想い出
―――――
家が燃えている。というより、家が燃やされている。
「この町から出て行け!」
「お前たちはこの町の害悪だ!」
私達家族の家を燃やした人たちは、私達に罵詈雑言を浴びせる。お母さんが出かけている時を狙って、集団で私達を追い詰めている。多勢に無勢だね。
なぜこうなったのか?
それは私達が知っている。けれど、私達は何もしていない。向こうが勝手に私達を嫌悪しているだけ。
彼らは私達に物を投げつける。私に当たらないようにお父さんが身を挺して護る。石や瓶がお父さんに直撃し、頭から血が出ている。
「どうしてこんなことに……お父さんとお母さんは何もしていないのに。こんなのってないよ!」
私は泣く時間も許されなかった。
1人の人間がお父さんの背中を思い切り蹴り上げて、私とお父さんを切り離した。お父さんは数人の人間に殴られ蹴られて、酷く苦しんでいる。
私の髪を乱暴に掴んだ。お母さんが褒めてくれた私の髪がグシャグシャになろうと関係がない。私の脇腹に蹴りをいれてきた。私は声にならない息を吐いて苦しんだ。苦しむ余裕はなく、次から次へと私への暴力が繰り返される。
「まずはこいつを殺せばいい」
「お前ら家族連帯責任だ」
顔は腫れて、鼻血が出て、服は酷く破れて。
可愛い女の子になりたくて、可愛い服を着て、お母さんのように綺麗になるために目指した私の身体は醜くなっていた。
「や、やめてくれ…娘だけは―」
「うるせぇんだよ!裏切り者!」
誰に何を裏切ったの?
「俺達を騙しやがって!」
誰に何を騙したの?
そんな問いにまともに応えられることはないだろう。
私とお父さんはこれから死ぬんだね。
覚悟を決めたその時――
「オマエタチ、ナニヲシテイル?」
お母さんが異変に気づいて家に戻ってきた。
私とお父さんの有り様、そして燃える家を見たお母さん。
お母さんは激昂していた――
―――――
「ぅ…う……」
「起きたか」
「飛鳥ちゃん…?」
「無理して喋らんでええ。今学園に帰ってるところや」
「うん。みんなは?」
「疲れて寝てるわ」
目を開けてぼんやりしてるけど、また倒れたのかな。さっきまでの記憶を思い出す…
そうだ。ライガーと戦っていたんだ。夏季くんとお姉さんが一撃で倒したんだった。2人共格好良かった。
魔素エリアがのぞみエリアに戻った途端に、私の力が抜けたんだった。
お茶会楽しみだったのにな…またみんなに迷惑をかけちゃった。
「飛鳥ちゃん―」
飛鳥ちゃんは私が考え事をしている間に寝ちゃってた。バスの中は静かで、周囲を見てみるとみんな寝息をたてている。隣の飛鳥ちゃんは私をずっと見てくれたんだ。私が起きたことにより、安心して寝ちゃったんだね。飛鳥ちゃんありがとう。
「はぁ…」
また昔の夢を見た。思い出したくない夢。
飛鳥ちゃんは…夏季くんは…クラスメイトは私のことを知った時、仲間だと見てくれるかな。それとも――ううん。考えるのはよそう。ユウちゃんも覚悟は出来ている。私にはユウちゃんがいる。
まだ疲れが残っているので、私はもう1度目を閉じて寝ることにした。
(今度は幸せな夢がいいなぁ。ユウちゃんと。ふふふ)