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5話 そこにいるのはわかっているぞ……

「ーーーーーーー!」


声になっていない音を発しながら、魔物がこちらに突撃してくる。

魔物の種族名は確かアールヴ。


人型の魔物である。

正しくは精霊の一種らしいが。


多種多様な魔法を使い、離れた位置から人を撃滅するのが特徴だ。

しかし今目の前にいるアールヴは魔法を使わず、突貫してきている。


俺は冷静に両手に持った大鎌を振り下ろす。

白兵戦が得意な魔物ならいざ知らず、遠距離戦が得意なアールヴは迫りくる大鎌を感知することすら敵わず、綺麗に両断される。


「次」


俺はまだ残っている大量のアールヴを睨みながら、大鎌を構えなおす。

先程俺に斬られた個体がなぜ突撃してきたのか。


それは目の前にいるアールヴ達を見ればわかるだろう。


「「ーーーーーーーーーー!」」


アールヴ達は魔法を使う。

牽制程度ではなく、使用に時間がかかる魔法を。


突撃してきた個体が稼いだ時間で、魔法を構成していたのだ。

要は肉壁である。


知性を持つ魔物は、往々にしてこういったことがある。

人間と同程度かそれ以上の知性を持っていれば、そういうことは少ない。


しかしアールヴの知性は存外に低い。

生半可な知性では、道徳というものが無い。


悪いことと良いことを知らぬ子供が、過ぎたる力を持ってしまったように。

醜く笑って、仲間である同族を切り捨てるのだ。


「仲間を殺すなんて、酷いことをするものだ」


俺は一歩踏み出す。

それと同時、魔法が発動される。


アールヴ達から、巨大な網が射出される。

否、それは網ではない。


文字通り、魔法を編んでいる。

避けられないよう逃げ場を無くすように、網の形へと魔法を変化させたのだ。


網は攻撃魔法だ。

恐らくこのまま突っ込んだのなら俺はたちまち網に体を裂かれて、サイコロステーキになってしまうことだろう。


まぁ、しかし。

後ろへと下がれば問題は無い。


網の形へと変化させたのは良いが、それをするならば退路を無くしておくべきだ。

そこらへんが、知性が足りない証左である。


だが敢えて俺は前に出る。

この程度、脅威に入らない。


「【断ち切れ】」


俺は迫りくる魔法を前に、大鎌を中段水平に構える。

腰を起点に、遠心力を着けて網へと大鎌を薙ぐ。


爆発。

魔法が崩れたことによる現象である。


加えてその場から土煙が発生する。

アールヴから俺の居場所が見えなくなった。


証拠に俺を探そうと、土煙が舞っている地点を探している。

魔法が突如としてアールヴ達の制御を離れ爆発したことに加えて、俺が何らかのアクションを起こしていたのを見ていたため探しているのだろう。


それを言語として表すのなら。


「あの人間はどこに行った……!?って?」


「ーーーーーーーー!?」


大鎌を振り下ろす。

そのまま流れるように、横薙ぎ。


「驚いた顔は人間に似ているものだね」


俺は大鎌についた血を振って落とす。

大量にいたアールヴは全員、殺した。


顔を見てみると、例外なく驚きに満ちた顔をしている。


「……こう見ると、大量殺人犯みたいだ」


鎌を納めながら苦笑する。

人間のような姿形をしているせいで、傍目から見れば、街でさんざん言われた俺の評判通りの快楽殺人鬼であると映る。


これが大衆の目にさらされていなくて良かったと思う。

本当に。


「さあ、次だ」


何はともあれ、俺は石畳が続いている迷宮を進む。

迷宮主がいる場所に行きつくまで。


―――――――――

――――――

――――


俺は迷宮主がいる扉の前までたどり着いた。

なぜわかるのか。


それはこの扉がやけに巨大で豪華な意匠が凝らされているからだ。

それに扉の奥から感じる一際強い気配。


「開けゴマ」


俺は扉を両手で押す。

地面に擦れて大きく音が鳴る。


「あれが」


目の前に立っていたのは、人間よりも二回りほどの大きさを持つ二足歩行の馬。

とても気持ちが悪い。


人馬一体の魔物にケンタウロスという魔物がいる。

目の前の迷宮主はそれの亜種であろう。

俺も見たことが無い。


しかし気持ち悪い。

綺麗に二足で立っているのだ。


「貴様が侵入者か!ヒヒン!」


やけにいい声で鳴く迷宮主。

声のお仕事とかできそうだ。


「……ああ」


俺はなんとか返すも、顔は仏頂面だ。

正直まともに見ていたくない。


「我の名はケンタウロス二世(仮)!元は普通のケンタウロスであったが気付いたらこうなっていた!」


ケンタウロス二世は腕を組みながら言う。


「これもある意味人馬一体だな!ヒヒン!」


「やかましい」


俺は大鎌を構える。

ケンタウロス二世はそれに気づいて、ファイティングポーズをとる。


見事なステップも踏んでいる。

しかし、仕草が人間に似すぎていて、気持ち悪い。


「いざ尋常に勝負!ヒヒン!」


「【断ち切れ】」


大鎌をケンタウロス二世に向かって振るう。

とりあえず首を狙う。


「何!?」


ケンタウロスは驚きに声を挙げつつも、咄嗟に前に跳ぶことで大鎌から逃れる。

勘の良い馬だ。


「貴様!いつ動いた!?」


ケンタウロス二世は即座に態勢を立て直してこちらに突撃してくる。

俺に向かって右に左に大きくステップしながら近づく。


「ヒヒン!」


速い。

拳が迫ってくる。


だが、避けられないほどではない。

体を軽くずらすことで紙一重で避ける。


そのまま、片手に持った大鎌で腹を薙ぐ。


「——っ!?」


腹に衝撃。

直前で鎌を引き戻して防御したものの、それがなければ致命傷であった。


想定外だと思いつつも、前を向く。

そこには、片足を上げてこちらを見ているケンタウロス二世がいた。


「我、馬である。故に足は強いぞ!ヒヒン!」


足か。

失念していた。


自省しながらも、俺はゆっくりと立ち上がる。

大鎌を後ろに引く。


「【刈り取れ】」


俺はケンタウロス二世を見据える。

体を揺らす。

集中。


―――――――今。


「な——?」


首が落ちる。

遅れて、体が崩れ落ちる。


巨体が崩れ落ちたことで、地響きがする。


「ふぅーーーー……」


大きく息を吐く。

疲れを癒すために座る。


「やはり、難しいな」


俺は大鎌を置く。

今やったのは俺が【死神の歩法】と呼んでいる技術だ。


気付けば死んでいる。

それを体現した技術。


意識の空白というものが生物にはある。

空白では生物は何も知覚できない。


正確には、動きを認識できない。

まず体を不規則に揺らし、武器と言う脅威を体で隠したことで、意識の空白を意図的に長くした。


その間に一足で飛び込んだ。

音を立ててはいけない。


あくまでも、意識の空白は視覚に表れるからだ。

音を立てずに、一足で。


ケンタウロス二世の首に、大鎌をひっかけるようにして断った。

奴は自分が死ぬその瞬間まで死を認識できずにいた。


俺の切り札ともいえる武器だ。

確かに強いのだが、あまり使いたくはない。


何と言っても疲れる。

空白を見つけるために極度の集中をするため、終わった後すさまじい疲労がかかるのだ。


そして一対一でしか使えない。

第三者には普通に動いているのが認識できるため、大体防がれる。

集中しなければいけないので、周りが見えづらくなるのもある。


普段は疲労を抑えるために簡易版の歩法を使っている。


「あーーーーつかれた」


俺はそう言いながらも、ゆっくりと立ち上がる。


「さて、お宝の時間だ」


ケンタウロス二世の死体、その奥にはさらなる扉があった。

あそこには、迷宮主がため込んでいる宝物庫がある。


純粋に高価な宝石であったり、稀に魔術具と呼ばれる特殊な効果がある道具が発見できる。

宝石であれば売り、魔術具は自身で使うというのが冒険者の基本的なものである。


俺もまたその例に漏れない。


俺は扉を開く。

その前に。


「おい」


扉に手を掛けたまま、どこかへと声をかける。


「そこにいるのはわかっているぞ、出てこい」


低い声が、迷宮主の部屋に響く。

しかしいつまでたってもその言葉に応答する存在はいない。


まあ、いたら驚くが。

単純に、言いたかったから言っただけである。


「ふん、臆病者め」


俺は今度こそ扉を開く。

目の前に広がるのは財宝の数々。


「うっひょ」


俺は夢中で財宝を袋に詰めるのであった。


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