昨日より今日
結局何体倒したんだ?
元帥は次から次へと魔獣を俺の方におびき出した。もう充分に俺の力を見せたはずなのに。
戦い続けた結果、この辺の魔獣は全滅した模様。
「流石だね守口くん」
拍手をしながら俺の所へ戻ってきた。拍手をされても嬉しくないのだが。
「いくらなんでも、数が多すぎです。俺のエネルギーは無限ではありませんよ」
「そう言っている割には息が全然切れてないけどね」
「そういう問題じゃないです」
この程度で疲れることはないが、少しは手伝ってほしいものだ……
「まぁまぁ、そんなに怒らないでほしいかな。ピンチになったら助けるつもりだったよ。必要なかったけどね」
「はぁ…」
わざとらしくため息を吐いてみたが、どうせ何も感じないだろう。どのみち、このエリアのレベルは下がった。辺りを見渡すと、魔素エリアはブルーと格下げになっていた。
「豊中くん、ちょっといい?」
「あ、うん」
狭山先生に袖を引っ張られ向こうに行く。その結果、柏原先生と2人きりだ。
俺はこの先生のことが良くわからない。眼鏡をかけてスーツ姿。教師というよりサラリーマンに見える。普段から冷静で慌てることはない。しかし、怒らせると少々怖い。入学して日が浅い日、態度の悪い竜馬をボコボコにしていた。まぁ、竜馬の言動なら仕方がないが。
「守口くん、素晴らしい強さだね。はっきり言って、僕より強い」
「そんなことはないですよ」
「謙遜しなくていいよ。君が生徒だろうと関係ない。最初は信じられなかったが…今の戦いで分かったよ」
普段の冷静な表情は無かった。少しほほ笑んで俺の肩に手を置いた。
「まさかキスをするんですか?」
「それも良いかもね、面白いボケだ。――君は良くわからないよ。学生らしく笑っていてほしいものなんだけど、どこか冷めてる感じで世界を見ていると思うんだ」
「先生に言われたくないですよ」
「ははは…手厳しいな」
微笑みは苦笑いに変わる。柏原先生の言う通り、俺はどこか冷めてる。この世界は俺がいるべき世界ではないのだ。
しかし――
…………
昔のことを思い出しても仕方がない。現在が大事だ。
先生たちは俺に対する見方が変わったのだ。柏原先生は肩に置いていた手を離した。
「守口くん、この世界を守って欲しい。この通りだ」
柏原先生は深々と頭を下げた。
下げた頭はなかなか元に戻ってくれない。
「頭を上げてください」
俺が促すとゆっくりと下げた頭を上げる。
「俺はそこまで敬意や服従に興味はありません」
「分かりました。けど、私たちは貴方に頼りたいのです。さっき基地で聞いた通り、のぞみエリアが侵食される。大人たちに使われて嫌な気持ちにさせて申し訳ない。でも、私たちは生き残りたいんだ。この通りだ」
柏原先生は再び頭を下げた。下げた頭はすぐに上がった。
豊中元帥と狭山先生は話が終わったのだろう。俺の元へやってきた。
「待たせたね守口くん」
「いえ、大丈夫です」
「守口くん。私は教師と言う立場を捨ててまで貴方にお願いするわ。魔族を倒すため、力を貸して欲しい」
「分かりました。狭山先生も頭を上げてください」
「僕もお願いするね。金剛基地の元帥の座を君にあげるよ」
「それは遠慮します」
狭山先生も柏原先生同様頭を下げた。元帥は頭を下げなかったが気にすることではない。
俺は魔族のことを詳しくは知らない。
一体どれほど強いのか。
A組や先生も知っていそうだ。聞いてみたいが、皆は魔族に何かしら憤怒が感じられ、地雷を踏みそうだ。そこは慎重にしないとな。
――3日後、午前6時
3日はあっという間だった。
目が覚めて起き上がる。部屋はこれから基地に引っ越すため、荷物は段ボールなどにまとめてある。家具など大きいものは前日に大型トラックにまとめた。
「何もないと寂しいな」
ふと、独り言を言ってしまう。これから居住地が変わるのだから無理はない。
さっさと身支度をして食堂に向かおう。
朝の準備は時間が経つのが早く感じる。気がつくと7時であった。これから久々の食堂で朝食だ。普段は自室で朝食をとるのだが、段ボールから食器を出して、その後片付けるのは億劫だ。テレビを見ながら朝ご飯を食べることが日課だが、テレビも大型トラックに積んでしまった。ここで食べる意味もなくなったのだ。
部屋から出ると、多くの生徒が歩いている。食堂で朝ご飯を食べるためだ。
食堂は多くの生徒がいた。
他クラスの生徒が俺の存在に気づくと、さりげなく避けられてしまう。
この現象は入学したときから発生していたので、今は割り切っている。
他クラスから見ると、A組が特別のように感じられるみたいだ。先日、休憩中に元2年A組から話かけられたときに教えてもらったのだが、特別だからこその羨み、嫉妬、憧れ、畏怖など、各々の感情が他の生徒に伝わっているようだ。
元A組の生徒は、A組を辞退した翌日に他クラスに移籍した。けれど、新しいクラスに馴染めなかったものが多く存在した。
ヒーローと呼んで欲しいわけではない。かといって、平和のために戦う俺たちに感謝して欲しいわけでもない。
普通に接して欲しいだけなのだ。
制服は他の生徒は違うデザインでできており、A組専用の制服だというのが見て取れる。これだと、特別感と思われていても仕方がない。
食堂の大人たちは変わらず接してくれている。大人たちは理解しているのだろう。
好物の生姜焼き定食を持って空いてる席を探す。不思議と角の一角が空いていた。気にはしたが、席を確保したい気持ちが勝ったので、そのまま席に着いた。席につくと、多数の視線を感じて顔を上げた。瞬間、俺を見ていた多数の生徒は目を逸らした。
この席に座ることがいけなかったのか…?
違和感を感じつつ、いただきますと手を合わせてご飯を一口食べた。
うまい!
大きな声で叫びたくなった。
食堂の炊飯器は美味しさの補助魔法でもかかっているのか?自室の炊飯器より格段に美味しい。それとも、特別なお米なのか?
「食堂で会うなんて奇遇やん。おはよう」
「あぁ、おはよう」
「ここに座ってええか?」
「うん」
朝食を運んできた飛鳥に声をかけられた。確かに奇遇だ。俺は食堂に寄ることはめったにない。俺の向かいに飛鳥が着席する。
「ここで食べるなんて珍しいな」
「食器類は全て段ボールに入れたからな。流石にめんどくさいよ」
「あ、せやな。でも、ユウキとこうやって食事するんは久しぶりやな」
「そうだな。食堂で食べたほうが手っ取り早いけど、お金がね…あと、人が多いとちょっとな」
「ユウキは人混みが苦手やもんな。っと、料理が冷めてまう。いただきます」
飛鳥は手を合わせて料理を頂く。
飛鳥は焼き鮭定食を頼んでいた。
「鮭はまだ余ってるんだな」
「あの時はアホみたいに頂いたからな。生態系が乱れへんか気になるわ」
「飛鳥のおかげで美味しい鮭が食べれる」
「やめてや〜。ウチだけの活躍じゃないって」
飛鳥は頬を赤くして照れた。
アスカの功績を軽く説明すると、先日とある魔素エリアで川に生き物が生存していることが判明した。
そこで、飛鳥に魔獣討伐の依頼が申し込まれた。内容は難しいものではなかったため、授業の一環として魔素エリアで魔獣退治を実行した。
場所は川の近くだった。戦闘が終わると、魔素エリアからのぞみエリアになった。
後日、川漁師さんからお礼のご連絡が学園に届いた。川の生物が戻ってきたと。報酬として、貴重な川鮭をたくさんゲットした。というお話。
「ここの席ってどうして空いてるんだ?」
「ウチらがよく使ってるからちゃう。ここの生徒はウチらが近づいたら避けよるし。いつごろやったかな、ヒョリンと渚とここで食事を摂ってたんや。そしたら、隣の生徒がまだ食べ終わってないのに立ち上がって別の席に行ったんや。空いたタイミングで、ユウキと夏希が着席したんや。その後、赤阪くんと松原が座った。珍しく全員が揃った翌日から、この席はA組専用みたいになってしまったな…」
「なるほどな。でも、この席が勝手に俺たちのテーブル席になってしまうのは良くないよな」
「せやな。ウチらは特殊な力を持っているけど、他の生徒と仲良くやっていきたいもん。ウチらのこと怖いんかな」
「どうだろうな。聞いてみないと分からないが、直接聞くのは野暮だ」
避けている人間に声をかけるのはデメリットでしかない。仲良かった元A組の生徒に聞いてみたほうが早いかもな。
「誰かおらへんかな、と思っていたら、ちょうどおったわ。美怜〜」
「飛鳥。お久しぶり。元気?」
「この通り元気やで」
飛鳥に声をかけられた長身の綺麗な女の子。
名前は福島美怜。元A組の生徒だ。黒髪ロングでスラッとしている姿は、まるでライトノベルに出てくる生徒会長のようだ。黒のタイツを履いており、濃さは80デニールくらいだろう。夏場は暑そうだ。
「ユウキくんもご無沙汰ね」
「あ、あぁ」
「くく。美女に声かけられて動揺してるやん」
「久しぶりで言葉が出なかっただけだ」
「美女という言葉を否定しないだけ嬉しいわ」
「美怜は相変わらず綺麗だな」
「あなたのために頑張ったんだもん」
「そうだったな…」
「ユウキ、動揺しすぎやで。美怜も一緒に食べようや」
「ええ。ご一緒するわ」
美怜は俺の隣に座った。美怜がA組を降りたのは意外だった。
美怜の能力は高い。
なぜA組を抜けたのか理由を知りたいところだが、不躾なことは聞けない。
「何でA組を抜けたのか?とか思ってた?」
「…やはり美怜には敵わないな」
「あなたをずっと見ていたからね。ほら、髪の長さもあなた好みよ」
「美怜の執念は本物やな」
去年の今頃だったかな。俺は美怜から校舎裏に呼び出しをくらった。特に見覚えはなかったので恐る恐る校舎裏で覚悟を決めていた。
美怜が距離を縮めてきたので、次の一言を待った。
『好きよ』
――告白された
美怜の勇気ある言葉は嬉しかった。しかし、俺は告白を断った。
美怜は綺麗で、好みは俺のタイプであった。
優しくて気が利く。勤勉で頭もいい。運動能力も申し分ない。
断る理由がない。
だから無理なんだ。思い出すんだ。重なるんだ。
理由は言わなかった。
ただ一言、『ごめん』と断った。
そういった経緯がある。
「最近は忙しそうだから大人しくしていたけど、今日から金剛基地に引っ越しだなんて…」
「俺も驚いたよ」
「美怜も来る?」
「遠慮しとくわ」
飛鳥が冗談気味に誘ってみるが、首を縦に振ることはない。
「ユウちゃん。お隣良いかな?」
「あ、うん」
美怜と話していて、渚の存在に気づかなかった。反射で返事をしてしまったが、まずいぞ…
向かいの飛鳥はニヤニヤしてやがる。
「交野さん、ご無沙汰ね」
「福島さんも元気?」
まずは挨拶という軽めのジャブから入る。この2人は名前で呼び合うことはない。
俺は美怜が現れてから箸が進まないことに気付いた。
「ユウキ、はよ食べや。片付けてくるわ」
「お、おう」
いつの間に食べ終わったんだろう。今、飛鳥がこの場から離れられると困るんだが、そして戻ってくれよ。
両隣は黙々と食事をスタートさせている。
「今のクラスに馴染めてる?」
「そこそこね。男子に声をかけられて困ってる。私は女子同士仲良くしたいのだけど、それを気に入らないのか、女子は私に優しくないもの」
「福島さんは綺麗だから仕方がないよ」
「ありがとう。美意識が高いんだから当然ね。交野さんは可愛らしいわ」
「私が可愛いのは、福島さんと同じで努力したからだよ。当然だね」
…
……
………
両隣、俺を挟んで自分の美意識を言い合っている。
そういう話は俺がいないときにやってほしいもの。
この二人は相性が良くないよな。
早く食べてここを抜け出そう。美味しい鮭なんだが、美味しさを感じることができない。
「交野さん、ユウキくんとうまくいっているかしら?」
俺は飲みかけた水を吹き出しむせてしまう。
「うまくいってるよ」
「ふ~ん。羨ましいわ」
「A組に戻る?」
「遠慮しとくわ」
短い言葉だが、両者に火花が散る。早くここから立ち去りたいので、箸が進む速度が速くなる。よく噛んで飲み込むこともしたくない。
食器の返却口から食器を返した飛鳥は戻ってこない。やはり逃げやがった…助けて欲しい。
そそくさと食べ終えて水を飲んだ。さっさと食器を片付けようとトレーを持って立ち上がったとき―
「ユウキくん。これから金剛基地に行くのね」
「今日からだな。いつまでいるか分からない」
「それは寂しいわね。最近身体が元気になったのに」
A組を降りた日から、美怜はしばらく体調を崩していた。元気な美怜を見るのは久しぶりで、また暫くは会えそうもない。
「私は待っているわ―」
美怜も立ち上がり、俺の頬にキスをした。
「なぁ!?」
美怜のあらぬ事の行動に渚は驚きを隠せない。
「うふふ。驚いた?」
「周りに人がいるんだぞ…」
「あら?いけないわ、忘れてた」
微笑んだ美怜はしてやったりだ。渚はわなわなと震えていた。
「ちょ、ちょっと!福島さん!ここは食堂よ」
「だから言ってるじゃない。忘れてたの」
どう見ても忘れてたというには難しいが…
「ほっぺにキスをするなんて…私なんて、ユウちゃんの部屋で寝たのよ!」
周囲がざわついた。A組に視線を向けることが無かった生徒たちは、渚の一言でくるりと視線を俺たちに向けた。
「寝たっ!?ユウキくん、交野さんと何したの…」
「何もしてない」
「一つ屋根の下で何もないのはおかしいわ」
「ユウちゃんの言うことは本当だよ。添い寝しだけ」
「添い寝って…」
「ユウちゃんに腕枕をしてもらっただけだよ。あ、今エッチなことを想像したよね?」
2人は周囲の目も気にせずマウントを取り合う。とてもじゃないが…恥ずかしい…
2人が俺の存在を忘れている間に、そそくさと食べ終えた。急いで食器棚に食器を置いた。
大声が響くが、俺は振り返らずに部屋に向かった。
「はぁ…」
部屋に戻り支度を終えた。




