九十三話 このいぬっころが! 気安く寄るんじゃない!
「いつまでもここにいてられない。これで、町に行けない理由はなくなったんだろ? そろそろ移動しよう」
「そうだね。でもハルト、あんた無理できないんでしょ? あたしがおぶったげるよ」
リコが俺を担ぎ上げようと、こっちに迫ってくる。
「だからハルトに触るな! シャシャァ!」
リコを阻止しようとしてピリカが懸命に威嚇しているが、全く意に介していない。
なんだ? この小娘……。
急に馴れ馴れしくなったな?
好感度が一定量越えてくると豹変するタイプか?
これだからわんこ属性は……。
「……全力で遠慮させてもらう。それよりも、回復するまでは俺のペースに合わせてもらえるとうれしいかな?」
「そう? ま、疲れたらいつでも言いなよ?」
全く…… 俺をおぶっていたら万一、奇襲受けたらとっさに反応できずに共倒れになるだろ。
「ハルトはピリカが守るから! いぬっころは道案内と警戒だけしてればいいの!」
ピリカが俺の隣にやってきてぴったりくっついて、そう言い放つ。
「何を置いてもまずは食料の調達だ。昨夜で俺の手持ちは底をついているからな。日没までになんか食えるものを見つけないと、明日まで飯抜きになるぞ」
「何? それは地味にきついな……。 すぐに動こう」
俺達は追躡竜との戦場を後にして下流に向けて森の中を進み始めた。
しかし、ほんの30分も歩かないうちに息が上がってしまった。
やはり全然血が足りていないみたいだ。
「はぁ、はぁっ。 すまない、ちょっと休憩にさせてくれないか?」
「わかった。リコ、周囲に魔物は?」
「今のところ大丈夫。ちょっとくらいなら休めるよ」
「悪い。生まれてこの方、あんなに出血したことなかったからな……。ちょっと見積もりが甘かった」
「これって、普通だったら死んでるからね。だから、あたしがおぶってやるって……」
「シャシャァ!」
もはやこの二人のやり取りがコントぽくなってきた。
「はいはい、わかったって。じゃ、あたしこの辺で食料探してくるから、ピリカはしっかりハルトを見ててやりなよ」
いくら昼間とはいえ、一人で行く気か? 大丈夫なのか?
「気をつけてな…… 無理はするなよ」
アルドは一言声をかけるだけで、あっさりとリコを送り出した。
「大丈夫だって、みんな下手に動き回ったりしないでよ!」
そう言い残してリコは密林の奥に消えていった。
「一人で大丈夫なのか?」
「あれでも勇者パーティーの斥候だ。問題ない。探索・索敵でリコに並ぶものはモンテスでもそうそういない」
そうそういない……ね。
それ程の斥候が容易く多数のテゴ族に取り囲まれるまで寝てたりするものなのか?
ラライエの冒険者の実力がさっぱりわからんな……。
なんか引っ掛かりを感じるが、今は答えが出そうにないので気にするのをやめた。
「それで、モンテスって街まではどのくらいかかる感じなんだ?」
「俺達がここまで来るのに一か月近くかかっている。しかし、これからはピリカの結界があてにできるんだろ? 夜にゆっくり休めて、昼間に移動できるとなれば…… 一週間でいけると思うが……」
ちなみに、ラライエの一週間は6日…… 一か月30日で5週間。
一年は12か月で360日。
俺がこの五年で太陽の軌道から計算した感じだと、自転・公転周期は地球とほぼ同じはず。
なので、年に一回うるう週が必要な計算だけどラライエではどうしてるのかは知らない。
「俺の状態がこれだから一週間はきついか……」
「ああ、ハルトの具合次第だが二週間から一か月は見た方がよさそうだ」
「わかった。世話をかけるけど頼むよ。」
「気にするな。うまくいけばセラス達に追いつけるかも ……と、思ったけどな。この分じゃモンテスに戻るのは同じぐらいのタイミングになりそうだ」
勇者セラスか……。
アルドとリコのパーティーリーダ……。
一度、挨拶ぐらいは必要かもな。
そんな話をしていると、繁みをかき分けてリコが戻ってきた。
「お待たせ!とりあえず、これだけあれば今夜は大丈夫でしょ!」
リコの手にはいつも【ピリカビーム】で撃ち落としてもらっている雉みたいな鳥が握られている。
あとはひっくり返されたトートバッグから、わさっと木の実や果実、キノコなんかがぶちまけられた。
「おい、キノコなんて……大丈夫なのか? 食った瞬間に死んだりしないだろうな?」
「あのねぇ、あたしがそんな【やらかし】するわけないでしょ! 確かにこれなんか猛毒の【ビヌック】と見た目一緒だけどね。 でも、匂いが全然違うから……。 ま、人間には分かんないだろうけど」
「そういうわけだ。リコは匂いで安全なものとそうでないものを確実に嗅ぎ分ける。心配はいらない」
獣人特有の超感覚ってやつかな? なら、大丈夫そうだな。
今までの二人の態度から見ても、ここで俺に毒キノコ食わせて始末しようなんて悪辣なことはしないだろう。
ここは二人を信用することにした。
即死さえしなければ、ピリカが何とかしてくれると思うしな。
「わかった。なら、そのぶちまけた戦利品を片付けてくれ。野営が出来そうな場所に移動しよう」
リコは地面に広げた食料をせっせとトートバッグに片付け始める。
「それにしても、緑の泥を昼間に移動できるなんて。……すごいよね」
「俺はむしろ、夜通しこんな地獄を歩いている冒険者の正気を疑うね。ピリカがいないと、とても生きていられる場所じゃないぞ」
「そう、それなんだよね……。あたし抜きでさ、セラス…… 大丈夫かな?」
「そこは【セラス達】の心配をしろ。 まぁ、プテラの探知魔法があるから森から出るだけなら大丈夫だろう」
やっぱりあるんだな。
探知魔法みたいなのが…… それはとても興味あるな。
結局、索敵魔法が身につかなかった俺としては一度、現物を見ておきたい。
一時間ほど森を進んだところで何とか野営できそうな空間が見つかった。
「今夜はここで野営にしよう。ピリカ、結界を頼む」
「はーい!」
ピリカは昨夜とほぼ同じ直径10mぐらいの結界を展開する。
「ありがとう。俺の治癒に相当魔力使ったろ? さらに結界まで作って大丈夫か?」
「全然平気だよ! ハルトのためだもん!」
ピリカは俺のところに飛んできて、くっついてくる。
「ピリカってホントに不思議な子だよね。あたしさ、こんなに契約者に懐いている精霊見たことないよ。」
「ああ、それに自分で名乗っている精霊なんてのは聞いたことすらない。精霊術師の中には自分の契約精霊に名付けしている奴もいると聞いたことはあるけどな。……そもそも、精霊は殆ど話をしない種族だと思っていたぞ」
「あ、それね、精霊はみんなラライエの人類と話しても無駄だって思ってるから話さないだけだよ」
ピリカが、歯に衣着せぬ物言いでアルドの言を切り捨てる。
「でも、ピリカはハルトやあたしたちと話してるよね?」
「ハルトはいいの! だってピリカ、ハルトの事大好きだからね。あんたたちはハルトがせっかく助けてあげたのに、死んじゃったらハルトが悲しむから、かまってあげてるだけ」
「なんかエラい言われようだな」
「アルド、真に受けすぎ。あたしも昔はこんなだったから分かるよ。ピリカは照れ臭いだけなんだって。かわいいもんだよ」
え? そうなのか? ピリカって見た目こんなだけどもう何千年も生きてる精霊王らしいぞ?
多分、本心で言ってる気がするけど……。
リコが獲ってきた鳥を捌いて火にかけつつ、果実にかじりつく。
「このきのこはどうするんだ?木に刺して火にかけてればいいのか?」
「ああ、それでいい。軽く焦げめ付いたぐらいが一番うまい」
「はいよ」
言われたとおりに火で炙ってから食べてみる。
「うん、見た目はともかく、食感はほぼエリンギだな」
「エリンギ? 何それ?」
「俺の故郷でとれる食用きのこだ」
「故郷って ……あんたの故郷はこの森でしょ? 奥の方に行けばそんなきのこも取れるんだね。今度あたしにも見せてよ」
「ああ、機会があったらな」
「今日はみんな命がけの激戦だったからな。ゆっくり休んで明日に備えよう」
「そうだね…… ピリカの結界のおかげで何も気にせず休めるんだよね、ありがとね」
リコが触れもしないピリカをわしゃわしゃしようとしてピリカに近づく。
「このいぬっころが! 気安く寄るんじゃない! シャシャァ!」
「ああもう! かわいいなぁ!」
リコはお構いなしにピリカを撫でようとする。
全く【シャシャァ!】はリコに通用しない。
しかし、なんなの? この小娘……。
ピリカにグイグイ行きすぎだろ。
実害が無いなら別にいいけど…… 端から見てる分には面白いからな。
デスゲーム生存ブーストってあるのかな?って思ってましたが、
それ自体は思った以上に限定的でした。
でもでも、Twitterには目に見えて効果がありました!
なんと、生存を機にずっとゼロだったフォロワー数が3つきました!
しかも、そのうち一つは書籍化作家さんでした。
(まぁ、手当たり次第にフォローしているものの一つでしょうけど、
フォロワー数1であることに変わりはない!)
すげぇ! この投稿もそうでしたけど、まずゼロからの脱出がしんどいです。
これからも少しでも多く方の目に止まるように頑張ります!




