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嘘を言えない聖女様

作者: なるみ
掲載日:2021/06/18

初投稿です。

 ふわりと舞う風に乗った髪が頬を撫でるくすぐったさに思わず眉をひそめた。空気の匂いが変わったことに不安を抱きつつ、私は閉じていた目をそっと開く。目前には、中世ファンタジー(イメージ)風の、金髪や銀髪の人々が喜色を浮かべて盛り上がっている風景があった。なんだこれ。


「殿下、召喚成功です!魔力もこの国の誰よりも高い!紛れもなく『聖女』です!!」


 『召喚』、『聖女』という言葉に、まさかそんなと言葉をなくした。知っている、ラノベで読んだことある。異世界召喚って実在するの?

 周りを見回すと、コケが生えていそうな石作りの壁には等間隔に地味な色のタペストリーが飾られ、柱には蔦のような彫刻、天井は謎の絵が描いてある。遠くてよく見えない。エアコンはもちろんなさそうで、微妙に寒い。


「あの、ここはどこですか?」 


 他にも質問したいことは山ほどあるが、まずは一番気になっていることを聞いてみる。一瞬シンとなる一同、その中で赤いマントを羽織った金髪碧眼の偉そうな若者が、一歩前に出て声高らかに言う。


「ここは神聖ジェリエルン王国である!」


 聞いたことがない国名だった。そうか……と息を吐き、次の質問をする。


「なんで私はここに、」


 私の質問を最後まで聞かず、偉そうな若者が大きな声で偉そうに答えた。


「貴様にはこの国に攻めてきた魔王軍と戦ってもらう!その後は魔力豊富な奴隷として死ぬまでこき使う予定だ!そして俺はこの国の王太子!敬え!!」

「で、殿下!?なぜそのような本当のことを!?」

「!? なんだ、口から勝手に本音が出てくる!?」


 ざわつく人々(モブ)、うろたえる自称王太子、何言ってんだこいつと半眼になる私。

 そんな阿鼻叫喚の広間に、まばゆい光が差し込んだ。


「みなさんこんにちは!私は異世界召喚の女神さまだよ☆」


 鈴を転がすような声が軽い言葉を奏で、背中に羽根の生えた金髪美女が登場する。可愛いと妖艶がまざる、私の語彙では表現できないくらいの美人だった。その大きな赤い瞳に見つめられながら「死ね」と言われたら、「はい喜んで」とナイフで首を掻っ切るかもしれない。結婚してほしい。


「久しぶりに異世界召喚が行われたから、うれしくて出てきちゃった☆」

「め、女神だと!?」

「まさかこの方は伝説の【異世界召喚の女神様】!なんて神々しさだ!」


 王太子や人々(モブ)が一斉に床に土下座する。あ、土下座じゃなくて平伏って言うんだっけ?というか、【異世界召喚の女神】とかいう安直なネーミングはなんだ。馬鹿にしているのか?


「せっかく召喚し召喚される間柄になったんだから、みんな正直に腹を割って仲良くなるといいなって思うの☆」


 胸の前で指を組み、祈るようなしぐさで女神が微笑む。


「だからみんなに【嘘を付くことができない祝福】をあげちゃいます☆仲良くしてね!アデュー!」

 

 呆然と女神を仰ぐモブたちに向けて投げキスをし、顔は良いけど頭の悪そうな女神が天に帰っていった。

 モブと王太子がそぉっと私を窺う。なんだ?言いたいことがあるなら正直に言え。


「ま、魔王を、倒して、くれ」

「勝手に亡べ」

「人が下手に出れば偉そうに!ええい、殺せ!この女を!!」


 ご乱心した王太子をモブがなだめるのを半眼で眺める。私、ずっと半眼だね。


「魔王を倒せるのは聖女しかおりません!王太子、どうか聖女をなだめすかして魔王を討伐させてください!」

「くそぅ!おい聖女!いいから黙って魔王を倒してこい!無事に倒せたら俺の第三妃くらいにはさせてやるぞ!」

「馬鹿じゃないの!いいから早く私を元の世界に返しなさいよ!!」

「は!元の世界に戻る術なんぞ無い!貴様はこの世界で俺様に許しを請いながら生きていくしかないんだ!」

「こんな蛮族の穴蔵のような場所で生活しろって!?あんたと結婚するくらいならそこら辺に藁敷いて寝た方がマシだわ!」


 もはや怒鳴り合いながら会話をする私たち。


「貴様!これ以上わが国を、殿下を愚弄することは許されない!!」


 蛮族の言葉に激昂したと思われるおじさんが、顔を真っ赤にしながら私に殴りかかってきた。思わずその腕を取り一本背負いをする。幼稚園の頃から柔道を習わせてくれたお父さんお母さんありがとう、無事、暴漢はやっつけました。というか、この身体の芯から湧き出るパワーは何?もしかしてこれが召喚チート?そういうのいらないから帰りたいんだけど。今日は世界で一番好きな人(推し)の出てるドラマの最終回だったんだけど。

 ふつふつと湧き上がる怒りを隠さずに、自称王太子に一歩近付いた。一歩後ずさる王太子。臆病者が。お前だけは許さないぞ。


 ……


 そのあともいろいろあって、私は石でできた王城とやらを追い出された。そこまでのやり取りであまりにも腹が立っていたので、いっそこの国を滅ぼしてやろうかと、魔王城にやってきた。出てくる魔王の手下を一匹ずつ成敗し、私の前にはいま、魔王がいる。


「……目的はなんだ」


 世界で一番好きな人(推し)に声が似ている魔王様を見上げ、思わず口から本音が出た。


「私と結婚してください」


 【嘘を付くことができない祝福】!お前!もはや呪いだろう!!!

 何を言われたか理解できていない風の魔王様に近づき、その手を取った。


「そしてあの王国を滅ぼして、私たちの国を築き上げましょう」


 プロポーズかよ!取り繕った言葉すら出せなくなる【嘘を付くことができない祝福】、マジパネェ。あの王太子と女神、ぜったいに許さないからな。


 そんなこんなでイケボ魔王のお嫁さんの地位を得た私は、王太子の国を乗っ取り、末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王太子の爽やかな程のゲスっぷりが面白かったです(笑)
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