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11話 何を見る

「わ、私とパーティーを組んで迷宮に挑んでくれないかっ……!?」


第一声が、それであった。


俺は唖然とする。

周囲の人々も、唖然としている。


俺はいきなりの事に。

周囲の人々——冒険者は、【死神】という名の意味から。


「ど、どうだろうか?いや、無理に決まっているだろうな……私なんか……」


渦中の黒灰騎士だけがその時動いていた。


「……いきなり、なんだ?」


俺は正気に戻って、すぐさま言葉を絞り出す。

次いで冒険者たちも正気に戻り、元の喧騒に包まれていく。


俺は冒険者ギルドに足を運んでいた。

ギルドへの扉を開けた瞬間に、先日見たことのある黒灰騎士アリスがこうして声をかけてきたのだ。


「あー、嬢ちゃん。そいつは止めておいた方が良い」


俺の顔色を窺っているアリスに、冒険者の一人が声をかける。

アリスは俺から視線を外し、冒険者の方を見て首を傾げる。


「なぜだ?」


「なぜって、そりゃあ……」


冒険者は、その先の言葉を言えない。

俺の方を向いている辺り、報復を気にしているのだろう。


「そいつが殺人鬼だからだ!」


また一人、冒険者の声が響く。

まだ朝だというのに、酒を片手に酔っぱらっている。


「嬢ちゃん、そんな奴は放っておいて俺たちと遊ぼうぜ?」


酔っぱらいの冒険者はアリスへと手招きをするが、当の本人は首を傾げるだけであった。


「なぜ、殺人鬼とわかるのだ?」


「あん?」


「本当に殺人鬼であれば、法に裁かれるだろう。だが彼は裁かれていない」


なぜ、とアリスは純粋な眼で冒険者たちを見回す。

冒険者たちは何も言えずに沈黙する。


「【死神】マデス殿、再度言おう」


沈黙した彼らを横目に、俺の方へと向き直る。


「私と、パーティーを組んでくれないだろうか?」


「……まあ、いいだろう」


思うところはあれど、とりあえず俺は了承する。


「本当か!?」


アリスの表情が数段明るくなる。

反対に冒険者たちからの感情は、暗いものとなっていく。


「…………」


「そ、それでは迷宮に行こうではないか!」


アリスは俺の方へ——正確には冒険ギルド出口へと向かう。


「待て」


「な、なんだ?」


アリスは少し肩を跳ねさせて、立ち止まる。


「どこの迷宮に行く気だ?」


「え?」


アリスの様子に俺は溜息を吐く。

やはり、案の定だ。


俺は溜息をついて、歩を進める。

アリスを通り過ぎて受付嬢の前まで。


「二級迷宮を」


「お、おい?」


俺は受付嬢に二級迷宮の情報が描かれたリストをもらう。

受付嬢の渡す際の態度が悪かったため、アリスが一瞬眉を顰めたがそれに構うことなくリストを手に取って眺める。


「ここだ」


俺は受付嬢にリストを返却する。


「……これは」


俺が指定した迷宮の情報を軽く眺めた受付嬢は、顔を顰める。

アリスはその表情を観察しつつも、困惑しているようだ。


「迷宮に入るためには、特定機関からの認可が必要になる。ここ冒険者ギルドや騎士団、枢法院などがこれに該当する」


俺はアリスを見る。

恐らく、アリスたち黒灰騎士が所属する星室庁からも限定的に認可が下りている。


そのため俺と共にパーティーを組むことができるのだろう。


「……では、認可を得ない場合は?」


密猟者ハンターとして犯罪に該当する。一応国家の所有物となるらしいからな」


なるほど、といった風にアリスは頷いて見せる。


「な、なんだその目は?」


「いや……法的機関の騎士なのに、法律を知らないのかなと」


「…………」


「…………」


「も、もちろん知っ——てぅ!?」


アリスが沈黙に耐えかねて何か言おうとした途端、ごん、と重い物を叩きつけた大きな音が響く。

肩を跳ねさせて、音の方向に体を向ける。


「少しよろしいでしょうか、アリス様」


―――――――――

――――――

――――


昨日会った彼は、やはり上官の言う高位冒険者【死神】であった。


アリスは去っていくマデスの姿を見届けてから、声をかけてきた受付嬢へと向き直る。

マデスと行動を共にする人間であること、そして見目麗しい姿をしている黒灰騎士であることが、アリスへの注目を集めていた。


アリスは居心地の悪さを感じていたが、胸を張って自信に満ち溢れたように振舞う。


「アリス様、貴女に聞かせてもらいたいことがあります」


「なんだ?」


第一印象は態度の悪い受付嬢だったが、マデスではなくアリスであれば丁寧な対応をしている。

マデスはそれほど嫌われているのだろう。


この受付嬢にはより一層。


「【死神】の殺人の証拠を掴んだらどうしますか?」


化粧では隠せないほどの濃い隈。

しかし強い意志を感じさせる眼光の強さを感じる。


「そうだな……」


アリスは、内心ではそれは無いだろうと感じていた。

さんざん節穴だなんだと言われるが、マデスは彼らの言うような人物ではないだろう。


だがもし仮に彼らが言う殺人鬼であるのならば。


「私の目は、節穴と言われることがある。真実を見通せぬ愚者の目だと」


そのせいで、昔にひどい目に遇ったことがある。

人を見る目は変えられない。


だが、判断基準は変えられる。

アリスは過去の出来事を教訓に、人となりの判断を明確に定めた。


「私は、私が見たものしか信じない。すでに起こった事象のみに判断を委ねる」


そのせいで、対応は後手になり状況はそれだけ不利となる。

だがしかし。


「仮に、彼が殺人鬼であったのなら……捕縛し法に則って処罰する」


黒灰騎士アリスには、それを加味しても問題を解決できる力がある。


「……そう、ですか」


受付嬢は、目を瞑ってアリスの言葉を咀嚼する。

綺麗なお辞儀をする。


「行ってらっしゃいませ、アリス様」






















「それでは、駄目なんですよ」

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