九十二話 ちが―う! ……って、違わないけどさ……。
人類が神に抗う術を見いだせることなく、すでに数十世代の時が流れている。
魔族は十分に態勢を立て直し、魔界全域で勢力を取り戻している。
三体の精霊王の行方は分からなくなった。自らの領域に戻り雌伏の時を過ごしていると思われた。
創生神は人類が魔族と精霊に手を出さない限り、神罰を下すことは無く静観している。
魔族と精霊もまた、人類の領域に踏み込んでまで攻めてくることは無かった。
人類の中にはこのまま魔族と精霊に手出しさえしなければ、平和に生きていけるのでは?
……と、言い始める者たちもいた。
しかし、勇者たちは戦いを諦めない。
相手が神である以上、人類は常にその喉元に刃を突き付けられた状態に等しいから……。
勇者は神や精霊・魔族に気取られぬよう極秘裏にかつ全力で探し続ける。
神の御座……【神域】に至る道を……。
ラライエ創成記より一部抜粋
アルドがロープを伝って崖を下り、視界から消えてしばらくたった。
「ハルト…… あんた、ほんとに大丈夫なの? 普通あれだけやられたら助からないよ?」
「ん? ああ。何とか死なずに済んだみたいだ。 ……けど、ピリカの言う通りこりゃ、血が出過ぎて全然足りてないな。数日は満足に動けないと思う」
「大丈夫! あとはあたしに任せなって! ハルトはあたしが守ってやるよ!」
リコはニカっと笑って俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「いぬっころなんかにハルトを守れるわけないでしょ! ハルトはピリカが守るから余計な事しなくていいよ。 あとハルトに触るな!」
「この子の態度も慣れてきたら可愛いもんだよ。あたしもセラスに会ったばかりの頃はよくこんな感じでセラスに突っかかってたのを思い出したよ」
リコがピリカの頭もわしゃわしゃと撫でようと手を伸ばすが、もちろんピリカに触れることはできずに、その手はピリカをすり抜ける。
「だから、ハルトに触るな~! シャシャァ!」
両手を振り上げて【シャシャァ!】でリコを威嚇している。
ピリカさん…… それで追い払えるのはおそらく、デカい羽虫だけなのでは?
俺はまだ見たことがないけどな。
この様子を地球でネット動画投稿しても、威嚇していて怖いって反応はまずないだろう。
【何?この可愛い生き物】とかのコメントが増殖する未来しか見えない。
「あんたたちのおかげで、生き延びられた上に目的も達成できた。ばっちりモンテスまで連れて行ってあげるよ」
「それは何よりだ。 ……で、そのモンテスってのはどんな町なんだ?」
「ケルトナ王国、第三の都市だよ。それなりにデカいし、ここを拠点にしている勇者はセラスを入れて15人いる」
「それで、町には簡単に入れるのか? 身分証とか必要だったり?」
「まぁ、普通なら必要かな。 ……特にピリカがいるから面倒なことになるね」
「そうか……」
精霊は討伐対象って言ってたからな。
街に入るのは諦めないといけないかもしれないな。
「ピリカを連れて秘境集落出身のハルトが入国するには、審査に何日もかかるよ。 ……普通はね」
?? さっきからやけに【普通は】を強調するな。
「……と、いうことは普通じゃない方法があるんだよな?」
「察しが良いね! ふふふっ、あたし達を誰だと思ってるわけ?」
「?? 誰って……リコだろ?」
「ちが―う! ……って、違わないけどさ……。 そうじゃなくて、あたしたちは勇者パーティのメンバーだよ? そこいらの有象無象とは違うわけ! 下手な木っ端貴族より信用あるんだからね!」
「そういうわけだ。俺達がお前たちの身元保証人になってやる」
アルドが戻ってきたみたいだ。
後ろからリコの言葉を補足してきた。
「そういうこと! それで問題なしだよ!」
「わかった。よろしく頼むよ」
「ああ、こんなことで借りを返せているか分らんが、このくらいのことはさせてくれ」
追躡竜も片付いて街には問題なく入れそうだ。
「それじゃ、戦利品を分けよう」
アルドが持ち帰ってきたものを地べたに広げる。
「すまないが、この放射体は俺達がもらうぞ。討伐証明部位だからな」
追躡竜のエリマキっぽい膜が討伐証明部位らしい。
ガソリンで焼かれて結構焦げているが、問題ないみたいだ。
「ああ、構わない」
「こいつの【魔石】も譲ってもらえるとありがたい。こいつはセラスのためにも連盟に上納したい」
「えっ? セラスのために? そう! そうだよね! 魔獣から獲れた【魔石】ならセラスの序列の査定も絶対有利になるよね! ハルト、あたしからもお願い! 他の戦利品は全部持って行っていいからさ!」
以前にピリカの口からも、ちょこっとだけ出てきた【魔石】ってワードは気にはなるけどそこは追々教えてもらうことにしよう。
多分あの二人は最大限、俺達を尊重して分配してくれているのだろうと思うので、二人の決めた分配で同意しておくことにするか。
そもそも異世界での物の価値がさっぱりわからんからな。
「わかった。それでいいぞ。 ……というか、持ち歩ける量に限りがあるからな。俺が持てる分量だけで構わない」
結局、数本の追躡竜の牙と爪が俺の取り分となった。
あとは全て二人が待って行っていいと言っておいた。
「爪と牙だけでもそこそこの金額になるとは思うよ。もしお金足りなかったらあたしに言いなよ? できる範囲で力になるからさ」
「その時は頼むよ」
地球では金が絡むことは基本的にトラブルのもとになりやすい。
多分、異世界でもそれは同じだろう。
街に到着してある程度生活の目途が立ったら、そこから先は二人の世話になるつもりは無い。
二人は装備品しか持っていないので、リュックから出すふりしてトートバッグを二つ召喚してそれぞれに渡してやった。
これで、いくらか戦利品も持ち帰れるだろう。
どうもありがとうございました。すでにお気づきの読者様もいたこと思いますが
本作で【なろうデスゲーム】に参加しておりました。
基本、死亡前提で投稿していましたが、何と執筆未経験者部門、ギリ入着で
生存しました。
デスゲーム終わったからって、投稿止めたりせずに続けますので、引き続き
見てもらえたらうれしいです。
よろしくお願いいたします。




