九十七話 早く何とかしないと……。
9月30日
明日から10月か。
地球での暦だけどな……。
この二日間は結構、順調に進めている印象だ。
魔物との遭遇頻度も下がってきているから、かなりジャングルの端部に来ているんじゃないのか?
「この辺りまで来たら、ほかの冒険者と出会ったりするかもね。魔物と間違って攻撃したりしないようにね」
「わかった」
「ピリカも気を付けてくれ。誤爆するのもされるのもな」
「はーい!」
「ピリカはハルトと一緒にいたほうが良いだろう。単独でいると野良の精霊と勘違いされるかもしれない」
アルドの言葉を聞いて、俺達の少し前で浮いていたピリカが俺の隣に降りてきて、くっついて歩き始める。
「ところで、ハルトは街に着いたらどうするつもりなんだ?」
「実はまだ決めてない。街を見て回ってから決めようかなって思ってる」
「そうか。なら追躡竜の素材を売却して換金するといい。ギルドには俺が口を利いてやるから問題ないだろう。それで当座の金は何とかなる」
「そうだね。二人のおかげで依頼達成になるからね。ハルトに冒険者ギルド証が発行されるまで時間かかるだろうし、セラス達も次の依頼が出るまでしばらく空くと思うから……。次の出発までの間はゆっくり街を見て回るといいよ」
「え?」
「えっ?」
「ええぇ~っ!?」
「ん??」
リコの衝撃発言によって、俺、アルド、リコの順番でそれぞれ違った意味の【え】が飛び出した。
ピリカだけは理解できていないようで【ん??】だったけど。
この小娘 ……何を言ってるんだ?
あのさ……。
この次、リコに突っ込まないといけないのか?
何でリコがすでに決めてるんだ?
モンテスに着いて以降の俺達の身の振り方をさ……。
今まで、全く話してないだろ?
あまりにもの意味不明さに思わず「え?」って出てしまったぞ。
アルドは俺とは違った種類の【えっ?】だったな。
何かもぞもぞと口走っていたし……。
脳内PCでリプレイ再生して口の動きから言ってることを推察する。
なんちゃって読唇術だ。
【ヤバい…… リコのやつ。もうハルトとピリカをファミリー認識しているのか? いや、まだ大丈夫だろう ……大丈夫であってくれ!】
なんか、それ普通にフラグだよな?
アニメや漫画でこの手の大丈夫が大丈夫であった事は無い。
リコに至っては、俺達がリコの話を肯定せずに【え】で返したことに最上級の驚きが込められていた。
まるで婚約した次の瞬間に恋人から婚約破棄されたかのような……。
その表情からは、驚きだけでなく絶望感すら込められた【ええぇ~っ!?】だった。
ピリカさんは……うん。
まぁ、アルドやリコに原則興味は無いからな。
最近、リコの事をちょっとだけ視界の端に置くことがあるような気はするけど……。
その程度のものだ。
当然、あんなリアクションに着地するよな。
さすがはピリカである。
「えっとさ、【二人は俺達を街に連れて行ってくれる。俺達は二人が街に生還するまでの手助けをする】そこまでの約束だったよな?」
「そんなのもう関係ないよ! いっしょに死線を潜り抜けてきた仲じゃない! 勇者パーティーでこれからもやって行こうよ!」
「こんな危ない目に遭って街に向かうってのに、何が悲しくていつ死んでもおかしくないような危ない仕事せにゃいかんわけ?」
大体、話の感じだと勇者のところに回ってくる仕事なんて、やばいヤツしかないだろ!
ラノベやアニメで出てくるような薬草集めとか、ドブさらいとか、スライム討伐なんて絶対ないだろ?
……っと、ラライエじゃスライム討伐は普通に命がけな気がするけどな。
「ピリカだって、これからもあたしたちと冒険者でやっていきたいよね?」
リコはピリカの説得にかかる。
まずは外堀を埋めるつもりだろうが…… それ、絶対無駄だって気づいてる?
「……なんで? ピリカが大好きなのはハルトだけ。ずっと一緒にいたいのもハルトだけ。ハルトしか勝たん!」
はい、リコ玉砕。
ところでピリカさん、いつの間にそんな言葉覚えたの?
やるな…… 何に対してやるのかは知らないが……。
「そんなぁ……。ピリカぁ…… そんな冷たいこと言わないでよ……」
耳と尻尾がしおしおになったリコが触れもしないピリカに抱き着こうとする。
「!! シャシャァ!」
超スピードでリコの抱擁から空中に逃れたピリカが、全力でリコを威嚇している。
このわんこは…… そうなるのわかってただろ! わざと? わざとやってるのか?
「アルド! アルドも黙ってないで何とか言ってよ!」
今度はアルドを味方に引き入れにかかったか。
「確かにハルトたちがパーティーに加われば戦力になるだろう。だが、これからどうするのかを決めるのはハルト自身だろ。俺達がとやかく決める事じゃない」
「そうそう! どうするのかを決めるのは……って えええぇっ!?」
リコ、驚きすぎ。
さっきからそういう話の流れだろ。
「街に着いたら俺達は俺達で好きにするから、放っておいてくれていい」
「でも! ハルトはあたしの命の恩人だし…… ピリカはハルトを助けてくれた。あたしの身代わりでハルトが死んだら、一生後悔するかもしれなかった……。だから、ピリカはあたしの心を助けてくれたんだ」
アルドのつぶやきを含めて推測すると、かなり正解に近い仮説が立つよな。
つまり…… これはあれか?
日本では【犬は三日飼えば三年恩を忘れない】なんて諺があった気がするけど……。
リコの死亡フラグを折って助けたことで【三日飼った】ことになってしまって懐かれたのか?
悪い方向に……。
これが、獣人特有の【ファミリー認識】って状態なんじゃないのか?
「そのさ、あまり恩とかそういうのは気にしなくて」
「いやだ! ハルトは命の恩人! ピリカは魂の恩人! だからあたしはセラスとも、ハルトとも、ピリカとも一緒にいるって決めた!」
ダメだこの小娘……。
早く何とかしないと……。
かくなる上は、同じパーティーの仲間で推定常識人のアルドにこいつを止めてもらうしか……。
「おい、アルド……って、いないっ!」
気が付いたらアルドの姿が見えない。
さっきまでアルドがいた場所には、なぜかピリカがゆるふわスマイルで立っている。
「あの人間? ちょっと偵察だって」
ガチ戦闘要員のお前が先行偵察してどうすんだ!
……これは逃げたな。
おそらく、リコがこうなったら生半可なことでは意見を曲げないと知っていて、面倒な話を振られる前に一時離脱したな。
「うぅ……。まだ諦めないから……。こうなったら、セラスにハルトを説得してもらうしか……」
リコが何やらブツブツ言っている。
勇者セラスか……。
この二人と関わってしまった手前、一度は会う機会が出てきそうな感じがするな。
「あと少しで緑の泥から出られるぞ。この先で密林が終わってる」
アルドが戻ってきて、俺達にそう告げた。
かなり第一章が終盤です。
次回、九十八話の投下は明日、5月11日の22:30ぐらいを見込んでいます。
リアルの社畜モードが引っ張られて投稿落としちゃったらごめんなさいです。
この前の土曜日……歯医者予約入れてたのに忘れててすっぽかしちゃいました。
ごめんなさい&再予約電話するの少し勇気が要ります……。




