魔族に勝てない
俺と夏季と竜馬はアリーナに着いた。待っていたかのように柏原先生が待っていた。それを見た竜馬は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「今日は3人だと聞いていたからね。松原くん、嫌なことでも顔に出さないことを勉強しないとね」
「へーい」
(今日はお姉さんじゃなかったっけ?)
(姉は…別件で仕事があるみたいだ)
狭山先生から柏原先生に代わった理由は分かった。別件が気になることだが、深く探るのは悪いのでそれ以上は夏季に聞かなかった。
「昨日はお疲れ様。苦戦したみたいだね」
狭山先生から聞いたのであろう。結果は狭山先生がいなければ勝てなかった。柏原先生は優しそうに見えてドライで怒ると怖いタイプだ。死んでもおかしくなかったと伝えてくれたほうがありがたいが、どう出るか。
「君たちは魔族に戦うのはまだまだ早いみたいだね。ここにいない人も含めてね」
「遠回しな嫌味はいらねぇんだよ。何の訓練をするんだ」
「まずはイエローレベルを超えてほしいところかな。これから君たちには課題をクリアさせてもらうよ」
竜馬はまわりくどいコメントはいらないとはっきり答えた。柏原先生は竜馬の言葉に怒ることなく何やら設定をいじっていた。すると、柏原先生の前に飛鳥·日和·千早が現れた。
「なんなんだこいつらは?何をした」
「バトル設定を加えました。アリーナのAI機能を用いて君たちをコピーさせてもらいました。これはいつも通り映像が立体化して動いているだけだから、被ダメージもらっても痛くないから安心してください」
魔獣を立体化して実物と再現していたが、まさか仲間が現れるとは。
「こいつらはどうやって作ったんだ?」
「君たちはアリーナで訓練してたよね。アリーナで君たちの戦闘力をデータに取り具現化したものだ。詳しい説明は長くなるから次の機会でいいかな。狭山くん、早速誰かと戦ってみるかい?」
「ん?ああ」
「立体化したものだから被ダメージは痛くないと伝えたけど、実戦だと思って最初から本気で戦ってくれないかな」
「了解。俺は飛鳥を指名する」
話の展開は早いが、要はコピーされた人物と戦うということだ。飛鳥のコピーは前に出て戦闘の構えになる。2丁ナイフで敵に構える姿は本人と同じだ。お互い戦闘の準備はできたようだ。
「悪く思うなよ偽飛鳥。本気で斬らせてもらう」
夏季は1発目から技を出した。大剣で敵を素早く斬る技“彗星”が飛鳥に向ける。
通常の敵なら構える間もなく斬られるのたが、偽飛鳥は違った。刃が当たる直前に素早く避けた。それだけではなかった。
「なんだと…」
偽飛鳥の2丁ナイフは夏季の腹部に刺さっていた。立体映像なので身体にダメージはないが、本物だったら夏季は致命傷になっていただろう。
夏季は偽飛鳥から離れて距離をおいた。次は当たらないように慎重になる。飛鳥は魔法攻撃がメインだが、物理攻撃は2丁ナイフで敵を掻っ切る。素早いナイフさばきは常人が防ぐことは不可能だ。夏季は大剣を縦に振り、振った先から衝撃波が飛鳥に向かっている。大剣を離れたところから攻撃できる夏季の唯一の技“”だ。衝撃波は偽飛鳥に直撃したが、体が少し揺らいだだけで効果は薄い。その一瞬のすきに夏季は即座に大剣を縦に振り下ろした。
「なに!?」
「おいおい嘘だろ…」
偽飛鳥は2丁ナイフで大剣の攻撃を止めた。通常ではありえない光景だ。物理攻撃力は夏季が圧倒的に有利だ。しかし偽飛鳥は大剣をおもちゃの剣同様にいなして、大剣を払い除けた。払い除ける力が強かったのか、夏季の手から大剣が離れていた。夏季は勝算を失い両手を上げて降参した。
アリーナは最新鋭の設備だ。最新のデータで敵を具現化している。これは“アナライズ”という補助魔法を用いて敵の情報をアリーナにインプットしているからである。さらに面白いのは、立体映像なのにこちらの攻撃を受けることが可能である。さっき夏季の攻撃を2丁ナイフで受けた偽飛鳥が分かりやすいだろう。より実戦に近づいた訓練が可能になっている。なんとも都合がいい施設だ…
目の前にいる3人はアリーナの訓練で戦闘力をデータ分析した結果だ。
それにしても―
「いやいや、コイツそんなに強かったのか?」
竜馬は俺が考えていたことをそのまま放ってくれた。飛鳥は素早いが、夏季の攻撃のスキにカウンターを食らわすことはできないはずだ。これはもしかすると―
「この子らは魔素エリアイエローに達しているよ」
俺の心を読んだのか?それとも表情に出ていたのか。
「ふふ。始まったばかりだけど一旦中断しようか」
笑みを浮かべた柏原先生は模擬戦を中断した。偽物たちの動きも止まった。気になったので問いかけてみる。
「ここにいる飛鳥たちは、イエローで戦えるレベルに上達したら今のような強さになる計算ということですか?」
「そうだよ。当然だけど今の君たちは勝てないね」
「そいつは面白い計算だな!あんたら先生はどれくらい強いんだ?」
「私と狭山先生はホワイトだね。残念ながら最高位のグレーに届かないさ」
魔素エリアの空気は色があり、ホワイトは魔族がいる強力なエリアになる。最上位はグレーである。グレーの次に強いのはホワイトだが、グレークラスになるとホワイトは赤子扱いになる。
「ホワイトだと!模擬魔獣レベルの数字でいうとどれくらいなんだ!?」
「75くらいだね」
「く…」
「ちなみにグレーは100超えだからね」
竜馬は何も言葉にできなかった。
「模擬魔獣レベルの数字はあくまでも目安だからあまりあてにならないんだよね。魔素エリアのカラーの方が参考になる」
今のアリーナはバージョンアップして、魔素エリアにかなり近づいた。魔素エリアの仕組みは謎だが、色が強さになっているのは事実だ。
「アリーナはもっと改良が必要だね。私達が倒さなければならない魔族はグレーなんだ」
「柏原先生。グレーレベルの人間はいるんですか?」
俺は素直に質問をした。人類の強さの上限が気になるところ。
「グレーレベルの人類は誰もいない」
「それは最高にアウトじゃねえか!魔族が人間世界に入ってくるのも時間の問題だな!」
「そうだね。魔族は階級の低い魔素エリアに馴染むには時間がかかるんだ。のぞみエリアで生きることは出来ない。だから魔力のある私達がレベルを上げるしかないんだ。しかも放置していたら魔素エリアのレベルが上がりそうだしね」
柏原先生の言うことは分かる。魔素エリアは放置すると拡大してしまう。そうならないため魔獣を倒して魔素エリアをのぞみエリアにしていく。根っこであるグレーの魔族を倒せば人類の勝ちだが、現状はホワイトが限界だ。
「人間界で1番強いのは誰だよ」
「授業で教えたんだけどな。その人はなみはや学園の卒業生で、現在は特殊部隊のエース“旭”隊長さ」
「あぁ。バカでかい軍の基地にいるあいつか」
隊長をあいつ呼ばわりするのもどうか……
「彼とはいつか会えるかもね。生きていればね」
生きていれば。
その一言でA組の覚悟を思い出す。今更ながら俺達は命を投げ出す覚悟で魔族と戦うことを決めた。
「へっ!要は死なないよう鍛えれば良いんだな!」
「脳筋だな……」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
夏季は明らかに聞こえるように言った気がするが…
「お喋りはそこまでにして訓練の続きにしようか。レベルはイエローのままだよ。次は守口くん、指名していいよ」
「それなら…千早で」
偽とはいえ、女の子に攻撃するのは気が引けたので千早を指名したが、うん。千早も可愛い分類になっていた。
魔素エリア 城塞都市跡地
「やれやれ、邪魔をしましたね、鶴見さん」
「もう良いだろ。そのへんにしとけよ」
鶴見は解剖されている男性の頭を回転式拳銃で撃った。
男性はすぐに動かなくなった。
「人間がお嫌いになったのなら放っておいても良かったのですが」
「苦痛を味わせるのは俺の趣味じゃねえんだよ」
「左様でございますか。魔族になるにはまだまだですぞ」
鶴見はシラサギに回転式拳銃を向けた。
「何度言わせるんだ?俺は魔族になる気はねえ。気に食わねえ人類を滅ぼしたいだけなんだよ」
「んふふふふふふふふふ。撃ちたければどうぞ」
2人は互いの目を見る。シラサギは白いオーブで顔が見えないが殺気は感じる。鶴見は気だるそうに銃口を下げた。
「お前のやり方は気に食わねえけど、仕方がねえからともに動いているだけだ。俺が力を手にしたらお前らは用済みだ」
「んふふふふふふふふ。それは楽しみですな。さてさて、間もなくお仲間が帰ってきます。幹部会議の時間ですな」
「魔族に仲間という概念があるのかよ…」
鶴見は研究室を後にして、幹部が集まる会議部屋みたいな場所に移動した。




