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2話 秘密の部屋ってコト……!?

「さて」


冒険者は家を持っていることが少ない。

冒険者の平均収入は職業平均よりも高いのだが、装備のメンテナンス代や購入費用などで出費がかさんでしまうからだ。


それに加え、危険度の高さ。

死亡率の高さと言い換えてもいい。


いつ死ぬかわからないのに、金を貯めて家を買うやつは少ないのだ。

家を買うよりもその辺の宿屋で暮らし、浮いた金で快楽に耽る。


その日暮らしの職業である。

だがそれは普通の冒険者の話である。


俺は【死神】の二つ名を持っている。

つまり、高位冒険者であるということだ。


高位冒険者からは家を持つ人間が増えていく。

収入が段違いに増加するからだ。


多大な節制や我慢を強いられる中位冒険者以下とは異なり、高位冒険者は少し我慢すればいいだけで家が買える。


それに所有物が増えたり、盗まれないようにと安全面からの理由もある。


高級宿か、家を買うか。

その二択が高位冒険者がとる選択だ。


しかし俺は。


「はぁ……」


溜息をつく。

俺は郊外に家を所有している。


それも豪邸と言っていいほどの広さの。

訓練できる程度の広さの庭もついている。


他の家持冒険者と比べても、恵まれていると思うだろう。

だがこの家は俺が望んで手に入れたものではない。


なぜこの家を持ったのか。

それは単に遠ざけられているのだ。


まったくの冤罪であるが、迷宮で完全犯罪をしている快楽殺人鬼としてこの街では通っている。

まったくの筋違いであるが、死んだパーティー仲間の遺族に恨みを持たれている。


大多数は報復を恐れて沈黙を貫いているが、何も失うものが無い人——俗にいう『無敵の人』はその限りではない。


以前、この家を買うまでは宿屋に住んでいた。

そこでも白い目で見られていたが、俺は大人しく生活していたのだ。


宿屋の主人も、何もしていない《《善良》》な俺を追い出すことはできなかった。

問題のない人間を期限前に強制的に追い出すと、この国の法を侵すことになるからだ。


主人にとって不幸だったのは、宿泊当時の俺の顔を知らなかったことだ。

宿泊受付時に宿泊を拒否することは適法であり、俺の顔さえ知っていれば拒否をしていただろう。


そんな折、俺に恨みを持つ人物が就寝時の俺を襲ってきたのだ。

その人物は五体満足で冒険者を引退した経歴を持ち、引退し、ろくに体が動かないであろう晩年でさえ、なかなか強かった。


俺は殺さずにそいつを取り押さえることにした。

相手は殺しにきたとはいえ、認識の錯誤がある。


多分善良な人間を殺すのは倫理に反する。

苦心しながらも、俺は相手を傷つけることなく無力化することに成功した。


そして衛兵に突き出して一件落着となった。

そして俺が宿屋に戻ったとき、受付に立っていた主人が言ったのだ。


『出て行ってくれ』


此方に恐れを感じていながらも、笑っていた。

問題行動を起こしたため、俺を追い出すことができたのだから。


しぶしぶ俺は従い、次の宿を探すこととなった。

しかし俺の悪評はその頃には町中に広まりきっていた。


誰も俺を受け入れてくれる宿はなかった。

ならば家を買おう。


俺は物件を探した。

売ってくれなかった。


此方の評判に関わるからと。


俺は悪くないのにどうしてこうなったのだ、と愚痴りながらもめげずに探していると、一つだけ売ってくれる物件があった。

それがこの豪邸である。


郊外の森に建てられていること。

そして入居者が一週間以内に漏れなく全員非業の死を遂げた、曰くつきの物件であることの二点から、俺にも買うことを許された。


思惑があったにせよ、俺にはこの家を買う選択肢しかなかった。

そうして俺はこの家を買った。


「管理が大変だ……」


この家に住んでから一年が過ぎるのだが、何事も無く生きている。

しかし、思うことがある。


豪邸故、掃除が大変なのである。

回りは自然に囲まれているため、気付けば壁に蔦が生えていることなんてざらにある。


人を雇おうと求人を出したこともあるが、家主が俺であると知ると全員逃げていった。

仕方なく俺は一人で家の管理を行うことにしたのだ。


俺は朝起きて、掃除をしてから食事をとる。

それ一週間に一度のルーティーンとしていて、今やっている途中である。


「……ん?」


掃除用の魔術帚で、廊下を掃いていたとき。

俺は見覚えのない扉があることに気付いた。


血が滴るような赤い装飾、まるで奥の部屋から逃げ出そうとしているかのような手のデザイン。

貴族屋敷のようなこの家のデザインとは一線を画している。


「こんな扉、あったか?」


首を傾げる。

何回も掃除をしているのだ。


それに不協和音を生じさせるデザイン。

覚えていないわけがない。


だがしかしこんな場所に扉があった記憶なんてない。

どれだけ記憶を掘り返しても、この通りには壁しかないはずである。


「……開けてみるか」


俺は意を決して扉を開けることにした。

ドアノブを回し、中へと押し入る。


「暗いな……」


中の部屋は、不自然なほどに暗い。

開けたドアからは、光が差し込んでいるはずなのに。


まるで、この部屋の闇が光を食べているかのように。


後ろを振り向いて、ドアを確認する。


「……?」


無い。

ドアが無い。


というか見えない。


「『灯せ』」


俺は一本指を立てて、光の玉を指先に発生させる。

魔法による光源が、闇に包まれていた部屋を照らす。


そして見えたのは。

文字。


文字である。

壁はもちろんの事、床にも、天井にも。

許された空間すべてに、文字が敷き詰められていた。


「なんて書いてあるんだ?」


解読不能。

見たこと無い文字である。


しかし一定の規則性があることは見て取れる。


「とりあえず戻るか」


少し興味深いが、俺は戻って掃除を再開することにした。

ごはんの時間が遅くなってしまうから。

明るくなったことで、ドアも見えた。


「—————」


りん。

リン。

鈴。


「——誰だ」


鈴の音。

確かにそれは背後から聞こえた。


俺は警戒しつつ即座に振り向く。


「子供……?」


そこには、小さな体躯をした。


「いや」


子供ではないナニカが立っていた。


「何者だ」


ナニカには、手があった。

ナニカには、足があった。

頭があった顔があった口があった髪があった頭があった顔があった服を着ていた口があった髪があった顔があった頭があった指があった首があった耳があった頭があった目が合った。


ナニカは、幼児が描いた笑みのような歪さで。

東国にあると言われる着物を着て、此方にお辞儀をした。


「ようこそ、体の部屋へと」


蠢いた笑みを見せる。


「体は、より強い死を纏う貴方を主と仰ぎます」


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