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第1話 魔族創造

試し書き。反応良ければたまに更新予定。


「うあ~、今日も仕事疲れたな......」



 清川乃間(きよかわのま)は仕事帰り、そんなことを言いながら道を歩いていると、目の前に何か落ちている。


 拾い上げてみると、それは立方体の上に赤い円柱の乗った――いわゆる()()()だった。



「なんだこれ? ポチっとな~」



 何となくでボタンを押した瞬間、景色が一変する。



「えっ、えっ!?」



 何が起こったか分からずキョロキョロと辺りを見回す。


 そこは、一面白い壁紙で覆われた、何もない殺風景な小部屋だった。


 困惑する乃間の頭の中に、突如声が響いてくる。



「『五百億円ボタン』を押していただき、誠にありがとうございます」



 それは人間の声ではあるものの、妙に機械的な声だった。


 声には抑揚や感情が無く、まるで原稿を読み上げているようだ。



「私はこれから乃間様のサポートをさせていただきます、マーズと申します」


「ご、五百億円ボタン......?」



 乃間の頭の中に、先ほど押した赤いボタンがよぎった。


 しかし乃間の困惑をよそに、マーズは説明を続ける。



「乃間様にはこれから『異世界征服チャレンジ』を行っていただきます」


「い、異世界征服!?」


「乃間様は既に該当の異世界への転位を済ませております」


「えっ、じゃあ、ここがもう異世界ってこと!?」


「その通りでございます。この世界は第102番世界――複合世界アルマードと呼ばれる、乃間様のお生まれになった第3番世界とは異なる世界でございます」


「えっと、ちょっとまって、状況に追いつけない......」


「では、説明を続けさせていただきます」


「無視!?」



 乃間の混乱も気にせず、マーズは説明を続ける。



「先ほど申し上げました『異世界征服チャレンジ』について、その趣旨を申し上げます。乃間様には、これから乃間様が死亡するまでの間に、第102番世界アルマードにいる全ての生命の服従にチャレンジしていただきます。成功した暁には、第3番世界への転位および、報奨金五百億円をプレゼントいたします」


「ご、ごひゃくおく......」



 あまりの大金に気が遠くなる乃間であったが、気にせずマーズは説明を続ける。



「ただ、剣と魔法の世界――魔物が跋扈するアルマードにおいて、単なる人間である乃間様は無力です。そこで、一つだけ特別な能力を差し上げました――【魔族創造(デモン・クリエイト)】です」


「な、なにそのカッコいい能力......」



 乃間の厨二病心が擽られる。



「解説求む」


「はい。【魔族創造(デモン・クリエイト)】とは、この世界にかつて存在した魔族を乃間様の忠実な僕にすることができる能力です。【魔族創造(デモン・クリエイト)】を使用する際は、指を鳴らしてください」


「えっ? こ、こう?」



 パチンという音が部屋に響くと、乃間の前に青い光のディスプレイが現れる。



「うおっ!? なんだこれ、すげぇ。どんなハイテク技術だよ」


「そちらが、【魔族創造(デモン・クリエイト)】において召喚する魔族を選択する画面です。それでは、お好きな魔族を選択してください」


「えっ、そんなこといきなり言われても.....迷うな......」



 乃間はディスプレイを見つめる。


 ディスプレイには、選択されている魔族の外見とともに、その名前やレベル、ステータス、そしてそのキャラクターの説明が表示されていた。


 恐る恐るディスプレイを触ると、乃間の指に反応してディスプレイが動き出す。



「ミズラス......『人が苦しむ姿を見てエクスタシーを感じる異常性癖の持ち主』......うわっ、絶対ないわ。ゴルード......『異常な破壊衝動を持つ巨人』......いや、こんなのしかいないのか!?」



 悍ましい説明文に戸惑いつつも、乃間は魔族を上から眺めていく。



「クロフォード――『かつて勇者と激戦を繰り広げた魔族の王』......おっ、いいじゃん。『非常に高いカリスマ性を持つ』――良いことばっか書かれてるな。って、なんだか書類選考してる人事みたいな発言......。まあ、こいつにするか!」


「では、ディスプレイ右下にある召喚ボタンをたっちしてください」


「これか?」



 乃間はマーズに言われた通り、『召喚』と表示されているボタンをそっと触った。


 すると、目の前に巨大な赤い紋様が浮かび上がり、眩い光を放ち始める。


 あまりの眩しさに乃間は目を細め、腕の隙間からその行末を見つめる。


 紋様はしばらく光を放つと、その中央に赤黒い光で人の形を作り始めた。


 それは、まさしく【魔族創造(デモン・クリエイト)】のディスプレイに浮かび上がっていた、魔王クロフォードの姿であった。


 

「それでは、ご説明は以上になります。『異世界征服チャレンジ』の達成を目指して、頑張ってください」


「えっ、もう終わり!? まだ状況飲み込めてないよ!? 勢いで魔王召喚しちゃったけど!」



 それきり、マーズの声が聞こえてくることは無かった。


 しばらくすると、紋様が徐々に縮小を始める。


 人の形をした赤黒い光も消えていき、そこには黒髪の大男が立っていた。



「......ここは?」



 低い声が部屋に響く。



「そ、それはこっちだって言いたいよ! 結局ここはどこ!?」



 自分より二回りも大きな存在に少し怯えつつ、まだ現実感のない乃間は、そう言い返した。



「お前は?......なんだ? この気持ちは。初めて会ったはずのお前に、異様なまでの忠誠心と愛を感じる」


「お、おおーー、大胆な告白......」


「そうか、我は勇者に敗れ......そしてお前にこうして召喚されたわけだな」


「状況把握が早くて助かる。というかやっぱ敗れたんだ......」


「お前、名前は?」


「清川乃間。こっちもいきなり転移させられたらしくて、正直まだよくわかってないんだ。でも、とりあえず『世界征服』をしないといけないらしい」


「......世界征服、か。お前の望みは世界征服か。そういうことであれば、我も力を貸そう」


「とは言っても、まずはここがどこかの把握からしないといけないな。部屋から出てみるか」



 乃間はこの部屋に唯一ある扉を見る。



「流石に外出ていきなり即死、とかはないだろうし」


「大丈夫だ。周囲に大きな魔力を感じない。ここは......恐らく人間の住む街だろう」


「魔力感知とかできるのか、頼もしいな!」


「念のため、我の眷属に外の様子を探らせよう」



 クロフォードは手をかざすと、そこに影が集まり、蠢きながら増幅していく。


 影は闇へと姿を変え、膨張を続けると、やがて何かを形作った。



「ベヒモス。外の様子を見てきてくれ」



 ベヒモス――そう呼ばれた、豚の頭をした巨大な魔物は、クロフォードの指示通り行動を行う。


 ――外から悲鳴のようなものが聞こえてくる。



「大丈夫そうだな。我が先に出よう」



 クロフォードは扉を開けると、外に歩を進める。



「......やはり、人間の街だ。出てきていいぞ」



 乃間も外に出ると、そこには中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。


 街の人々は、悲鳴を上げながら逃げていく最中だ。


 中には腰をぬかし、祈るようにこちらを見る人々もいた。



「あー、目立っちゃってるよ」


「だろうな」


「だろうな、って。まあいいや、で、次は......どうすればいいんだ?」


「世界征服を行う活動の拠点となる場所が必要だな」


「拠点ね......それって、()()じゃだめか?」



 乃間は自分たちが先ほどいた部屋をチラリとみてそう言った。



「我は()()でも構わん。ここにするか?」


「いいんじゃない? 一旦は()()で。――ちょっとそこのお爺さん、ここってなんていう街?」



 乃間は腰を抜かして逃げられなくなった老人に声をかける。



「ひ、ひぃ......命だけは......」


「そんな、殺さないって! 街の名前だけ聞きたくてさ」


「ひ、ヒーウッド......ヒーウッド......」



 老人は戯言のようにその名前を繰り返した。



「ヒーウッドね、ありがとう! そういえば、確か拠点作りが得意な魔族がいたような。アイツを召喚するか」


「そうだな、では拠点作成のために、まずはこの街を更地にするとしよう」


「えっ――」



 乃間が驚く間もなく、クロフォードは魔法を唱える。



黒天焦(こくてんしょう)



 クロフォードの唇から紡がれた言葉は、まるで世界を引き裂く鍵のように作用した。


 一瞬の静寂の後、天空が激しく歪んだ。


 真昼の空が、まるで巨大な布が引き裂かれるかのように裂け、そこから漆黒の闇が溢れ出す。


 それは単なる暗闇ではなく、生きているかのようにうねり、蠢く濃密な闇だった。



「な、何が......」



 乃間の言葉は、轟音にかき消された。


 闇は瞬く間に広がり、街全体を覆い尽くす。


 その瞬間から、恐ろしい光景が繰り広げられ始めた。


 闇の触手が最初に触れたのは、街の外れにあった木々だった。


 巨大な拳で殴られたかのように、樹木は根元から粉々に砕け散る。


 破片は、まるでカタパルトで打ち出されたかのような勢いで四方八方に飛び散った。


 次に、闇は民家に襲いかかった。


 壁や屋根が、まるで紙細工のように引き裂かれ、その破片が渦を巻きながら空中に舞い上がる。


 窓ガラスは一瞬にして粉末となり、きらめく粒子となって闇の中に消えていく。


 街の中心にあった石造りの時計塔も例外ではなかった。


 闇の触手が塔に触れた瞬間、何百年もの歴史を誇った堅固な石塔が、まるでサイコロを振るかのように激しく揺さぶられる。


 そして次の瞬間、巨人の鉄槌で叩かれたかのように、塔全体が中心から外側に向かって爆発的に弾け飛んだ。


 巨大な石塊が、まるでミサイルのように街中に降り注ぐ。


 人々は、闇に触れた瞬間、人形のように宙に舞い上がり、風に舞う落ち葉のように四散していく。


 彼らの悲鳴は、闇の轟音にかき消されてしまった。


 地面さえも闇の猛威から逃れられない。


 舗装された道路が、まるでカーペットを引き剥がすかのように剥ぎ取られ、大地が露出する。


 そして露出した大地もまた、巨大な爪で掻き毟られるように削り取られ、土煙となって空中に舞い上がる。


 わずか数分の間に、街の輪郭は完全に失われ、そこにかつて人々が暮らしていたという痕跡さえ、闇に飲み込まれていった。


 街が蹂躙されつくす光景に呆然としている乃間に向かって、一つのガレキがはじけ飛んでくる。


 轟音で飛来するそれは、勢いそのままに乃間の右足を消し飛ばした。



「ぎいぃっ!?――」



 悲鳴にならない悲鳴が、闇の轟音に掻き消された。


 視界が真っ白になる。そして、その白さが徐々に赤みを帯びていく。



「あ......あ......」



 言葉にならない呻き声が漏れる。


 次の瞬間、全身を貫くような激痛が襲いかかった。



「がはっ!」



 乃間は地面に崩れ落ちる。その衝撃で、さらに鋭い痛みが走る。



「ぎゃあああああっ!」



 やっと声が出た。


 しかし、それは人間のものとは思えないような悲痛な叫びだった。


 目を下に向けると、そこにあるはずだった右足が、膝から下が消失している。


 代わりに、そこからは赤黒い液体が勢いよく噴き出していた。



「う、嘘だろ......嘘だろ......」



 現実を受け入れられない乃間は、呆然とその光景を見つめる。


 しかし、容赦なく襲いかかる痛みが、これが現実であることを突きつける。



「いたい......いたい......いたいいたいいたいいたい!」



 乃間は地面を転げ回り、のたうち回る。


 痛みから逃れようとしているかのように、体をよじらせ、手足をばたつかせる。


 しかし、それは無意味な抵抗でしかなかった。



「た、たすけて......クロフォード......」



 かすれた声で助けを求める。しかし、轟音の中では蚊の鳴くような小ささだった。


 冷や汗が全身を覆い、顔面は蒼白になっていく。


 視界がぼやけ始め、意識が遠のいていく。


 乃間の意識が闇に飲み込まれていく。



完全治癒(パーフェクトヒール)



 乃間の意識が完全に闇に溶ける直前、クロフォードの声が響く。



「は、はぁ、はぁ......あ、足が......」



 全ての痛みが消え、慌てて足元を見ると、消し飛んだはずの右足が存在していた。



「......すまない、まさかガレキ一つでそのようなことになるとは思わなかった」



 クロフォードが心の底から申し訳なさそうな表情で、頭を下げる。



「す、すごい......足が元に戻ってる......――街は!?」



 我に返り、慌てて周囲を見回すと、そこは文字通りの荒野と化していた。


 かつてヒーウッドと呼ばれた街の面影は、どこにも見当たらない。

 

 地平線まで広がる茶色い大地。時折、風に舞う土埃。そして、点々と散らばる瓦礫の山。


 乃間は呆然と立ち尽くす。



「な、なんでこんなことに......」


「お前が言った通り、()()を拠点にするために更地にした」


()()って、街のことじゃなくて! この部屋のこと!! もう跡形もないけど!!!」



 乃間はかつて部屋の有った、何もない空間を指差した。

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