しくは残骸でティターンを組み上げ売るジャンク屋などが台頭、彼らからティターンを購入した退役軍人が野盗に身を落とすなどが問題視されている。
恐らく彼らもその口だろう。
「国に助けとかは出してないの?」
「とっくに出したさ。けどこんな田舎の村よりも国は首都の再建や貴族様のご機嫌取りが大事なんだろうよ、返事はいつもノーさ。それに奴らは麓を根城にして村を監視してるからね、助けが来たところで、奴らすぐに逃げて助けがいなくなったら、また戻ってくるイタチごっこさ」
”すまないね”と謝罪する女将は明日には村を出るように青年に警告をし、青年は二階の宿泊している部屋に入っていく。
青年は部屋に入ると周囲に誰もいない事、盗聴がされていない事を確認すると大きめの旅行鞄を開ける。本来ならば替えの服などが入っているべき鞄の中に入っていたのは持ち運びが出来るよう改造された通信機で、青年はヘッドホンを被り、ダイヤルで周波数を合わせると誰かへと連絡を取る。
『はいはーい、こちらガーリでーす!そっちの様子はどうですかー?』
「情報通り、元軍人による野盗が在中していた。奴らはティターンを所持、機体はヘルクレス。駆動音からジャンク屋から買い取ったレストア品だろう」
『オッケー!じゃあ今夜早速任務開始と行こうか。合流ポイントの座標を送るから、其処に相棒も偽装して置いてあるよー。遅刻は厳禁だから、そいじゃ』
通信が切れる。青年は腕時計で今の時刻を確認すると約束の時間まで睡眠をとることにした。
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陽が沈み、獣の時間となった深夜の森。其処に小型のランプを持った灰色の髪の青年が現れる。地図を持っていないにも関わらず、その歩みに迷いはない。
やがてある場所にたどり着く、其処には迷彩色の外套で隠された二機の巨大な鎧が傅く体勢で鎮座していた。
「お、時間通り。さすが時計職人志望。時間には性格だね」
青年を出迎える金髪の女性。年は十代後半か?人懐っこい雰囲気がある。
「それで?」
「連中は麓に砦を作ってそこに普段は住んでいるみたい。で、見張りは一人。ティターンは全部で四機所持、後攫われた村娘が砦で監禁されてるね」
明るい表情だった女性だが、冷たく敵意を露にした。
「了解、それじゃいつも通り俺が奴らのティターンを全部引き付ける。ガーリは連中をあぶり出すのと、俺が奴らを相手している間に砦の破壊と救出を頼む」
作戦、といえるか微妙な打ち合わせを済ませると二人は胸部が解放されているティターンへと乗り込み、自動でハッチが閉じる。
巨大とは言え人間が中で自由に動き回れるほどの空間は無い。二人は胸の先にある円筒状の物体あるくぼみに指を嵌めると其処から魔力を流す。そうして機体各部に送られた魔力によって魔圧シリンダーが駆動し、鋼の巨人が歩き出す。
「ダハカ、ベーヨウルフ」
「ガーリ、ケイツォーン」
「「出る」」
狩りの時間が始まった。
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野盗達は根城にしている砦でカードゲームに興じていた。テーブルに載せられた料理、酒、硬貨。下品な笑い声が響き、攫われた村娘たちが無理矢理着せられた露出の多い服を身にまとい、怯えた笑顔で酌をしている。
「ほら、俺の勝ちだ」
「だー!くそ、またリーダーの一人勝ちかよ!」
ゲームに勝った野盗のリーダーが子分の傍に控えていた村娘を引き寄せると服越しに胸を掴む。力任せに握られた痛みと急なセクハラに村娘が男を睨もうとするが、恐怖でそれが出来ない。
「それじゃ、コイツの今晩の相手は俺だからな!」
彼らが賭けていたのは硬貨だけじゃない、村娘との一晩すらも賭けの対象にしていた。下品な笑い声をあげる男達。
だが、彼等に罪悪感は無かった。寧ろ自分達が受け取る正当な報酬のように考えていた。
戦時中、とある貴族の傘下であった彼らの部隊。くだらない貴族の見栄や誇りを優先する無能な上官、大して能がない癖に偉そう顎でこき使う貴族にうんざりしていた。そんな糞みたいな環境で戦い続け、戦争が終わったと思ったら、軍縮であっさり軍を解雇。碌な退職金も持たされず、保証も無くいきなり無職となった自分達に対し、貴族の上官は自分達の手柄を奪い出世。前線で戦った自分達がゴミのように捨てられ、何もしなかった貴族が幸福を享受している。理不尽だと思った幸せを享受すべきなのは自分達だと、だからジャンク屋からティターンを購入し、野盗になった。自分達に感謝しない村人達も同罪だと思ったからだ。
「はあ」
瓶に入った酒を一気飲みし、溜息を吐く。どれだけ酒を飲んでも不満はなくならない。賭けはこのくらいにしようとリーダーの男が席を立った瞬間、砦が轟音と共に大きく揺れた。
「な、なんだ!」
「大変だ!リーダー!敵襲だ!」
「敵襲だと、村の奴らか!」
「そ、それが可笑しいんだ!手榴弾とかじゃなくて、まるでティターンの銃器で襲ってきたみたいな、、、」
「ティターンだと、馬鹿な事を言うな!あの貧乏村がそんなの用意できるわけねえだろ!っち!国に救助でも出したか?でもあの軍が動くはずもねえし、そんな怪しい動きがあれば気付くはずだ、、、兎に角ティターンを出すぞ!」
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野盗が所持する四機のティターン。ガルンド王国で作られ、大陸戦争時に主力として活躍したヘルクレス、特徴的な点は無いがバランスの良い性能、コスト、量産性で現場からは高い評価をされている名機の一つだ。
尤も、彼等が使用するのはジャンク屋から買い取ったレストア品。部品の品質もバラバラで整備も最低限、前線で活躍しているヘルクレスより大分性能は落ちているだろう。
ライトで周囲を照らしながら隊列を組み進み続けるヘルクレス、すると通信機を通じて、一人が違和感を仲間に伝える。
『なあ、なんか霧が濃くないか?』
『確か、、、雨が降ったわけじゃないのに』
『なあ、これって、、、亡霊騎士じゃねえよな』
霧が立ち込める森に恐怖を覚えた仲間がある伝説を口にした。
『亡霊騎士?何だよそりゃ?』
『戦場に伝わる伝説だよ。ティターンが貴族の所有物だった頃、ティターン同士での決闘で負けた騎士が亡霊として、霧と共に夜な夜な決闘相手を探して襲ってくるっていう、、、』
『馬鹿か!そんなの唯のおとぎ話だ!そんなくだらない話にビビッて、、、』
ガンッ!
聞こえる金属同士がぶつかる音、そして倒れる一機のヘルクレス。前を進んでいたリーダーが乗っているティターン越しに振り返ると最後方を歩いていた部下のヘルクレスが仰向けに倒れていた。
ヘルクレスの口元の装甲はひしゃげ、血が噴き出している。其処は搭乗者の頭が格納される場所でそこが完全に潰されていた。
そして沈黙したヘルクレスの傍には未知のティターンが立っている。藍色の装甲、武骨で直線を多用したヘルクレスと違う、曲線を多用した装甲、頭部には剣状の角が上に向って伸びており、マントを羽織っている。謎のティターンは武器として右手に手斧、左手に盾を持っており、手斧の刃は血にまみれている。状況からしてこの謎のティターンが部下を殺したのだろう。
『ひっ、、、』
『うわあああああ!』
『落ち着け!お前等』
突如として現れたティターンに先程の伝説である亡霊騎士を重ねてしまい、部下がパニックになってしまう、慌ててリーダーの男は叫び、部下を落ち着かせる。
『よく見ろ!亡霊騎士だか何だか知らないが、あの派手なマントに彫刻!ありゃあ旧型のオーダーメイド!性能も数もこっちが上!囲んでやっちまえ!』
リーダーの男が叫ぶと、落ち着きを取り戻した部下が謎のティターンを左右から挟み撃ちにしようとする。だが、突如足元に謎の攻撃を喰らったヘルクレスが倒れ、その隙に謎のティターンが霧の中へと隠れる。
『な、なんなんだ』
音も無く消えたティターン、濃くなる霧。するとまた金属同士がぶつかる音がし、一機、一機と死神の鎌で命を刈り取られたかのようにヘルクレスが倒れていく。
残ったのは自分だけ、リーダーの男がそれに気づくと、持っていた剣をデタラメに振りまわす。
『なんだよ!なんなんだよおおお!』
何で自分がこんな目に合わなければいけない!散々自分は苦しんだ!だから少しくらい幸せを享受してよいではないか!
『くそくそくそくそくっそおおおおお!』
最早目の前すら見えない程、霧が濃くなっている。
『あっ』
そして漸く、眼前に振り下ろされる斧の刃に気付いた瞬間、情けない声が漏れた。
この日、とある田舎村で略奪の限りを行っていた野盗達は全滅し、奪われていた食料、金は村に取り戻され、攫われた村娘達も家族と再会をする事が出来た。
ただ不可解なのは、何故野盗達が全滅したか、その理由、真実だけは誰も知る由が無かった。
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ガルンド王国軍部、其処のとある一室、元々倉庫として使われ、現在は窓際部署として有名な第七技術部の部屋で三人の男女が今回の作戦の結果について話している。
「野盗達は全滅、残党なども確認されていない。また破壊したヘルクレスについては回収、廃棄の予定だ」
赤い髪を長く伸ばした二十代後半の上官が部下である二人の人物、村の宿に泊まっていたダハカと砦の破壊と村娘の救出を行ったガーリを褒める。
この部署の本来の役割、それは戦災復興において障害となるものを極秘に排除する事である。今回のような野盗によるティターンを用いた犯罪行為、裏ルートで流通するティターンを初めとした売買されている兵器の破壊、戦後不安定な時期を狙ったクーデターなどの過激派の鎮圧など多岐に渡る。
「さて、それでは次の任務だ」
「相変わらず、ウチは貧乏なのに忙しいね」
「そう言うな、平和へ歩む時代だからこそ、良からぬ事を企む輩が現れるのだ」
上官がそう言うと一つの写真を出す。写真に写っているのは黒髪を長く伸ばし、一纏めにして束ねている軍服を着た若い将校だった。年齢はダハカと変わらない十代後半か、整った顔立ちだが、整いすぎてる上に肩幅も殆どない所為で男性にも女性にも見える。
「こいつは?」
「アンドリュー・ガーライトを知っているか?」
「そりゃあ知ってるさ。大陸戦争中、キュケーネ連邦で試験中だった最新鋭機アキュレウスを奪取、解析して作られた量産型アキュレウスによる三個小隊を率いて、数々の任務や戦線で活躍した国の英雄じゃないか」
「写真の人物はその子供、ミナト・ガーライトだ。彼自身も優秀な操縦者で父から引き継いだアキュレウスで軍学校を優秀な成績で卒業、今年から軍に配属される」
「へえ」
「お前の次の任務は”次代の英雄”ミナト・ガーライトを抹殺する事だ」
国の英雄、その子供を殺す。おおよそ理解できない今回の任務、ダハカは不敵な笑みを浮かべた。
「はっ!面白そうじゃねえか!」




