企み
魔素エリア 城塞都市跡地
歴史は古く魔族たちと戦う前は人間同士が争っていた。中心部に城や砦があり、その周りに都市がある。外敵からの侵入を防ぐために外堀を高くしたり、外壁の周りに深い溝を掘ったりしていた。外壁の一部に高い砦があり、外敵をクロスボウで狙い撃ちしたり、投石機で何百メートル先の敵に硬い石をぶつけて致命的なダメージを与えたりと、難攻不落の城であった。
かつて人類が創造した城塞都市であったが、大量破壊兵器によって人類が住めなくなった。都市の建物や城は奇跡的に物理的な破壊は無かったのだが、後に魔素エリアと呼ばれる空気が隣国から流れ込んでしまい、この城塞都市も飲み込んでしまった。
城塞都市跡地の魔素レベルは、魔素耐性を持っている人間でも非常に重たい空間である。魔素レベルが非常に高く、魔族·魔獣も最高ランクの強さを持っている。そんな場所に幹部クラスの魔族がアジトとなっている。城塞都市跡地の周囲は強力な対魔力バリアで守られており、遠距離から破壊することは不可能である。城内中心部である玉座の間は、魔族の幹部クラスが主な潜伏場所である。
玉座に座ったまま動かない人間の女性の姿をした魔族が眠っている。
「おい、聞こえてるか?」
「――――――――」
1人の男が見上げて声を掛けたが、声をかけられたものは無反応である。玉座は階段を備えられた高台にあるため、男は仕方なく階段を登り玉座の目の前で立ち止まる。再度声を掛けるも、女性の姿をした魔族は目を開けることはない。
この魔族の特徴は何と言っても流れるような美しく長い黒髪。目を瞑っていても美しさが分かる。
「あんたは人間なのか?それとも魔族なのか?それはいいんだが、あんたはいつ起きるんだよ」
「んふふふふ。どれだけ声をかけても無駄ですよ」
男の独り言を答えるように、後ろから魔族が声を掛ける。その魔族は白いオーブで全身を隠しており、宙に浮いている。
「シラサギか。急に湧いてくんなよ。相変わらず気持ちの悪い笑い方だな。この女?はいつから寝てるんだ?めんどくさいから女と呼ばせてもらう」
「私もめんどくさいのでそういたします。彼女はかれこれ7年ですかね」
「チッ、7年もかよ。いつ起きるんだ?」
「さぁてね。今の彼女はパワーが足りません、ゴミのような魔力です。本来の力に目覚めてしまえば人類はあっという間にいなくなりますよ。んふふふふ」
「早く目覚めてほしいんだがな。この世界に人類は不要だ」
「ワタシも人類を痛めつけてやりたいですね。それで思い出しました。この間魔素エリアで捕えた人間を実験しないといけませんね。今日は生きたままの解剖としましょうかな。んふふふふふふふふ」
不気味な笑い方が特徴のシラサギは人間をおもちゃとしか見ていない。
「彼女が目覚めるのをいつまでも待ってはいられませんよ。なので例のアレは完成しましたかね?」
「まだまだ時間かかる。完成すればお前達魔族の勝利は近いぜ」
「進捗を伺ってみただけなので、お急ぐつもりはございません。ただ、待つことが出来ない子供みたいなやつもいますので」
「あぁ、あいつか。またどこかで暴れてんのか?」
「魔素エリアで適当な魔獣を破壊してるみたいですよ」
「同族殺しは悪趣味だな。少しは我慢ができねぇのかよ。だから嫌いなんだよ」
「んふふふふ。彼女が目覚めるのが先か、例のアレが完成するのが先か。んふふふふふふふふ」
男が例のアレを完成させれば魔族の勝利に大きく近づく。彼女が目を覚ませば、人類の住むエリアは魔素エリアにチェンジするかもしれない。