不意打ち
「わ、悪い」
「ううん。気にしないで。私が手を差し伸べたんだから」
松原くんの大きな身体と密着してしまった。松原くんの大きな身体を起こそうとした結果なんだけど、やっぱり男の子は力が強いよね。
私が先に起き上がり、松原くんも続けて起き上がる。
自分の制服についた土埃をはたいた後、松原くんの背中とお尻についた土埃をはたいてあげた。
「ありがとな」
「どういたしまして。松原くんは力強いね」
「意図したわけじゃないんだがな…千早と同じことをしたから、無意識に手を借りただけだ」
赤阪くんは私より力があるのか。彼には負けたくなかったな。あんなに可愛い子と体型が変わらないのに…
「ん…?そろそろ中心まで行こうぜ。情報じゃ、中心部が濃いだろうしな」
「そうだね」
この魔素エリアはそれほど広くはなかった。半径1キロくらいと、今までで1番狭い魔素エリアになる。
ここまで線路沿いに歩いている。その理由は線路付近の魔素エリアが濃いからである。同じブルーでも、水色と紺では全く違う。外側はスカイブルー、中心はサファイアブルーである。
周辺は崩壊した建物がまだまだ残っている。
大量破壊兵器の爪痕がこれほど大きいことが分かる。
鉄道も大々的な被害を被ったけれど、復興に力を入れてくれた。
本数は少ないけど、おかげで各地区に移動できるまでになった。
高速鉄道が再開されたら、飛鳥ちゃんの故郷、西地区に数時間で行けるんだよね。
今の鉄道だと10時間以上掛かっちゃう。
「もうすぐ中心だね。早くのぞみエリアに切り替えないとね」
「のぞみエリアか。もっといいネーミングが欲しいところだな」
「私は好きだけどな」
「まあな…口に出すのがちょっと」
「無理して口に出さなくても良いと思うよ」
現在人類が住むエリア。
なみはや学園生徒たちは、柏原先生が名付けた“のぞみエリア”と呼称している。
復興を望むことからそう名付けてくれた。
魔獣を警戒しながら進んで、何事もなく中心部にたどり着いた。
「いねぇな」
「うん。いないね」
これまで魔獣と遭遇していない。このあたりも復興に手を付けられていない場所であるが、辺りを見回しても魔獣の気配を感じない。
魔獣が生存しない魔素エリアの可能性も出てくる。
「なあ、交野」
「うん?」
「身体の調子はどうだ?」
「今日は大丈夫だよ」
「それは良かった。最近、調子を崩す日が少なくなってきたしな」
「お気遣いありがとう。気にしないで戦えるね」
とはいえ、魔獣の不意打ちを食らう可能性もあるので、油断はできない。周囲を警戒しながら談笑を交えると、松原くんの足が止まる。気付いて私も止まる。
「どうしたの?」
「おい、何か光ってるぞ」
辺りを見渡していると、松原くんが何かに気付く。松原くんの指さす方向に視線を向ける。
荒れ果てた大地の中、一際輝いている。恐る恐る近づいてみることにする。
「なんだろう…綺麗だけど近づいても大丈夫かな?」
「近づくなと言われたら近づきたくなるんだよな。交野、俺が盾になるから後ろにいてくれ」
「分かった」
松原くんは補助魔法“ブロック”で盾になってくれた。ブロックは敵の攻撃を一定時間無効化する。
近づくにつれて光る物体が徐々に明らかになってくる。
手に触れそうな距離にまで来た。
光るものの正体
それは
石だった
光る石は小さなパンケーキみたいに丸みがある。
「何で石が光ってるんだ…」
「ううん。分かんないね」
「とりあえず拾ってみるぞ」
「あ、危ないよ」
「けど、ここは触れるしかないぞ」
「うん…気をつけて」
松原くんの後ろに、腰にしがみつく隠れる形で見守る。
松原くんの身長は何センチあるんだろうか。2メートルは超えてるんじゃないだろうか。身体は岩みたいに硬い。相当鍛えてることが分かる。
「お、おい。あまり触れすぎると石に近づきづらい」
「あ、ごめんね」
余計なことをして松原くんの心を乱してしまった。
間を空けて息を整える。
松原くんが恐る恐る光る石に手を触れる。手に触れそうになったとき、反射で手を離してしまう。情報がないものを触れるのは怖いものである。一瞬だけ触れて、手に持てることが分かったので、松原くんはもう一度石に触れてみる。親指、人さし指、中指で挟むように持ち上げてる。
「とりあえず、ヤバい石では無さそうだ」
手に触れて安心が芽生えた松原くんは、私の目線と同じ高さに石を持ってくれた。
「綺麗だね。私にも触らせて」
「おう」
瑠璃色に光る石に指先を当ててみる。ほのかに温かい。石自体に生命が宿っているような神秘的である。
「石が光るなんて聞いたことないよね?」
「ああ。授業でも習ってないぞ。せっかくだし、持ち帰るか」
「そうだね」
魔素エリアをこれ以上探索しても収穫なしと判断し、光る石を持ち帰ることにした。
後ろから銃口を向ける音がわずかに聞こえた。瞬間、銃声が鳴り、手に持っていた光る石が破壊された。
「交野!」
また銃声が響く。
松原くんは私を覆いかぶさる形で銃弾から守ってくれた。
左肩に命中したみたいだけど、ブロックの効果でダージがなかった。
それが一瞬で起こった出来事であった。
どこから撃たれたのか、すぐに分かった。
銃声先の存在。
それは知っている人物であった。美しい銀髪の若い男性。
彼は先日、金剛基地に侵入してきた。名前は鶴見時雨。夏希くんと並ぶとモテ界のエースとなりそう。吸い込まれそうな瞳は、異性の胸を射止めそうである。
「てめぇ…」
「松原くん、冷静にね。前みたいに返り討ちにあうよ」
「お、おう…」
いけないいけない。敵の見た目に見惚れてる場合じゃない。松原くんに冷静にと言ったけど、カッコいい男を見ると私も冷静にいられない。
鶴見は1年のうちに、魔族がのぞみエリアに侵入することが可能になると宣言。
松原くんと赤阪くん、2人は何か縁がありそうだった。どう見てもいいことはなさそう。
「お前はいつからそんなちんちくりんな女と付き合ったんだ?」
「ちんちくりん…」
「竜馬とちんちくりん。犯罪の匂いしかしねぇぜ!」
「その口を2度と開かせないようにしようかな」
「交野、冷静に…な?」
「あ、うん」
松原くんがキョドっている。いけないいけない。私のオーラが少しはみ出てかもしれない。
これから大きくなるもん。
「竜馬。お前も人類を滅ぼそうぜ。こんなアホみたいな人間たちが生きてるほうがおかしいんだぜ?」
「黙れ!裏切り者の言うことを聞くかよ。何しにここに現れたんだよ」
「はは。すぐ切れるところは相変わらずだな。さっき撃って破壊した石だよ」
「あれが何だよ…」
鶴見が銃で破壊した光り輝く石。この石に何のようなのか?
「実験はまだまだだな」
「実験だと!?」
実験
この言葉の意味とは―
「鶴見さん。さっき破壊した石と魔素エリア、何か関係があるんですか?」
私の質問に、鶴見の唇が微かに笑う。なんとも好きになれない笑顔です。
「あの石は人工的に魔素エリアを作ることが可能なのさ。その証拠に、魔素エリアがなくなっただろ?」
「なに…」
「魔素エリアが消えてる」
危機的状況だったので気づかなかったが、いつの間にやら魔素エリアが消えたことを確認した。鶴見の言うことは嘘ではなさそうだ。
「その石は放っといても、長くは持たない。勝手に機能を失う」
「こんなもん作ってどうするんだよ」
「この間、基地で言ったこと覚えてねえのか?あ、違うか。話をする前に俺に気絶させられたんだったな!思い出したわ。うける!」
「ぐぬぬ!」
「松原くん、また繰り返す気なの?話を聞こう」
「くそ…」
松原くんは、煽るくせに煽り耐性がない。自分自身ミラーとして返ってることに気づいてないかもしれない。
「あと1年でお前らのエリアに魔族が攻めてくる話をしたんだよ。光る石でなんとなくわかったろ?」
「光る石が人工的に魔素エリアを作ることはわかりました。魔族が入れる魔素レベルまで1年かかるということかな?」
「はは!正解だ」
魔素エリアを人工的に作られるのは厄介だね…
今後、人工的に作られた魔素エリアも視野に入れないといけない。
「まぁ所詮は人工。時間が経てば元に戻るんだ。けどな、時間なんてどうでもいいんだ。魔族がお前ら人間を滅ぼしてくれればそれでいい」
「それってどういう意味ですか?」
答えはほぼ分かっているけど、彼の口から聞いてみたい。
「もう分かってるんじゃねえのか?竜馬はまだ分かってなさそうだけどな」
「うるせえ!人工的に作られた魔素エリアを魔族レベル、つまりホワイト、若しくは最大のグレーまで上げようってのは分かってるんだよ!」
松原くんが先に答えを言ってくれたね。
「ピンポーン。猿でも分かるもんだよな。何度も言うが、今のままだと1年はかかるんだ。くく。――残りの1年は楽しめってよ!」
鶴見が攻撃を仕掛けてきた。狙いは私だ。脚が早く俊足だ。
さっきはハンドガンで狙ってきたが、今度は軍用のブレードナイフを右手に持っている。ブレードからハンドルまで黒く塗っている。
素早い動きであったけど、障害物がないこの場所では避けることは造作もなかった。
けど、一度避けたぐらいで攻撃をやめる相手ではない。
2手、3手と攻撃を仕掛けてくる。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
松原くんが背後から攻撃を仕掛けてくれたのだが、自分の存在を相手に教えてはいけない…簡単にカウンターを食らってしまう。まだ“ブロック”の効果が残っていたのでダメージは無さそう。
松原くんが倒れた隙に、また私に攻撃を仕掛けてくる。魔導銃で切っ先を封じる。攻撃の隙をついて撃ってみたものの、簡単に避けられてしまう。
「躊躇いもなく頭を狙ってくるじゃねえか。人を殺すのは慣れてやがるな!」
「何を言ってるか分からないな」
とはいえ鶴見の攻撃はやまないので、こちらも反撃に出るが、体格差と俊敏さのハンデは大きい。いつかこちらにダメージを喰らってしまう。
「へへっ!避けてばかりじゃ何もできねえぜ!そのうち可愛い顔に傷がついちまうぜ!」
その通り、こちらも防戦だけでは勝てない。うまいこと避けて、かすり傷で済む。地味に痛い。
可愛いか―
この人に言われても全く嬉しくないや。
鶴見のナイフが制服をかすめ切り口が出来る。どんどん制服に穴が空いてくる。
この制服可愛いから気に入ってるのに!
もう怒った。少し吹き飛ばして終わりにしよう。
魔力を発動しようと力を入れたその時―
ドクン!
「うっ!」
ドクン!ドクン!と心臓が大きく動くのを感じた。
苦しい…
痛い…
「ぐっ!!」
身体中の血管が勢いよく回る。水の中に溺れているように息が出来ない…
「…野!…い!ど…し……だ!」
松原くんが何か大きな声を出してくれてるけど、何も聞こえない。
「はは!何が起こったか知らねえが、サクッと終わりにしてやるぜ!」
これはまずいと、本能が体を動かす。
切先が私の首元をかすめる。まともに受けたら致命傷になってしまう。首から血が流れて、襟元が血で染まるのが分かる。
避けたものの、攻撃は続く。鋭利なナイフが身体中を切り裂く。大きな傷にはならないが、腕や脚から血が出てくるのが分かる。
今度は鶴見の足が自分の顔に向かってくる。ハイキックをガードするも、身長の低い私には蹴りやすかったのだろう。威力が強く簡単に吹き飛んでしまう。
素早く受け身をとり、何とか起き上がったものの、左の太腿に激痛が走る。
「きゃぁっ!」
「はは!急所を狙ったつもりだったんだかな、外れてしまったな」
鶴見がさっきまで持っていたブレードナイフを投げてきた。かなり深く刺さっている。左太腿は激痛で熱を帯びている。あまりの痛さに立っていられなかった。
それだけじゃない。
腕が痺れる…
胸が苦しい…
痛い。
痛い痛い!
「ははは!女だからって手加減は出来ないのさ」
ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべている。生理的に無理になってきた…
「おらっ!」
松原くん、今度は隙をついて鶴見に蹴りを入れる。鶴見はガードするも、松原くんのパワーが上回っる。遠くにはじけ飛ぶ。松原くんのパワーのおかげで距離が空いた。
「今度はへましねえぜ!」
「っ!?…ありがとう…」
「ヤバそうだな…」
松原くんの攻撃が全く効いてない。鶴見は簡単に起き上がって、不敵な笑みを浮かべると攻撃態勢に入る。
鶴見の攻撃に備えなければ―
「くくく。あはははは!!!!」
鶴見の気味の悪い笑いで地響きが起こる。ひび割れた地面から砂ぼこりが上がる。
「やばい…かもね…」
「ああ!逃げたほうがいいぜ!」
「逃がしゃしねえよ!お前らを殺してやるよ!!あはははは!」
「松原くん、逃げ…て」
「おらっ!かかってこいや!」
逃げる気配のない松原くん
体を大の字にして私を守ってくれている
けど
それは食らっちゃだめだよ
鶴見の魔力は高い
鶴見はハンドガンをこちらに向けてエネルギー砲を私たちに向けて撃つ――
波動がこちらまで伝わる。
「ぐぅぅぅぅぅ!!!」
松原くんが全部受け止めてくれる。
「くたばれ!!!!」
鶴見のエネルギー砲は止まらない。松原くん、私はいいから早く逃げて!
「効くかよこんな攻撃!!」
エネルギー砲の攻撃が止まった
攻撃が終わった
「あ~あ。エネルギーが切れちまったよ。しょうがねえか。魔素エリアじゃねえし」
松原くんの“ブロック”がまだ生きていた。松原くんはまだ立っている。
「だ、大丈夫?」
「平気だぜ」
とても平気には見えない。松原くんの身体から青白い煙がプスプスと上がっている。
「竜馬。強くなったじゃん!」
「はっ!褒められても嬉しくねえぜ」
「くく。それなら拳で教えてやるよ」
「ソイツは遠慮しとくぜ―。コイツを運ばないとな!」
松原くんは私の体を持ち上げた
お姫様抱っこで
「え、え!?」
「すまねえ。けど、そんな場合じゃねえ。大丈夫じゃなさそうだしな」
「はぁはぁ…ふぅ……ありがとう」
「いいってことよ。――部が悪い。ここは逃げるが勝ちだな」
「……そうした方がよさそうだね」
「ははははは!誘拐犯に見えるぜ!!」
鶴見は大きく笑っている。長い笑いだ。
気色悪いな…
「さっさと逃げるぜ!」
「うん」
「逃がすと思うかよ」
「足元にプレゼントがあるんで受け取りな」
「なに?」
鶴見は足元に目を向ける。球体が転がっている。
「このやろ―」
球体は破裂した。
松原くんの装備品“スモークボール”がはじけ飛ぶ。辺りは濃い煙に包まれた。




