九十五話 ……プランBで行くか。
「ピリカ、アルドの言う通り俺達はスライムの群生地に踏み込んでいるのか?」
「ピリカが見た感じだとまだ入ってないよ。このまま進んだら入っちゃうけどね」
「あたしたちが来たときはスライム全然いなかったよね?」
「ああ、俺達が戻ってくるまでの数日で移動してきたんだろうな」
なるほど、勇者様御一行が来たときは安全に通れたのか。
「そうか……。 どうする? 引き返すか? それとも迂回するか?」
「まず迂回は難しいな。ここは緑の泥…… 未開の魔境だ。グリナ大河に沿って移動するこのルート以外は、道が全くわからん。初見の魔物や魔獣と遭遇するかもしれない」
「それじゃ、どうするの? 折角、追躡竜倒したのに……。あたし達、モンテスに戻れないの?」
リコの耳と尻尾がしおしおになる。
とりあえず、俺の考えを伝えておく。
「……と、なれば次の手は二択か。少し引き返してスライムがいなくなるのを待つか、スライムを排除しつつ強行突破するかだな」
「そういうことになるな。だが、俺とリコはスライム相手には分が悪い。引き返すことを選びたいな」
「そんな気がしたよ」
剣や苦無でどうこうなる相手ではないのは見ただけでわかるって。
地球でも銃では倒せてなかったからな。
最初の頃はそれこそグレネードで焼き払うしかなかった。
そのため、魔物の中でもかなり凶悪な部類に位置づけられていた。
しかし、地球人はスライム如きにやられっぱなしではいない。
一年ぐらいして一般人でも倒せるある方法が見つかった。
そこにスライムがいる事さえわかれば、特定の成分を含む農薬の原液をスライムに流し込んでやれば瞬殺できることが分かったのだ。
特別な許可が無いと買えない種類のものだから、残念ながら俺は持ってないけどな。
でも、脳内PCに成分のデータはあるから今度、対スライムに特化した魔法の開発するのもいいかもしれない。
「引き返すって言っても…… こいつらそんなにすぐいなくなる?」
声のトーンに少し元気がなくなったリコが素直な疑問を口にする。
「わからん。明日にはいなくなるかもしれないし、一年待っても動いてくれないかもしれん」
それはちょっと待ってられんな。
一旦、諦めて【ポータル】で家に帰る手もあるにはあるけど……。
短い間とはいえ、一緒にここまで来たこの二人を見捨てて転移するのもな……。
それをクールにやってのけるのが躊躇われるぐらいには仲良くなってしまったしな。
「スライムはあんまり速くないんだろ? スライムよけながら突っ切れないのか?」
とりあえず、ごり押しできないか聞いてみた。
「全部で何匹いるのかわからないのに? 無理だよ! こいつらって気配と匂いが水とほとんど変わらないんだよ。こんな川岸じゃ絶対に見落としが出ちゃうよ……」
「陸に上がっている奴もただの水溜まりなのか、スライムの擬態なのか見分けがつかないぞ。奴に捕まったら一瞬でドロドロに溶かされる。触れたら最後、助け出す暇はない。判断ミスはそのまま死に直結する」
アルドがリコの言葉をそう補足する。
うん、知ってる。
ネットの情報でしか知らないけど、地球でもそうだったからな……。
仕方がない。
ピリカの能力で切り抜けるか……。
『ピリカならスライムの居場所を見落とさずに特定できるか?』
『もちろん! あれで潜んでるつもりだなんてね…… いくら見た目や匂いを誤魔化しても穢れがダダ洩れだよ。所詮はレベル1の最底辺モンスターだよね』
『それは、地球のゲームだけだからな。ラライエのスライムはちょっと洒落になってない』
「またピリカと内緒話して……。何話してるの? あたしにも教えてよ」
「ああ、ピリカにはスライムの場所、確実にわかるってさ」
「まぁ、いぬっころには無理みたいだけどね!」
うん、俺の目にはピリカさんの背後に【どやぁ!】ってエフェクトが見えるよ。
別にリコと張り合わなくってもいいぞ。
「ほんとにわかるの? すごいなぁピリカは、かわいいし強いし!」
また、お姉ちゃんモードのリコがピリカをわしゃわしゃやろうとする。
だから、ピリカは精霊だから触るのは無理だって……。
「シャシャァ!」
ピリカはバックステップでリコを躱して威嚇する。
「もう、シャシャァはいいから。リコもこんな時にピリカを追い回すんじゃない!」
二人のガールズコントを中断させて、ピリカにスライムの群生地突破作戦を伝えることにする。
「まず一番大事なことを確認だな。ピリカはスライムに捕まったら溶かされたりするのか?」
「捕まったことないから分かんないな。一回試してみる?」
「却下だ。もしピリカが溶けたら俺も死ぬからな」
万に一つでもスライムの溶解能力がピリカに通用する可能性があるのなら、突撃してもらってピリカ無双のプランAは使えない。
……プランBで行くか。
「ピリカはスライムが襲ってこられない高さで先行してくれ。そして、俺達がこのまま進んだ場合、邪魔になるスライムを特定してくれ」
「はーい」
「スライムがいる場所の真上に、ここからでも分かるように目印を頼む。一通り終わったら戻ってきてくれ」
「じゃ、行ってくるからちょっと待っててね」
ピリカは20m程度の高度でスライムの群生地に滑空して飛んで行った。
しばらくして、空中に下向きの矢印の形をした光が浮かび上がる。
数秒後にさらにもう一つ。 ……また一つと次々と光の矢印が現れる。
「あれは ……ピリカがやっているのか?」
「ああ、そうだ」
空間に光の術式を描き出す精霊の能力をもってすれば、光の矢印を空中に出すなんて造作もない。
二人からすれば、普段、精霊がこんな用途に能力を使わないから珍しいのだろうな。
あの矢印の真下にスライムが潜伏しているわけか。
俺はオペラグラスを覗き込んで、位置を確認すると同時に、脳内PCに位置の測量と弾道計算を開始させる。
しばらくして、ピリカが俺の隣に戻ってきた。
「ただいま、ハルト」
「ああ、お帰り。ありがとう、助かったよ」
俺は形だけピリカの頭を撫でてやる。
「うぇへへへぇ」
自分の働きを労ってもらえて表情を溶かして喜んでいる。
背景に【にぱー】ってエフェクトが見えそうだ。
「ああっ! なんだよ、ハルトだけ…… あたしも! ピリカお疲れさん!」
リコが俺に続いてピリカの頭を撫でようとする。
「!! シャシャァ!」
……うん、知ってた。
「邪魔になりそうなのは全部で11匹か。これが多いのか少ないのかわからんけど」
「多いよ! 邪魔になる奴だけでこれってことは、全体だともっと多いってことだよね?」
「本当に、見落としなしで全部見つけられているのか?」
「ピリカがそう言ってるのなら、間違いないさ」
それに、もし見落としがあって俺がスライムに溶かされたとしても、俺はピリカを決して恨まない自信がある。
それだけピリカを信用も信頼もしている。
その場合、ピリカを欺き切ったスライムが一枚上手だったというだけのことだ。
脳内PCが全ての弾道計算を完了させた。
ここまで来たらあとはただの作業だ。
リュックから【クリメイション】の術式を11枚取り出して、一つずつ順番に脳内PCが示す軌道通り、発動させるだけだ。
俺の目には見えないが、一発、また一発と圧縮火山ガス弾が弧を描いてスライムのいる場所に飛んでいく。
不定形の原生生物もどきが1000度まで加熱されたガスを浴びて生存できるわけがない。
今回の【クリメイション】はガスの毒性よりも、その高温でスライムを茹で殺すのが狙いだ。
11発の【クリメイション】を撃ち終わり、ガスが霧散した頃合いを見計らって二人に声をかける。
「よし、進路を塞いでいるスライムがいないうちに抜けてしまおうか。ピリカ、念のためスライムの動きは警戒しておいてくれ」
「はーい!」
「ね、ねェ…… アルド……」
「行こう。あそこまで自信満々に行かれちゃ信じるしかないな」
躊躇いなく進む俺達のあとにアルドとリコが続くべく、足を踏み出した。
これだけ見直していても、次々と意図していない誤字が出てきます。
可能な限り潰しこんでいますが、これは全部取り切るのはあきらめた方がいいのかも……。
多少の誤字や変換ミスは笑って許してもらえるとうれしいです。
気付いたやつはあとからでも、発見次第、直していきます。
この土日で最低でもあと一話……。できれば二話投下したいですが……
無理だったらごめんなさいです。




