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7話 なんかまた恨まれてる

「鑑定を頼む」


「承知しました【死神】様」


俺は迷宮から街へと戻り、そのまま納品所に足を運んでいた。

容量が拡張される能力のある魔術袋に、詰め込んだ財宝の数々を取り出して提出する。


もみ手をしながら、モノクルを掛けた初老の男性が受け取る。

名前は確か、セルブスといったか。

彼は唯一と言っていいほどに、この街で俺を遠ざけることない人物だ。


慣れた手つきで、金になる財宝と、魔術具とを分けていく。

分別が終わったら、次は鑑定を行っていく。


「魔術具については、効果の検証が必要なため数日いただきます。それ以外の財物はすぐに終わりますのでしばし待たれますよう」


「ああ、よろしく頼む」


俺は少し離れた位置に備え付けられている椅子に座る。

この間も、俺に向けられる視線が痛いので、俺は腕を組みながら目を瞑って待つことにする。


目を閉じてさえいれば、時間も過ぎるし格好もつくというものだ。


「終わりました【死神】様」


セルブスが俺を呼ぶ。

一度片目で確認してから、立ち上がる。


「換金額はこのようになっております」


セルブスが此方に差し出したのは紙幣。

この国で発行されている紙幣であり、国王の顔が印刷されている。


「……うん」


十分な金額である。

俺は財布に紙幣を入れる。


俺は納品所を出る。

そしてすぐ隣に併設されている冒険者ギルドへと入っていく。

扉を開けると、またも鋭い視線が俺に向かって突き刺さる。

しかし、なんだろうか。


いつもとは違って、疑惑のような感情が含まれている気がする。

それに喧騒に満ちていたギルド内も、幾段か静かである。


一体なんなのだろうか。

俺は冒険者の顔を確認しながら、受付嬢の元へと歩いていく。


受付嬢との距離が近づけば近づくほど、疑惑の念は深まっていくのを感じる。


「……お待ちしておりました」


この受付嬢はいつも顔色が悪いのだが、今の彼女の顔色はそれの二倍くらい悪い。

瞳も、声も心なしか震えている。


「迷宮を攻略した」


俺は今にも倒れそうな受付嬢を気遣い、ごく短文で要件を言う。

迷宮を攻略すれば、数時間後に迷宮は掻き消える。


後日迷宮に行った冒険者がいれば、無駄足になる。

それを避けるために、迷宮を攻略したのなら報告が義務付けられている。


受付嬢は迷宮の情報が書かれた書類を取り出して、該当迷宮の部分を破く。

これは魔術具であり、同一の書類を作り同期させることで編集情報が共有されるという便利アイテムだ。


「一点、お聞きしても……?」


「ん?」


受付嬢が書類を破いているのをぼーっと見ていたら、うつむいた彼女から声を掛けられる。

受付嬢の肩は震えており、明らかな異常である。


普段俺への当たりがキツイ彼女であるが、流石の俺も心配する。


「迷宮攻略中に、人を見ませんでしたか?」


「人……」


受付嬢はすがるような顔を俺に向ける。

俺は真面目に、記憶をたどる。


人、人、人……。

ああ、もしかしたら。


アールヴのことだろうか。

人っぽいし。


というかそれしかわからない。

あの迷宮に入ったのは俺だけだ。


それは事前に書類で確認している。

人を殺したとか、そういう線は無いだろう。


「あれは人ではない」


だから大丈夫だと笑いかける。

恐らく彼女はアールヴのことを人だと思ってしまったのだろう。

わかんないけど。


「——っ」


息をのむ音。


「?」


俺は首を傾げる。


「はぁっ、はぁっ……うぷ」


受付嬢は口元を抑えて、裏口へと走って行ってしまう。

大丈夫だろうか。


「ふむ……」


とりあえず、帰るか。


「お待ちください」


横から、声を掛けられる。

そちらを見て見れば、ツインテールの受付嬢がいた。


「なんだ」


「なんだ。って……!?」


ツインテ受付嬢は俺を人差し指で指差す。


仮にも受付嬢なのに、あまりにも行儀が悪いのではないだろうか。

採用担当は少し考えた方が良い。


「よくもまあ、そんなふざけたことが言えますわね!」


ツインテ受付嬢は激高した様子で、俺に人差し指を向け続ける。


「あの子を見て!よくもそんなことを!」


一体何に怒っているのか、わからない。

俺は溜息を吐く。


「もういいか、帰っても」


俺は返答を待たずに冒険者ギルドを出る。

後ろではあのツインテ受付嬢が喚いているが、気分が悪い。


人に人差し指を向けるのは、呪いであると教わらなかったのだろうか。

場所が場所であれば、罪にも問われるほどの行為だ。


そんなに恨まれているというのか?


「はぁ……」


なんかまた恨まれている。

だがとりあえず、家に帰ろう。


――――――――――

―――――——

―――――


「あああああああああああああああああああ!」


受付嬢は、裏口に出たところで、我慢の限界を迎えた。

ギルドの壁を吐瀉物で汚す。


幸いにも、裏口であったため人に見られることは無かった。


もはや胃液すら出ず、代わりに出るのは慟哭であった。


【死神】のせいで人が死ぬのは、これまでにも数多くあった。

その度に受付嬢は心をすり減らした。


しかし、今回は。

今回だけは、ことが違った。


「あああああああああああああああああああ!」


後悔が、腹を、喉を突き破る。


冒険者の彼らの方が、【死神】よりも先に帰ってくるはずなのだ。

そのために帰還用の足を用意していた。


しかし、帰ってきたのは冒険者ではなかった。

【死神】だけが先に帰ってきた以上、結果はわかってしまった。

彼らは帰ってこないと。


自分が冒険者の彼らを、【死神】の元へ向かわせなければ。

彼らが死ぬことはなかっただろう。


【死神】は人ではない、と答えた。

あれはアールヴと同様に殺したという暗喩であろう。


なぜならば、あの男は嗤っていた。

罠だったのだ。


自分が彼らを向かわせることも。

受付嬢は自分が手のひらで踊らされていたことに気付く。


「はっ、はっ、はっ……」


となれば。

彼らを殺したのは自分である。


【死神】の計略に気付いてさえいれば、彼らが命を落とすことは無かったのだ。

いや、気付いていなくとも、彼らを向かわせなければよかった。


全てが、自分の責任だ。

彼らを殺したのは【死神】ではなく、自分なのだ。


これでは、自分こそ死神だ。


その自覚が、受付嬢を苛む。


「いや……」


受付嬢は、壁を強く叩きつける。

何度も、何度も、何度も。


血が滴り落ちてくる。


「私は決めたんだ……!」


痛みと後悔のまま、空に叫ぶ。


もう二度と、彼らの二の舞にはさせない。

もうこれ以上、【死神】の鎌にかけられることを許さない。


「【死神】を、潰す……!」


そのためならば、この命を捧げよう。

この復讐は、誰にも渡さない。

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