檻の中の反省
独房に、絵本を読む女がいた。彼女は、呆れるほど些細な理由で人を殺めてきた。
彼女は、何かあればすぐに誰かのせいにした。決して自分の間違いを認めず、反省もしなかった。だから、同じ間違いを延々と繰り返してきた。だが、鉄格子の内で手にした一冊の絵本が、彼女を変えた。
物語は『狼少年』。自ら本など読んだことのない彼女にとって、嘘が重なり、真実が誰にも届かなくなった少年の話は、「学ぶ」という言葉の意味を突きつけた。少年の本当の間違いは、嘘をついたことではない。嘘を反省せず、また繰り返したことだ。
「学ぶ」とは、自分の間違いを知り、反省し、改めること。それなのに、私は。他人のせいにし、謝りもせず、何も学ぼうとしなかった。私がずっと愚かなままだったのは、当然だったのだ。こんな簡単な物語に、教えられるまで。彼女は、ゆっくりと本を閉じた。すべてを、理解した。私が本当に殺したかったのは、間違いを直さない自分自身だったのだと。
その単純すぎる事実にたどり着いた時、涙がこぼれた。なのに、心は不思議と静まっていた。誰かを憎む苦しみから、やっと自由になれた。
その時だ。独房のドアに看守が立った。ガチャリと、鍵の開く音が響く。彼女は、すっきりとした顔で静かに立ち上がった。
「もっと早く、この本を読んでいたら」
だが、もう遅い。彼女の物語も、これで終わりなのだから。