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End magic and war.  作者: 椎茸トマト
A組始動
13/34

未熟

“ライガー”は雄叫びを上げ威嚇した。雄叫びは地面が揺れるような衝撃波。

実物で見ると、大きさ、威圧感は半端ない。

一口で人間の体が千切れるほど大きな口に長い牙。存在自体が脅威である。


「江坂さん!ここは離れてください!私達に任せてください!」


江坂さんはライガーから距離を取って離れた。ちょうど狭山先生がいたので、そこにとどまる。


「狭山先生、彼らは大丈夫なのでしょうか」

「正直言って厳しいと思います。仮に勝てたとしても、この先はもっと厳しい戦いになると思います」

「……」

「江坂さんの仰りたいことはわかります。彼らは覚悟を決めた、なみはや学園A組のクラスメイトたちです」

「しかし……」

「安心してください。本当にやばくなったら彼らを助けます。今日の責任は私にあるので、彼らを死なせる気はありません。彼らを信じてあげてください」

「わかりました。彼らを信じます。」

「ご理解いただきありがとうございます」




ライガーは飛鳥と松原に鋭い眼光で睨みつける。


「……やったろうやないかい」

「お、お前ビビってるのか?」 

「はぁ!?あんたもさっきから覇気があらへんで。自慢のゴリラの高笑いはどこにいってん?」


初めて見る強敵に飛鳥と松原の顔に汗が垂れる。アリーナで強敵と戦う機会は沢山あったが、今日は実戦だ。

都島さんも冷静な判断を鈍らせている。魔導書のページをうまく捲れない。手を震わせている。


「ユウキ。接近戦は任せてくれ。渚と援護を頼む」

「あぁ。分かった」

「うん」


夏季は冷静だ。頼もしい。


「あなた達。訓練を思い出しなさい。冷静さを無くしたら勝てるものも勝てないわよ!」


狭山先生から激がとぶ。狭山先生はこれまで戦闘に参加していない。俺達を見守るスタンスをずっと続けている。


「弱点は分かりました。有利にすすめてください」


都島さんが教えてくれた弱点は水属性。

都島さんは俺達全員に物理攻撃と魔法攻撃を上乗せする“ハイパー”で強化。

赤阪はライガーに動きを遅くする魔法“スロウダウン”を与える。

敵の弱体化、味方の強化は基本だ。だが、それで勝てる相手ではなさそうだ。


状態的に有利にもかかわらず、ライガーは持ち前のスピードで松原をターゲットにした。振り下ろした前脚で攻撃。松原はガードをするが、ライガーは雄叫びをあげ、その衝撃波で吹っ飛んでしまった。本当にスロウダウンをかけたのかと思うくらい、ライガーは素早かった。


「竜馬!」

「アホ!よそ見すんな!」


松原に目を配った赤阪。ライガーはその隙を見逃さなかった。


「うああぁぁぁぁ!!!」


ライガーの口から吐いた炎が赤阪にもろ直撃し、倒れて動けなくなった。


「千早!てめぇこの野郎!!」


松原は憤怒した。怒りの感情を任せてライガーに攻撃するが、単純な攻撃のため簡単にカウンターを食らう。まるで飛んでいる蝿を払いのける感覚で松原は弾け飛びされた。


ライガーは倒れている赤阪に追撃を仕掛ける。間に夏季が入り、大剣で斬りつける。初めてのダメージでライガーは一瞬怯んだ。俺はその隙に赤阪を掲げ、渚の元へ運んだ。


「今回復するからね!」

「交野さん……ありがとう」


渚は急いで回復魔法を行う。

渚の高い回復でも時間がかかる。並の人間がライガーの炎を食らうと消滅したであろう。なみはや学園の制服も魔力に耐えれる素材なので、燃えずに済んだ。赤阪の魔力が低かったらこの世にいなかっただろう。


夏季はライガーに攻撃するも、さっきので太刀筋が見えたのか、躱すのがうまくなる。やり方を変えてダメージを与えるが、ライガーから攻撃を受けて少しずつのダメージが加わる。


「竜馬受け取って!」


回復した赤阪は松原に水属性を付与する。松原は冷静さを取り戻し、ライガーの攻撃を少ないダメージになるように受けて、属性攻撃を仕掛ける。松原の攻撃力と弱点属性は見事なのだが、ライガーのレベルが高くて、大ダメージを与えられない。


俺の狙撃銃や渚の魔導銃も効きが悪い。なかなか硬いな…。


松原はライガーの攻撃で夏季のところまで吹っ飛んでしまった。


「ちっ…強いじゃねぇか」

「松原、時間を稼げるか?」

「狭山弟……どれくらい稼げば良いんだ?」

「できるだけ頼む」

「はっ!無茶を言いやがる…」

「赤阪、俺に水属性付与の魔法をかけてくれ」

「分かった。必ず倒してよね」

「ああ。みんな、少しだけ頑張ってくれ」 

「皆さん、狭山くんを攻撃の対象にならないように戦って下さい!」

「分かった!おい、ライトラ野郎!こっちに来いや!」


夏季は気を溜め始めた。夏季は隙だらけになるので、全員が夏季を守りながらライガーに立ち向かう。

飛鳥は水属性魔法攻撃をライガーに与える。マジックパウダーも残り少ない影響もあり、小さい水属性魔法を連続でぶつける。飛鳥の立ち回りはうまく、夏季を遠ざけることに成功する。

ライガーは雄叫びをあげて、怒りの炎を吐き出した。


「赤阪!?」

「池田さんが1人で時間稼ぎをしても仕方ないでしょ」


赤阪の吸収魔法“ドレイン”が炎を吸収する。


「アンタの魔法は()()が悪すぎんねん。でも助かったわ」

「僕は池田さんみたいに高い攻撃魔法はないからね。嫌がらせの魔法にした――」


ライガーは2人に会話をさせない。今度は鋭い爪で前脚を振りかぶったが、攻撃を見切って避ける。しかし、前脚は囮であった。ライガーの長い尻尾が二人に向かって振りかぶった。


「池田さん!」

「っ!」


赤阪は飛鳥を庇いガードした。赤阪は弾け飛ばされ、地面に倒れた。

今の攻撃で隙が生まれ、松原はライガーの顎にアッパーを食らわした。


「猫はコタツで丸くなっとけよ!おい!池田!千早はそんなんじゃ死なねえ!」

「ゴリラのくせにやるやんか!」


俺は今の松原の攻撃を機に狙撃銃の発射パターンを3点バーストに切り替え、3連射でライガーの脚を狙い撃ちにした。動きを鈍らせるには脚が1番だ。右後ろ脚を集中的に狙う。流石にライガーも速い動きはできなくなった。松原はライガーの懐に入り込み、みぞおちの部分に拳を振り上げた。効いてはいる。が、暴れたライガーによって松原は弾かれる。

ライガーは夏季の圧倒的な存在を感じ取った。夏季を見た瞬間、本能的に恐怖を感じた。

ライガーは夏季に向かって大きな炎を吐いた。さっき赤阪に食らわしたものより威力が高い。


「させません!」

「させへんで!」


飛鳥と都島さんが前に立ち、防御魔法“プロテクト”で夏季の盾になる。魔力の高い2人は燃え盛る炎に耐えている。ライガーは炎を吐き終えた。 

 

「はあはあ……なんや蝋燭みたいなしょぼい火やな…次も来いや!」

「できれば次も来てほしくありませんが、狭山くんのために耐えます!」


ライガーは再度炎を吐き出した。2人は苦悶の表情を出しながらも全力で夏季を守る。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」

「……っ!」


2人は片膝をつき肩で息をし始めた。次の攻撃に耐える力はない。


それでもライガーの攻撃は続く。飛鳥と都島さんを前脚で払いのけた。松原もさせまいと攻撃を食らわすが、簡単に弾かれる。


「ぐ、ここまでか……狭山弟、すまん」


ライガーは盾がなくなった夏季に向かって走り出した。夏季が動けない今をやるしかないと判断したに違いない。夏季の目の前に大きなライガーが迫ってくる。


「夏季!もうええ!逃げろ!」


ライガーは大きな口を開けて、夏季を噛み殺す動作に入る。飛鳥は殺られると思い目を逸らした。


「持たせたな。狭山流剣術奥義“百舌鳥(もず)”!!」


夏季の大技にライガーは横に一刀両断された。水属性が付与し、さらに一撃に力を溜めた大剣。この2つが揃った結果、ライガー自身何が起こったのかわからないまま死んだ。

ライガーはマジックパウダーと化した。


「はぁはぁ…ふぅ…少し休ませてくれ」


夏季の必殺技は己自身に反動が来る諸刃の剣。大剣を地面に刺し体を支える。


「しっかり休み。ホンマに助かったわ」

「お前はどこでそんな技を覚えたんだよ……」


みんなはまだ起き上がれないが、強敵を倒した夏季に賛辞を送った。

強敵に勝利して安堵した直後、遠くから何かが走る音が聞こえてきた。この振動は大きなものが動いている。


「まさか……」


都島さんが絶望の顔をした。それは当然だ。ライガーは1体ではなかったのだ。もう1体やってきたのだ。


「ははは……もう一回やれってか」

「おもろいこというやん……猛獣にはゴリラのアンタが行けや」

「竜馬……終わりだ」


都島さんと夏季は言葉を発することは無かった。終わりだと諭した。


俺と渚は遠距離組だったため、少し離れた位置にいた。


「渚、どうする?」

「仕方ないかな」

「諦めるしかないか」

「そうだね。諦めようかな」


俺と渚は()()()選択を決定した。

覚悟を決めた俺達は前に出ようとしたその時――


「ここいらが限界かしらね。あなた達お疲れ様。ここからは私が参加するわ」


担任の狭山冬美(さやまふゆみ)先生が動いた。今まで戦闘に参加しなかった先生が遂にベールを脱ぐ。ライガーは待ってはくれない。目の前に現れた狭山先生に大きな口を開き噛み殺そうと牙を向けた――

その次に映った光景――ライガーがふっとばされていた。


「ユウちゃん。今の見えた?」

「僅かだか見えた。素早く避けて、蹴りをかましてたな」

「私達は諦める必要はなくなったかな」

「そうだな、勝負は決まった」


俺達の感想は置いといて、ライガーが思ったより遠くに吹っ飛んでくれたので、怪我をしたクラスメイトを治療する。クラスメイトは立ち上がるほど回復した。


「姉さん……」

「夏季、さっきの攻撃は見事よ。あなたはまだまだ強くなれる。今は休んでなさい」


「冬姉……」

「池田さん、あなたの魔法攻撃は粗さが目立つ。もっと精巧になさい」


「先生……」

「都島さん。もっと気軽になっていいのよ」


「ちっ、」

「松原くん。悔しいのなら強くなりなさい。その程度ではないでしょ」


「どうせ僕なんて」

「赤阪くん。ネガティブはあなたの武器にはなるけど、引っ込み思案は卒業しなさい」


厳しくも優しい声を1人ずつかけた。


「これでもA組の担任ですので、責任は私にあります。帰ったら反省会をします」


狭山先生は俺達の方にも歩を向けた。


「あなた達…いえ、なんでもないわ」


狭山先生は俺たちに何か()()()のであろう。



狭山先生は武器を構える。腰に構えている鞘を抜くと、光が反射するほど磨き上げられた刀が出てきた。夏季の大剣とは対極に細い。俺は感じる。狭山先生はこの刀でどれほどの敵を切ってきたのか。

ライガーは危険本能を感じたのか、大きく狼狽える。本気の炎を吐き出した。狭山先生はノーガードでもろに受ける。


「残念だけどこのレベルでは私は倒せないわよ。次は私の番、安心して頂戴。すぐに終わらせてあげる」


クラスメイトにダメージを与えた炎を浴びた狭山先生は、何事もなく無傷だ。

狭山先生は両手で刀を構え、目を瞑り攻撃態勢になった。


「あなたを天に召されることを祈ります。狭山流剣術奥義“(おおとり)”!!」

開眼後、速すぎる動きでライガーは防御することもできなかっただろう。

ライガーは縦に一刀両断され、マジックパウダーと化した。

2体のライガーを倒した直後、魔素エリアの色は俺達の知るエリアに変わった。のぞみエリアに戻ってきたということだ。


俺と渚は倒れている仲間に回復魔法で回復させる。俺の回復魔法では足りないかもしれないが、それは許して頂きたい。足りない分は渚に任そうと思うのだが……渚は大丈夫かな。


「皆さん、本当にありがとうございます。おかげでこのエリアの安全が保証されました。なんとお礼を言っていいのやら」


安全が確保され全員が帰れるくらい回復したところで江坂さんがお礼を申す。


「私達は特に何もできてないです……狭山先生がいなかったら終わってました」


都島さんの言う通り狭山先生がいなかったらA組は終わってたのだろうと、都島さんの中では申し訳無さが目立った。


「私の小屋でお茶菓子をご用意しようと思います。採れたての緑茶を是非召し上がって頂きたいです」

「マジで!?メッチャ美味しい緑茶を飲みたい!」


戦いの後は休息が必要だ。飛鳥はキラキラと喜んでいるが、俺も同じ気持ちだ。心が落ち着く緑茶を飲めるのはありがたい。


「今はクヨクヨしててもなんにもならねぇ。お茶飲んで落ち着くしかねえだろ」

「松原くん…そうですね。甘いものをとってリフレッシュにしましょう」

「ヒヨリン、お茶飲みながらやけどヒヨリンが使う魔法のコツを教えてくれへん?」

「ふふ。良いですよ。私は赤阪くんの魔法を教えて欲しいです」

「僕の魔法を誰かに教える日が来るなんて…嬉しいかな。じゃあ僕は交野さんの回復魔法の極みを教えてほしいかな」

「うん、いい…よ。私…は――」


渚は体の力が抜けて倒れた。

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