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End magic and war.  作者: 椎茸トマト
A組 勝つためには
38/38

不意打ち

「わ、悪い」

「ううん。気にしないで。私が手を差し伸べたんだから」


松原くんの大きな身体と密着してしまった。松原くんの大きな身体を起こそうとした結果なんだけど、やっぱり男の子は力が強いよね。

私が先に起き上がり、松原くんも続けて起き上がる。


自分の制服についた土埃をはたいた後、松原くんの背中とお尻についた土埃をはたいてあげた。


「ありがとな」

「どういたしまして。松原くんは力強いね」

「意図したわけじゃないんだがな…千早と同じことをしたから、無意識に手を借りただけだ」


赤阪くんは私より力があるのか。彼には負けたくなかったな。あんなに可愛い子と体型が変わらないのに…


「ん…?そろそろ中心まで行こうぜ。情報じゃ、中心部が濃いだろうしな」

「そうだね」


この魔素エリアはそれほど広くはなかった。半径1キロくらいと、今までで1番狭い魔素エリアになる。


ここまで線路沿いに歩いている。その理由は線路付近の魔素エリアが濃いからである。同じブルーでも、水色と紺では全く違う。外側はスカイブルー、中心はサファイアブルーである。


周辺は崩壊した建物がまだまだ残っている。

大量破壊兵器の爪痕がこれほど大きいことが分かる。

鉄道も大々的な被害を被ったけれど、復興に力を入れてくれた。

本数は少ないけど、おかげで各地区に移動できるまでになった。

高速鉄道が再開されたら、飛鳥ちゃんの故郷、西地区に数時間で行けるんだよね。

今の鉄道だと10時間以上掛かっちゃう。


「もうすぐ中心だね。早くのぞみエリアに切り替えないとね」

「のぞみエリアか。もっといいネーミングが欲しいところだな」

「私は好きだけどな」

「まあな…口に出すのがちょっと」

「無理して口に出さなくても良いと思うよ」


現在人類が住むエリア。

なみはや学園生徒たちは、柏原先生が名付けた“のぞみエリア”と呼称している。

復興を望むことからそう名付けてくれた。




魔獣を警戒しながら進んで、何事もなく中心部にたどり着いた。


「いねぇな」

「うん。いないね」


これまで魔獣と遭遇していない。このあたりも復興に手を付けられていない場所であるが、辺りを見回しても魔獣の気配を感じない。

魔獣が生存しない魔素エリアの可能性も出てくる。


「なあ、交野」

「うん?」

「身体の調子はどうだ?」

「今日は大丈夫だよ」

「それは良かった。最近、調子を崩す日が少なくなってきたしな」

「お気遣いありがとう。気にしないで戦えるね」


とはいえ、魔獣の不意打ちを食らう可能性もあるので、油断はできない。周囲を警戒しながら談笑を交えると、松原くんの足が止まる。気付いて私も止まる。


「どうしたの?」

「おい、何か光ってるぞ」


辺りを見渡していると、松原くんが何かに気付く。松原くんの指さす方向に視線を向ける。

荒れ果てた大地の中、一際輝いている。恐る恐る近づいてみることにする。


「なんだろう…綺麗だけど近づいても大丈夫かな?」

「近づくなと言われたら近づきたくなるんだよな。交野、俺が盾になるから後ろにいてくれ」

「分かった」


松原くんは補助魔法“ブロック”で盾になってくれた。ブロックは敵の攻撃を一定時間無効化する。


近づくにつれて光る物体が徐々に明らかになってくる。

手に触れそうな距離にまで来た。


光るものの正体

それは

石だった


光る石は小さなパンケーキみたいに丸みがある。


「何で石が光ってるんだ…」

「ううん。分かんないね」

「とりあえず拾ってみるぞ」

「あ、危ないよ」

「けど、ここは触れるしかないぞ」

「うん…気をつけて」


松原くんの後ろに、腰にしがみつく隠れる形で見守る。

松原くんの身長は何センチあるんだろうか。2メートルは超えてるんじゃないだろうか。身体は岩みたいに硬い。相当鍛えてることが分かる。


「お、おい。あまり触れすぎると石に近づきづらい」

「あ、ごめんね」


余計なことをして松原くんの心を乱してしまった。

間を空けて息を整える。


松原くんが恐る恐る光る石に手を触れる。手に触れそうになったとき、反射で手を離してしまう。情報がないものを触れるのは怖いものである。一瞬だけ触れて、手に持てることが分かったので、松原くんはもう一度石に触れてみる。親指、人さし指、中指で挟むように持ち上げてる。


「とりあえず、ヤバい石では無さそうだ」


手に触れて安心が芽生えた松原くんは、私の目線と同じ高さに石を持ってくれた。


「綺麗だね。私にも触らせて」

「おう」


瑠璃色に光る石に指先を当ててみる。ほのかに温かい。石自体に生命が宿っているような神秘的である。


「石が光るなんて聞いたことないよね?」

「ああ。授業でも習ってないぞ。せっかくだし、持ち帰るか」

「そうだね」


魔素エリアをこれ以上探索しても収穫なしと判断し、光る石を持ち帰ることにした。


後ろから銃口を向ける音がわずかに聞こえた。瞬間、銃声が鳴り、手に持っていた光る石が破壊された。


「交野!」


また銃声が響く。

松原くんは私を覆いかぶさる形で銃弾から守ってくれた。

左肩に命中したみたいだけど、ブロックの効果でダージがなかった。


それが一瞬で起こった出来事であった。

どこから撃たれたのか、すぐに分かった。


銃声先の存在。

それは知っている人物であった。美しい銀髪の若い男性。

彼は先日、金剛基地に侵入してきた。名前は鶴見時雨(つるみしぐれ)。夏希くんと並ぶとモテ界のエースとなりそう。吸い込まれそうな瞳は、異性の胸を射止めそうである。


「てめぇ…」

「松原くん、冷静にね。前みたいに返り討ちにあうよ」

「お、おう…」


いけないいけない。敵の見た目に見惚れてる場合じゃない。松原くんに冷静にと言ったけど、カッコいい男を見ると私も冷静にいられない。

鶴見は1年のうちに、魔族がのぞみエリアに侵入することが可能になると宣言。

松原くんと赤阪くん、2人は何か縁がありそうだった。どう見てもいいことはなさそう。


「お前はいつからそんなちんちくりんな女と付き合ったんだ?」

「ちんちくりん…」

「竜馬とちんちくりん。犯罪の匂いしかしねぇぜ!」

「その口を2度と開かせないようにしようかな」

「交野、冷静に…な?」

「あ、うん」


松原くんがキョドっている。いけないいけない。私のオーラが少しはみ出てかもしれない。

これから大きくなるもん。


「竜馬。お前も人類を滅ぼそうぜ。こんなアホみたいな人間たちが生きてるほうがおかしいんだぜ?」

「黙れ!裏切り者の言うことを聞くかよ。何しにここに現れたんだよ」

「はは。すぐ切れるところは相変わらずだな。さっき撃って破壊した石だよ」

「あれが何だよ…」


鶴見が銃で破壊した光り輝く石。この石に何のようなのか?


「実験はまだまだだな」

「実験だと!?」


実験

この言葉の意味とは―


「鶴見さん。さっき破壊した石と魔素エリア、何か関係があるんですか?」


私の質問に、鶴見の唇が微かに笑う。なんとも好きになれない笑顔です。


「あの石は()()()に魔素エリアを作ることが可能なのさ。その証拠に、魔素エリアがなくなっただろ?」

「なに…」

「魔素エリアが消えてる」


危機的状況だったので気づかなかったが、いつの間にやら魔素エリアが消えたことを確認した。鶴見の言うことは嘘ではなさそうだ。


「その石は放っといても、長くは持たない。勝手に機能を失う」

「こんなもん作ってどうするんだよ」

「この間、基地で言ったこと覚えてねえのか?あ、違うか。話をする前に俺に気絶させられたんだったな!思い出したわ。うける!」

「ぐぬぬ!」

「松原くん、また繰り返す気なの?話を聞こう」

「くそ…」


松原くんは、煽るくせに煽り耐性がない。自分自身ミラーとして返ってることに気づいてないかもしれない。


「あと1年でお前らのエリアに魔族が攻めてくる話をしたんだよ。光る石でなんとなくわかったろ?」

「光る石が人工的に魔素エリアを作ることはわかりました。魔族が入れる魔素レベルまで1年かかるということかな?」

「はは!正解だ」


魔素エリアを人工的に作られるのは厄介だね…

今後、人工的に作られた魔素エリアも視野に入れないといけない。


「まぁ所詮は人工。時間が経てば元に戻るんだ。けどな、時間なんてどうでもいいんだ。魔族がお前ら人間を滅ぼしてくれればそれでいい」

「それってどういう意味ですか?」


答えはほぼ分かっているけど、彼の口から聞いてみたい。


「もう分かってるんじゃねえのか?竜馬はまだ分かってなさそうだけどな」

「うるせえ!人工的に作られた魔素エリアを魔族レベル、つまりホワイト、若しくは最大のグレーまで上げようってのは分かってるんだよ!」


松原くんが先に答えを言ってくれたね。


「ピンポーン。猿でも分かるもんだよな。何度も言うが、今のままだと1年はかかるんだ。くく。――残りの1年は楽しめってよ!」


鶴見が攻撃を仕掛けてきた。狙いは私だ。脚が早く俊足だ。


さっきはハンドガンで狙ってきたが、今度は軍用のブレードナイフを右手に持っている。ブレードからハンドルまで黒く塗っている。


素早い動きであったけど、障害物がないこの場所では避けることは造作もなかった。

けど、一度避けたぐらいで攻撃をやめる相手ではない。

2手、3手と攻撃を仕掛けてくる。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


松原くんが背後から攻撃を仕掛けてくれたのだが、自分の存在を相手に教えてはいけない…簡単にカウンターを食らってしまう。まだ“ブロック”の効果が残っていたのでダメージは無さそう。


松原くんが倒れた隙に、また私に攻撃を仕掛けてくる。魔導銃で切っ先を封じる。攻撃の隙をついて撃ってみたものの、簡単に避けられてしまう。


「躊躇いもなく頭を狙ってくるじゃねえか。人を殺すのは慣れてやがるな!」

「何を言ってるか分からないな」


とはいえ鶴見の攻撃はやまないので、こちらも反撃に出るが、体格差と俊敏さのハンデは大きい。いつかこちらにダメージを喰らってしまう。


「へへっ!避けてばかりじゃ何もできねえぜ!そのうち可愛い顔に傷がついちまうぜ!」


その通り、こちらも防戦だけでは勝てない。うまいこと避けて、かすり傷で済む。地味に痛い。


可愛いか―

この人に言われても全く嬉しくないや。

鶴見のナイフが制服をかすめ切り口が出来る。どんどん制服に穴が空いてくる。

この制服可愛いから気に入ってるのに!


もう怒った。少し吹き飛ばして終わりにしよう。

魔力を発動しようと力を入れたその時―


ドクン!


「うっ!」


ドクン!ドクン!と心臓が大きく動くのを感じた。

苦しい…

痛い…


「ぐっ!!」


身体中の血管が勢いよく回る。水の中に溺れているように息が出来ない…


「…野!…い!ど…し……だ!」


松原くんが何か大きな声を出してくれてるけど、何も聞こえない。


「はは!何が起こったか知らねえが、サクッと終わりにしてやるぜ!」


これはまずいと、本能が体を動かす。


切先が私の首元をかすめる。まともに受けたら致命傷になってしまう。首から血が流れて、襟元が血で染まるのが分かる。

避けたものの、攻撃は続く。鋭利なナイフが身体中を切り裂く。大きな傷にはならないが、腕や脚から血が出てくるのが分かる。

今度は鶴見の足が自分の顔に向かってくる。ハイキックをガードするも、身長の低い私には蹴りやすかったのだろう。威力が強く簡単に吹き飛んでしまう。


素早く受け身をとり、何とか起き上がったものの、左の太腿に激痛が走る。


「きゃぁっ!」

「はは!急所を狙ったつもりだったんだかな、外れてしまったな」


鶴見がさっきまで持っていたブレードナイフを投げてきた。かなり深く刺さっている。左太腿は激痛で熱を帯びている。あまりの痛さに立っていられなかった。

それだけじゃない。

腕が痺れる…

胸が苦しい…

痛い。

痛い痛い!


「ははは!女だからって手加減は出来ないのさ」


ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべている。生理的に無理になってきた…


「おらっ!」


松原くん、今度は隙をついて鶴見に蹴りを入れる。鶴見はガードするも、松原くんのパワーが上回っる。遠くにはじけ飛ぶ。松原くんのパワーのおかげで距離が空いた。


「今度はへましねえぜ!」

「っ!?…ありがとう…」

「ヤバそうだな…」


松原くんの攻撃が全く効いてない。鶴見は簡単に起き上がって、不敵な笑みを浮かべると攻撃態勢に入る。

鶴見の攻撃に備えなければ―


「くくく。あはははは!!!!」


鶴見の気味の悪い笑いで地響きが起こる。ひび割れた地面から砂ぼこりが上がる。


「やばい…かもね…」

「ああ!逃げたほうがいいぜ!」

「逃がしゃしねえよ!お前らを殺してやるよ!!あはははは!」

「松原くん、逃げ…て」

「おらっ!かかってこいや!」


逃げる気配のない松原くん

体を大の字にして私を守ってくれている

けど

それは食らっちゃだめだよ

鶴見の魔力は高い


鶴見はハンドガンをこちらに向けてエネルギー砲を私たちに向けて撃つ――

波動がこちらまで伝わる。


「ぐぅぅぅぅぅ!!!」


松原くんが全部受け止めてくれる。


「くたばれ!!!!」


鶴見のエネルギー砲は止まらない。松原くん、私はいいから早く逃げて!


「効くかよこんな攻撃!!」


エネルギー砲の攻撃が止まった

攻撃が終わった


「あ~あ。エネルギーが切れちまったよ。しょうがねえか。魔素エリアじゃねえし」


松原くんの“ブロック”がまだ生きていた。松原くんはまだ立っている。


「だ、大丈夫?」

「平気だぜ」


とても平気には見えない。松原くんの身体から青白い煙がプスプスと上がっている。


「竜馬。強くなったじゃん!」

「はっ!褒められても嬉しくねえぜ」

「くく。それなら拳で教えてやるよ」

「ソイツは遠慮しとくぜ―。コイツを運ばないとな!」


松原くんは私の体を持ち上げた

お姫様抱っこで


「え、え!?」

「すまねえ。けど、そんな場合じゃねえ。大丈夫じゃなさそうだしな」

「はぁはぁ…ふぅ……ありがとう」

「いいってことよ。――部が悪い。ここは逃げるが勝ちだな」

「……そうした方がよさそうだね」

「ははははは!誘拐犯に見えるぜ!!」


鶴見は大きく笑っている。長い笑いだ。

気色悪いな…


「さっさと逃げるぜ!」

「うん」

「逃がすと思うかよ」

「足元にプレゼントがあるんで受け取りな」

「なに?」


鶴見は足元に目を向ける。球体が転がっている。


「このやろ―」


球体は破裂した。


松原くんの装備品“スモークボール”がはじけ飛ぶ。辺りは濃い煙に包まれた。

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