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End magic and war.  作者: 椎茸トマト
A組始動
10/34

出発

俺達は遅れて教室に戻る。

モニターに桃山台の地図が表示されており、近くに魔素エリアある。


「戻ったわね。モニターに写ってる地図を確認して頂戴。出発準備が終わったらバスに乗ります」


他のメンバーは先に説明を受けていたのだろう。モニターから察するに、のぞみエリア最北端の町【桃山台】は魔素エリアと境界線に近い。去年見た記憶だと、魔素エリアとの距離に余裕はあったはずだ。町が危険になるので、魔獣を倒して安心させてあげたい。俺と渚は早々に準備を終わらせた。


「都島さん。あなたは理事長室に1番早めに来ていたわね。私はその時にお伝えしたけど、改めてみんなに伝えるわ。都島さんをA組のまとめ役にお願いしたの」

「ええと、私で良ければなんですが、新しくなったA組をまとめていきたいと思います。皆さんどうか宜しくお願いします」


都島さんがリーダーか。適任だな。クセが強いA組に必要な人材だ。


「都島さん。ウチも足引っ張らんようにやるから、遠慮なく指示してや」

「ありがとうございます。私も何か困ったことがあったら皆さんに聞くと思いますので、その時は宜しくです。では皆さん、準備ができたようなので、用意されているバスに乗り込みましょう」


念の為装備品の確認を終わらせてから教室を出る。

校舎を出るとバスは校舎前に停車していた。いつでも乗っていい感じだ。大きさは中型。全員乗っても席が余る。

バスの扉が開くと飛鳥は一番乗りに入る。


長田(ながた)さん!いつもありがとう!今日も宜しく!」

「おう、池田さん。相変わらず元気だな!」 


クラスメイトと狭山先生はバスを運転する長田さんに挨拶を交わしそれぞれ席につく。長田さんは学生寮の寮長で元気なおっちゃんだ。寮の管理の他に、遠征に行くときいつもお世話になっている。

全員が揃って、それぞれの席に着いたところでバスは目的地に向かって発車する。

中型バスは前向きシートで左右に2席ずつある。人数はバスの大きさの割に多くなかったので、1人で2席分確保して、片方は荷物置きになった。狭山先生は車内に設置されているマイクを持ち立ち上がる。


「あなた達は初任務を迎えます。今までの授業とは違い本番よ。魔素エリアは授業中に入ったことがあると思うけど、桃山台近くの魔素エリアはもっと強い魔獣がいます。くれぐれも油断しないで」

「そのエリアの魔獣レベルはどれくらいなんだ?」

「参考程度にしかならないけど、アリーナで言うところのレベル7よ」

「俺等のデビュー戦にしちゃ余裕じゃねぇか」

「あくまでも目安よ。もう一回言うわね、油断しないで」

「はいはい、わかったよ。先生」


松原は毎日のようにアリーナで訓練し、模擬バトルを繰り返していて自身はあるようだ。過去の授業中に、今のクラスメイト全員は魔素エリアで魔獣と戦って勝っていた。しかし、あれはチュートリアルみたいなもので、魔力を覚えたての人間がお試しで行くエリアだったからだ。松原は認知はしているし、実力はある。アリーナでの訓練は嘘をつかない。しかし、アリーナはあくまでも模擬戦であって、実際に行く魔素エリアは本物。俺と渚はアリーナレベルを信用していない。


「桃山台に着いたら町長から事情をお聞きします。今はリラックスして頂戴」


他のクラスメイトを見ると欠伸を多くしていた。昨日の今日だ。眠れなかったに違いない。俺は別の理由で眠れなかったが……

長田さんの運転は心地よくて眠くなる。せっかくなので、目的地に着くまで仮眠をとることにした――



―――――

目覚めると天井がぼんやりと見える。意識がはっきりしない。ここはベッドのようだ。ぼんやりした視界で、ものが見えづらい。目を動かすと、1人の白衣を着た大人がかすかに見える。寝ている俺を見ているのがなんとなく分かる。


『起きたようだね。そのままゆっくりで大丈夫だよ』


男は俺に優しい声をかけてくる。声で分かった。この人は俺に親身に接してくれる研究員だ。


『実験は成功したよ。君はまた強くなった』


あぁ、前日に大きな実験をしたんだったな。めちゃくちゃ苦しかったな。よく生きていたもんだ。


『君は魔族を倒すために必要な人間なんだ。許してくれ』


許すも何もあんたに恨みは無いさ。

―――――



「――守口くん起きて下さい。もう少しで着きますよ」


俺は体を揺らされて起きた。後ろの席にいた赤阪に起こされた。


「あぁ、起こしてくれてありがとう」


また夢を見た。これで何回目なのか。過去に経験した出来事が夢に出てくる。忘れたくても忘れられない。なみはや学園で人間らしい生活を送れたのはありがたいが、結局は魔族と戦う運命は避けられない。しかし、今はそんなことはどうでもいい。今日の任務のことを考えよう。


桃山台に到着した。町長のいる庁舎にある駐車場でバスが停車する。庁舎の壁は赤煉瓦で作られていて歴史を感じる。

俺達はバスを降りて庁舎の入口を見ると、スーツを着た年配の男性が立っていた。理事長と年齢が近そうだ。狭山先生は、足早に男性のもとに向かった。俺達は後に続く。


鴫野(しぎの)町長。わざわざ入口まで降りていただきありがとうございます」

「こちらから依頼をかけたので出迎えるのは当然ですよ。遠いところからありがとうございます。海老江理事長から、なみはや学園のことはよく聞いております。こちらがA組のクラスメイト達ですかな?」

「はい。今年から彼らも協力していただく優秀なクラスメイトです」


狭山先生は俺達をたててくれる。優秀なクラスメイトと聞いて口角が少し上がる飛鳥。


「いえいえ。私達はまだまだ未熟者です。狭山先生の足元に及びません」


謙遜な姿勢を見せる都島さんを見て、上がった口角を慌ててもとに戻す飛鳥。飛鳥は素直に感情が表れる。


「まぁ立ち話も何だし、会議室で詳細をお伝えしましょうかね」


庁舎に入り、2階にある会議室に案内された。

ここに来るまで感じたこと。今日が初任務ということなので、クラスメイトはいつも以上に静かだ。松原や飛鳥も珍しいくらい口数が少ない。


「適当にかけて下さいな。もうすぐこの町の名茶が来るので味わって下さい。改めまして、私は桃山台の町長、鴫野勇(しぎのいさむ)と申します。宜しくお願いします」

「「宜しくお願いします」」


俺達全員、町長に挨拶をする。

お茶はすぐに手元に届く。温かく綺麗な若葉色をしており、瑞々しい香りが心を落ち着かせる。一口飲んでみると、苦みと渋みが口の中に広がり、気持ちが軽くなった。久々に飲んだ緑茶は美味しい。クラスメイトも緑茶に笑みが溢れる。世界が終わる前はどこにでも手に入れることが当たり前だった。現在は全ての食材も貴重品だ。


「喜んで頂き私も嬉しいです。今回の任務は緑茶の命運がかかっています」


町長は本題に入る。笑みがあったクラスメイトは真剣な表情にシフトする。町長はモニターを開き地図を表示させた。


「現在の桃山台と魔素エリアです。海老江理事長から、魔素エリアが桃山台に迫っているので、魔素エリア内の魔獣たちを倒して欲しいと伝えられていますが、注目して欲しいのはここです。今、君たちが飲んだ緑茶を作っている茶畑が、魔素エリアに飲み込まれようとしている。魔素エリアに飲み込まれると茶畑が死んでしまう。君たちに茶畑を守ってほしい。これが今回の任務になる」


それは不味いな……こんなに美味しいお茶が飲めなくなるのはゴメンだ。絶対に成功させないと。


「任せてくれ。俺の拳が暴れたくてしょうがないぜ」

「君の欲求を晴らすための任務じゃないからね」

「そんなことは分かっている。けど、訓練の成果を発揮させたいだろ?」

「訓練は死なないためにやってるんだよ」


松原と赤阪。何とも凸凹なコンビだ。何回か松原に突っ込んでやろうと考えてたが、面倒臭くなるのでスルーしていた。赤阪との関係性は深く知らないが、松原の扱いは赤阪に任せよう。


「町長、質問があるのですが」

「都島さんだったかの。どうぞどうぞ」

「魔素エリアが桃山台に迫って来てるのは、強力な魔獣が存在しているからですか?」


都島さんは強力な魔獣の存在有無が気になるようだ。確かに、魔素エリアが広がる理由は魔獣の体内から放たれる瘴気みたいなものが魔素エリアの拡大理由だ。俺達人類側は広がりを防ぐために、毎日毎日魔獣を倒している。魔獣がいなくなった地域は魔素エリアの濃度が薄くなる。すぐに変わらないが、魔素エリアの魔獣をのぞみエリアに入れないことを継続することが大事だ。


「魔素エリアの迫り方を見ると間違いない。原因はその魔獣の可能性が高い」

「ありがとうございます。皆さん、戦いの準備は出来ていますか?」

「出来てるで!あ、そうそう、その魔獣を目撃した人おらん?特徴とか弱点を聞いてみたいんやけど」

「そうですね。茶畑で働いてる者の1人が魔素エリアに入れる。その方に聞いてみると良いかもしれん」

「了解!町長おおきに!」


現地で情報収集しないといけないか。


「あなた達はもう少し大人になりなさい。相手を見て言葉を選んで頂戴」

「まあまあ狭山先生。若気の至りというものですな。講師になる前のあなたを思い出します」

「そうでしたね……鴫野町長、これから私達はバスに乗り茶畑に向かいます。この任務は成功させますのでお任せ下さい」

「くれぐれも無理だけしないでいただきたい。入口まで見送りにさせてもらおう」

「ありがとうございます」


狭山先生は鴫野町長から大変お世話になったんだろう。庁舎の入口の場面で鴫野町長に敬意を表していた。昔の狭山先生が気になるが、今はそれどころではない。

バス乗り場まで見送りにきた鴫野町長は最後まで腰が低かった。

この町のため、美味しい緑茶のため、俺達は魔素エリアで戦う。

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