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20話 責任の所在

「…………」


「…………」


俺は馬を駆っていた。

後ろにアリスを乗せて。


行きに使ったもう片方の馬は、魔術によって帰巣本能が強くなっている。

今頃は街についているだろう。


俺たちの間には沈黙があった。

馬の蹄の音が響き、揺られる。


「……私の腕、もう無いんだな」


「ああ、そうだな」


治療院で目覚めてから、ずっと黙りこくっていたアリスが、無くなった右腕を抑えていた。

彼女の右腕は、つながらなかった。


医者が言うには、鎧の魔術具のせいなのだと。

装着者の傷を癒す魔術具のせいで、医者の方に行った時にはもう傷が塞がってしまっていた。


そうなってしまえば、欠損した部位はつながらないのだそう。


「不思議な感覚だ。自覚した今でも、腕があるかのように思ってしまう」


「…………」


「右腕の感覚が、まだあるのだ」


幻肢。

腕や脚を欠損した者がまだそれらが存在している錯覚してしまう。


「後悔、しているか?」


俺の助けを待てばよかった。

それは言えなかった。


結果として救われたのは自分だったから。


「いや、していないさ。あの状況で、私は間違ったことを何一つだってしていないと断言できる」


「そうか」


「なあ、マデス殿」


馬を駆る。


「私は、騎士として恥じないことができただろうか?」


「ああ。感謝する、騎士アリス殿」


馬は駆けていく。

それから街にたどり着くまで、会話らしいものはなかった。


だが不思議と気まずさは無く。

ただ心地よさがあった。


―――――――――

――――――

――――


受付嬢は目の前に広がる現実を、受け入れたくはなかった。


「さて今回の件、一体全体どういうことだ?」


カウンターから引きずり出され、ギルドの支部長室に備え付けられたソファーに座っていた。

隣には痩せぎすの初老の男性——支部長が座っていた。


そして正面には、【死神】マデスと、黒灰騎士のアリスが座っていた。

アリスの右腕は無く、彼女自身もそのことを気にしているのか時折自分の右腕部分を見ている。


【死神】自身もいつも着ているローブが無く、布地の下に巻かれた包帯が見え、決して軽くない負傷を負っているのがわかる。


しかし、なぜ生きている?

これまでにいくらも自問した問いだったが、答えはない。


「今回の件、とは?」


支部長はしらばっくれる。


「ギルドが迷宮のリストの改竄を行ったことについてだ」


「なんのことでしょうか。言いがかりは止めて欲しいですね」


死神は一度目を瞑る。


「冒険者ギルドは元々、国家間で承認された【迷宮探査機構】として作られた。だが、いろいろとルールを作っておかなければならなかった」


「!!」


受付嬢たちと【死神】たちを分かつように置かれているテーブルに、死神は指を叩く。


「迷宮法第三条第一項、各迷宮の情報は迷宮探査機構が所有する。同条第二項、迷宮情報を編纂できる人物は、支部に一人のみに限定し編纂方法を厳重に管理し、これを遵守すること。編纂の権限がある人物……つまりあんただ、支部長」


「……私が、情報改竄をしたと言いたいのですか?」


「いや?少し違うな」


【死神】はすぐさま支部長を否定する。

そして代わりに見たのは、受付嬢だった。


「お前だよ、改竄を行ったのは。そして支部長はそれを容認または見逃した」


「っ!?」


「何を勝手な……」


【死神】は溜息をつく。


「まあ、勝手な憶測だ。だが、こうして問題が起きたのだ。調査が入るだろうな」


死神の目は、隣に座っているアリスに向けられていた。

だが支部長は死神の視線の意味に気付かなかった。


「そんなもの、入るとでも?」


【死神】が行ったことを支部長は笑い飛ばす。


「し、支部長……!」


まずい、そう思った受付嬢は声を上げて支部長を諫めようとした。

彼は目の前にいる人物がどんな人間か知らないのだ。


今の《《彼女》》は、鎧を身に着けていない。


「疑念?あなたの上げた声など、誰も気にしませんよ。貴方の事など、この街の誰もが信用しない。それどころか……いえ、ふふ」


「貴様……!」


アリスが、剣に手を掛けようとする。

が、【死神】がそれを静止させる。


「俺の事は信用しなくとも、彼女ならどうかな?」


「ふむ?」


支部長は、ようやくアリスのことを見る。

だが首をひねる。


ただの不幸な冒険者であると思っている。


「……星室庁査問官アリスだ。査問官でも不十分か?」


剣呑な視線を支部長、そして受付嬢に送る。

【死神】に静止されたものの、左手は剣に手を添えている。


「……!?」


支部長は大きく目を見開いている。

受付嬢は、もともと知っていたため、それに対しては驚かなかった。


代わりに感じるのは焦り。


「申し訳ありませんでした!」


受付嬢は頭を下げて謝罪する。


「今回の《《事故》》で貴方に怪我を負わせてしまったこと、ここに深くお詫びいたします。私たちの身の潔白が証明されるまで、とことん調べてください!」


「な……!?」


受付嬢は、今回の事件はあくまでも不幸な事故であることを強調した。


「……いいだろう、では追って調査に入ろう。今は生憎と任務中なのでな」


受付嬢は頭を下げ続け誰にも見えない位置でほくそ笑む。


「ああ、そうだ。逃げるなよ?逃げたら貴様らを犯罪者と断定し、斬り殺す」


「そ、それは……」


「何、逃げなければよいのだ」


そう言って、【死神】とアリスは退出していった。

受付嬢は、彼らが完全に消えるまでずっと頭を下げ続けた。


受付嬢は、アリスの印象が先日とは全く異なることに違和感を覚えた。

先日は、犯罪者は法で裁くと言っていたのに、今回は斬り殺すと。


隻腕となったことで考えが変わったか?


「おい、どういうことだ!?」


支部長が、受付嬢に向かって唾を飛ばす。

見るからに焦っている様子だ。


「もう、私たちは終わりなんですよ」


【死神】の言う通り、受付嬢たちは迷宮情報の改竄に手を染めていた。

それが故意であったと判明されれば、一発で死刑となるレベルの罪だ。


だがバレなければ良いと思っていた。

彼らが死んでくれればよかったのだ。


声を上げる者がいなくなれば、この犯罪はバレること無かったのに。


「貴様のせいだ!全部!」


事実、この話を持ち掛けたのは受付嬢だった。

支部長はそれに賛同し、改竄の許可を受付嬢に出した。


実行に移したのは、受付嬢だった。


「……あの黒灰騎士が此方に調査にやってくるまでにある程度時間はあります」


任務で来ていたことはもとより把握していた。


「その間が、最後のチャンスです」


次の策を考える。

外の空気を吸おうと、外へ出る。


扉が、音を立てて閉まる。


「——こんにちは、いい天気ね」


「——え」


胸から、似つかわしくないものが生えていた。

それは。


「刃、物……?」


吐血。

なぜ?どこから?いったい誰が?


焦点の合わない目で、後ろを見る。

そこにいたのは、見目麗しい女だった。


嗤っている女を見ながら力を失い、崩れ落ちる。

受け身すら取れない。


「わ、だし……ま、だ」


息ができない。

頭が働かない。


それでも、思うのは【死神】の姿だった。

最愛の人ではなく、それを奪った男の姿。


憤怒と後悔、そして無力感に苛まれながら。


受付嬢はあっけなく命を落とした。





「あは、たまにはいいわね、外での殺人も!」


受付嬢を殺したのは、ハイネだった。

罪悪感など微塵もなく、そこにあるのは快楽。


「それにしても……」


ハイネは受付嬢の懐から、一枚の紙を奪いとる。

そこに書かれているのは、マデスたちが攻略した迷宮の情報が描かれていた。


「さすが、私のダーリン!……邪魔な女がいたのは減点だけど」


迷宮には、本来の情報が描かれていた。

恐らくすり替えておいたのだろう。


「迷宮難度、攻略不能」


それが意味するのは。

即ち、冒険者の頂点である最高位冒険者が攻略せねばならない大陸危機。


一級すらも凌ぎ、最高位以外の冒険者の立ち入りを禁止されるほどだ。


「ああ、やっぱり貴方は私の運命。……ねえ、ダーリン」


踊るような足取りで、その場を離れる。

少し経ってから、受付嬢を見つけたのか、女の悲鳴が聞こえる。


それを心地よさそうに聴きながら、マデスを想う。


「もうすぐ、会えるわ。その時はどうか」


その瞬間が訪れることを、他でもない自分自身が願っていた。


「——私を殺してね(愛してね)







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