都島日和の情報収集①-2
魔素エリアに侵入することが出来た人間を調べた。
何か共通点があれば攻略の糸口を掴めるはずだ。
性別
年齢
血液型
筋肉量
体脂肪
脳波
血中濃度
ありとあらゆるものを調べた。
しかし、魔素耐性の可否の違いが認識できなかった。
数も必要と考え、実験に協力できる者を増やした。
やみくもで非効率であったが、魔素エリアに入ることが可能な人間は100人近くまで増加した。
実験に協力してくれるものは、その中で2割ほどだ。もちろん、未知の世界なので強制はしなかった。その上、報酬も少ないと、気乗りする人間がいないのは当然だ。研究の予算はいつもギリギリでやりくりしていた。それでも2割の人が協力してくれるのはありがたい。
世界が終わり、こうして研究できるだけ奇跡なのだ。
実験に協力してくれた彼らの耐久時間を確認する。
最初は1時間と短くして、身体に異常がないか確認をする。
魔素エリアに入ることにより、心拍数が高いものが多かった。しかし、慣れとは怖いものである。最初は恐る恐る魔素エリアに入っていたが、次の実験はためらいもなく入っていく。研究者から見たらそのほうがありがたい。リラックスした状態が体の変化に気づきやすい。
ちなみに、私も魔素エリアに入ることが可能である。自分自身の運の良さに助けられた。
テントを建てて一晩泊めたりもした。
睡眠中に何か異変が起こる可能性もあるため、順番に睡眠をしてもらった。とはいえ、テントで寝泊まりすることは初めてなのだ。テントで寝ることが初めてなので、なかなか寝付けないものが多くいた。
世界が壊れたあと、人類は生き残ることを第一に考えていた。
テントといえばキャンプ。
世界崩壊前は、アウトドアに趣味を持つ人間も多くいたのだ。私はインドアでキャンプの面白さは分からないが、自然と暮らしながら食事をするのが最高に美味しいのだと。キャンプをメインにした映像作品もあったみたいだ。その映像は、映画という大型スクリーンで見ることが出来たみたいだ。あの頃に生きてみたかったと私は軽く妬んだ。
趣味に生きれる時代に戻りたいものだ。
話は逸れたので本題だ。
何とか就寝してもらった。一晩寝ている間に変調は見られなかった。
次はもっと長く過ごしてもらいたいのだが、新しい問題が発生する。それはとても重要な問題であった。
お風呂とトイレがないことだ。短時間我慢できても、日数が多くなるとそうはいかない。一晩とはいえ、お手洗いの配慮が足りなくて申し訳なく思う。
私は昔からのツテを使った。建築を専門としている友人に事情を説明した。急なお願いにも関わらず首を縦に振ってくれた。早急に仮設住宅を作ってもらった。
建築が素人の私は感動した。仮設住宅の中を確認すると、立派な部屋で、20人は暮らせることが出来る。とても広い。
蛇口をひねると水道が出た。それだけではない、電気とガスも通っているのだ。
友人に話を聞くと、魔素エリアに仮設住宅を建築したあと、地中から、我々人間の住むエリアまで、全てのライフラインをつなげたみたいだ。
仮設住宅は、魔素エリアと我々人間の住むエリアの境界線近くなので、短い距離で済んだことが幸いとコメントをしていた。
これがプロの技術ということか……仮設住宅は1ヶ月で完成したみたいだ……
どのように作ったのか?もしかすると、魔素エリアで建築が可能になるかもしれない。
気になることはいっぱいあるが、私は考えるのをやめた。
実験が再開し、仮設住宅に住んでもらった。
彼らの評価は上々だった。自宅に住んでいるのと変わらない生活が出来てこちらもホッとする。
1週間が経過した。
知らない者同士であったが、いつの間に親睦を深めたのだろう。部屋でパーティを楽しめるほど距離が近くなっていた。
理由を聞くと、退屈から始まったのだ。
私はまた大事なことを忘れていた。退屈は精神を不安定にさせる。娯楽も必要と考え、参加者に欲しいものをいっぱい聞いてみた。できる限り揃えておきたいところだ。
多くの要望はテレビが見たいということだ。今の時代、テレビは貴重であるため、私は持っていなかった。
また友人に頼んでみた。テレビと聞くと、少し嫌な顔をされた。粘って交渉してみると、なんとか貸してくれた。今度ご飯をおごらないといけないな。
さらに1ヶ月経過した。
ここで分かったこと。魔素耐性のある人間は、身体の変調がなく、通常通り魔素エリアで生存できる可能性が高くなった。
研究者である私の血は騒ぐ。
入り口付近での実験だったので、奥に進むとどうなるか。
彼らに提案してみた。反対されるだろうと思っていたが、ここまでくると反対する理由がないらしい。むしろ、選ばれた人間であると鼓舞していた。頼もしい限りだ。
彼らには悪いが徒歩で進んでもらった。整備されていない道を車で走るのは少々しんどいからだ。
魔素エリアは我々人間の住むエリアと違うこと。最初から分かっていたが、違いは色だ。全体的に空気がブルーである。なぜこの色なのかは分からない。まだまだ研究が必要である。
かつて街があった場所にたどり着いた。魔素エリアはひどいものだった。崩壊した建物がそのままの状態で残っていた。そこに住んでいたものは、死んだことが分からないまま一瞬でこの世を去ったのだろう。大量破壊兵器は名前の通り、多くの命を奪った。元が何の街だったのか分からないこの場所で黙祷を開始した。
これで死者が浮かばれることはないのだが、残された人間がやるべきだと判断したのである。
街を後にして奥に進んだ。
先頭を歩いていた若者から大きな悲鳴が聞こえた。
その悲鳴は尋常じゃない叫び声だった。悲鳴の聞こえた方に急いで走る。
そこで私たちが目にしたもの――
それは、後に魔獣と呼ばれる怪物との出会いだった。
私は世界の危機を感じた。
西暦2300年6月6日
住道科学研究所所長