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9話 出会っちまったパート2

「だから俺は何もしていない!」


「いや、あの話を」


「大体何なんださっきから!時間を考えろよ!」


俺は空を指差す。

とっくのとうに夜になっている。


まったく、今日は厄日である。


「……すまない、本当に。時間を考えない馬鹿ですまない……」


アリスと名乗った黒灰騎士は虚ろな目で俯いている。

半笑いで虚空を見つめているのが少し哀れさを感じさせている。


「……帰っていいか」


「それは駄目だ、私が上官に怒られる」


きっぱりとした声であったが、彼女の表情は一切変わっていない。

いや、悪い方には変わっていた。


「ああ、また怒られるんだ……やだなぁ……」


「…………」


「!その目は……話を聞かせてもらえるのだな!」


「憐みの目だが」


なんだか身構えていて損した気分である。

誤認逮捕されてそのまま処刑なんて笑えなかったが、彼女も先程名前を付けたヤバい奴と同様に俺の事を知らないようだ。


いや、知らないのも当然か。

黒灰騎士と言えば、国王直轄である星室裁判所専属の調査員だ。


国王の命によってしか動かないが、ひとたび動けばそこに失敗はあり得ないと謳われるほどのエリート集団。

確か最低でも高位冒険者程度の実力者で構成されているはずだ。


「…………」


「なんだその目は」


「いや……」


俺は頭を振る。

確かに彼女が身に着けている鎧と剣には女神と天秤の紋章が彫り込まれており、彼女が黒灰騎士であることの証左である。


「……で、要件はなんだ?手短に頼む」


「応じてくれるのか!ありがとう!上官に怒られずに済む!」


こほん。

わざとらしくアリスは咳をする。


「私たちは王命により王都からこの街に赴いた」


「ああ」


アリスは先程までの威厳のない姿ではなく、騎士として差し支えないほどの威容を身に纏っていた。


「【アウレリアヌスの娘】の捕縛及び移送、それが王の課した命だ」


アリスは神妙な顔で、俺を見る。


「?」


「え、知らないのか!?」


「ああ、あいにくと俗世には疎くてな」


「そんな仙人みたいな……」


というか、この街の住民とは話をしないため情報が入ってこない。

強いて言えば冒険者たちであるが、俺のことを視界に入れた途端に世間話を止めて俺への侮蔑を口にするため、限りなくゼロに近い。


「【アウレリアヌスの娘】というのは、名の通りアウレリアヌス家に生まれた娘の事だ。その貴族家は奇妙な風習があってだな」


「それは?」


「成人するまで名前を付けないのだ。成人するまでは苗字しか名乗ることができない」


名前を付けないとは……。

変な風習だな。


「本来【アウレリアヌスの娘】と呼ばれる存在は四人いた。そして息子は二人。しかし成人している者も含め、現在アウレリアヌスの姓を名乗ることができるのはたった一人となっている。その一人が私たちの追っている存在だ」


「……ふむ」


不慮の事故でお家断絶一歩手前ということだろうか。

それで離れた場所にいた唯一の後継を探している……?


いや、それは黒灰騎士がやることではない。

黒灰騎士は刑事罰を受けるべき重大犯罪者を追う集団と聞いたことがある。

それを証拠に彼女は捕縛、と言っていた。


さらにもうアウレリアヌスの血族は彼女たちが追っている一人だけ。

それが導き出す答えは——。


「——殺したのか、自身の家族を」


「む、頭が良いな」


アリスの反応から察するに、あっているようだ。


「尊属殺……特に貴族は、重いだろう」


平民ならば、血が途絶えたところで大した問題ではない。

しかし、貴族であれば話は違う。


その成り立ちからして、血を重んじなくてはならないために重大な問題が発生する。

法衣貴族ならば、その席に穴が開き、国政に影響が出る。

領地を持つ貴族であれば、領地運営をする者がいなくなり領地が荒れることになるだろう。


そして今回の場合はおそらく、後者である。


「それだけであれば、ここまで大きな問題はなかった」


アリスは顔を少し俯かせる。

再度顔を上げる。


「領民実に三百二十。私たちがアウレリアヌス領にたどり着いた時には、地獄が広がっていた。生き残っている領民に話を聞いたところ、全員がアウレリアヌスの娘がやった、と言うのだ」


「それは……」


俺は内心、思うことがあった。


こいつが死神じゃねえか。


大量殺人鬼なんて目じゃないぞ。


「アウレリアヌスの娘は、もう他の街へと移動を始めていた。その先々でも奴は人を殺して回っていた。私たちが来ることを予見すれば、すぐさま逃げていった」


アリスは忌々しそうに顔を歪ませ、地面を蹴る。

溜息を吐いて、自身の感情を抑制する。


「そして追跡を続け、なぜか奴はこの街にとどまっていることを確認したのだ」


アリスは紙を出す。


「それは……」


「ああ、幸い奴は貴族であったからな、写し絵はあったのだ」


俺は写し絵を受け取る。


「見かけたことはないか?」


「…………」


「……おい?ちょっと、何か言ってくれると助かるのだが……」


「——てる」


「え?」


「知ってる」


「なんだと!?」


俺は写し絵を見ながら言う。

そこに描かれている少女は、鮮明に記憶に残っている。


なにせ、つい先ほど出会ったのだから。


俺はどこか合点がいく思いだった。

なぜ彼女が、名前を欲していたのか。


それが俺である理由は知らないが、欲していた理由自体はわかった。


本当に名前が無かったのだ。


「それで、一体どこで」


「ついさっき、ここで」


写し絵の少女は、俺が名付けた少女——ハイネであった。


やっぱりあいつヤバい奴だったじゃん。

方向も規模も規格外だったけども。


こわ。

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