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ペンギンとコウモリ

作者: 壊れた靴

 一日の終わりを知らせるように、太陽が海の向こうに沈もうとしています。夕焼けの赤い空の下、寄せては返す波が、小さな島に立つ若いペンギンの足元をさらっていきます。ペンギンはうなだれるように自分の翼を見つめていました。

 そこに、一日の始まりを知らせる夕日を楽しみとしている、年を取ったコウモリが羽ばたいてきました。群れのいる岸辺から海を隔てた島に、ポツンと佇むペンギンが気になったのもあり、コウモリは一休みがてら、ペンギンの隣に立つ木の枝に、逆さまにぶら下がりました。

「やあ、今日はきれいな夕焼けだよ。それも見ないで、どうかしたのかい?」

 ペンギンはコウモリを見上げると、大きなため息をつきます。

「あなたは空を飛ぶことが出来るんだね。羨ましいよ。僕も空を飛べたらどんなに気持ちいいだろう」

「大きな鳥に追われることもあるし、君が思うほど気楽なものでもないよ。飛べないことを気にしていたのかい?」

 ペンギンはゆっくりと頷きました。

「なんでも、僕らは鳥の仲間らしいんだ。それなのに、どうして飛べないんだろう」

「それを言うなら、私たちは鳥の仲間ではないよ。それなのに、どうして飛べるんだろう」

 ペンギンはコウモリが自分をからかっているように感じ、不機嫌に答えます。

「出来る分には、何も問題ないじゃないか」

「それだけを見れば、そうかもしれないね。けれど、私は飛べる代わりに、君のように地面に立つことも出来ないんだよ」

 穏やかなコウモリの声を聞いて、ペンギンは足に当たる波の感触に気付きました。

「だけど、僕らが鳥の仲間だなんて、本当なのかな。鳥なのに空を飛ぶことが出来ないなんて、おかしいよ」

「誰かにそう言われたのかい?」

 優しく尋ねるコウモリに、ペンギンは首を振ります。コウモリは微笑みました。

「私たちには卵がないから鳥でもないし、私たちには翼があるから獣でもない、そうして、どちらの仲間にもされないことだってあったものだよ」

 コウモリはしみじみとそう言うと、「もっともそれは、私たちのひとりが、都合のいいようにどちらの仲間にもなろうとしたせいでもあるのだけれど」と笑いました。ペンギンもコウモリにつられて、少しだけ笑ってしまいました。

「そんな風に、少しの部分を取り出して、それだけを見るのは、意味のあることではないと思うよ」

「だけど、だとしても、僕らには何が出来るんだろう?」

 コウモリは驚いて、枝にぶら下がったまま羽ばたきました。

「おや、君たちは泳ぎが随分と上手だろう。他の鳥たちに出来ることではないよ」

「そうだったんだ。それじゃあ、僕らは泳げる代わりに、飛べなくなってしまった、ということ?」

「そういうことだと思うよ。君たちは、空と同じくらい広くてきれいな海の中を、その立派な翼で思うまま、飛ぶように泳ぐんだろう?」

 ペンギンは、今までずっと、大きな体に見合わない短く頼りないものだと思っていた自分の翼を、もう一度見つめました。

「そう言われると、なんだか、この翼も頼もしいものに思えてきたよ」

「それは良かった」

 ペンギンが力強く頷き、コウモリが微笑みます。

 ペンギンとコウモリは、ほんの少しの時間、空を眺めました。

「さあ、もうすぐ日も完全に沈んでしまう。君はそろそろ戻った方がいい」

「色々とありがとう。お元気で」

「こちらこそ、お話できて楽しかったよ。お元気で」

 ペンギンはコウモリに頭を下げると、海に入りました。夕暮れの暗い海の中も、夜空のように広く美しいものに思えました。海の中を飛ぶように、群れのもとに帰っていきます。

 コウモリはペンギンを見送ると、日が完全に沈んでしまうまで、空を眺めました。赤い空は、いつもよりも更に広く美しいものに思えました。

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