九〇話 ほんとそれな!
「……いてて。我ながら無茶をしたもんだ」
ロープで崖にぶら下がっていたアルドが這い上がってきたみたいだ。
そして俺達の頭上に広がる大きな術式を見て驚愕する。
「おい……。これは一体……」
「ハルトの精霊の治癒術だよ。ハルトがあたしを庇って追躡竜に……」
「こいつは……」
ピリカの術式で血は止まったみたいだけど、ぶちまけてる血の量が俺自身、完全未体験ゾーンだ。
「大丈夫なのか? 傷の深さも場所もやばい気が……」
ピリカは懸命に術式を制御している。
光で空間に描かれた魔法陣は目まぐるしくその内容が書き換わり続けている。
これこそピリカ…… いや精霊の呪紋に絶対に人間が敵わない理由だと思っている。
紙で書いた呪紋ではこんな芸当は絶対にできない。
ピリカの操る呪紋は、状況に応じて内容が絶えず書き換わり続けて変化するのだ。
多分、俺の止血に目途がついたから次の段階に進んでいるのだと思うけど、よくわからない。
ピリカには全幅の信頼を寄せているので全てを任せてされるがままになっている。
数分後、ようやくピリカの表情が少し緩くなる。
「よし! ここまで来たら何とか……」
多分、死の危険があるところは超えたのだろうと察する。
「すまんな。余計な手間をかけさせた……。ありがとう、ピリカ」
「ハルトのばがぁ! ぼぉうじょっとでじんじゃうどころだったんだよう!」
予想通り、ギャン泣きモードになってしまった。
「ああ、悪かったよ。 !! いてぇ!」
大丈夫そうなので、体を起こそうとしたが下半身に凄まじい激痛が走って全く起き上がれなかった。
「ヴァルと、ばだうぉぎじゃだべだよぅ!あじがばだんうぉろうぉろだんだがら」
「ピリカさん、もう何言ってるか分らんよ……」
これはダメだ。
ピリカががっちりしがみついて、ギャン泣き過ぎて会話が成立しない。
「ハルト、お前…… 大丈夫なのか?」
アルドが少し遠慮がちに声をかけてきた。
「ああ、何とか……。ピリカがこんなだからはっきりわからんけどな。多分、死ぬような状況からは抜け出したんだと思う」
「ごめん、ハルト……。あたしが油断したばっかりに……」
「ほんとそれな! 俺の故郷じゃ、敵の息の根が止まるのを確認する前に【やったか?】とか、大きな決戦前に【この戦いが終わったら……】なんて話をするのは最大級の不吉の前兆だからな! 気をつけろよ!」
「え? ええっ!? 気を付けるのそれなの?」
まぁ、やってしまったものは仕方がない。
俺も後先考えずに動いてしまったからな。
クールに判断下すのだったら、あの場面はリコを見捨てるべきだったのはわかっている。
しかし、リコ生存ルートの可能性が見えてしまった瞬間、思わず ……というわけだ。
出会って間もないよくわからない小娘のために損得勘定が飛んでしまうあたり、やっぱり根っこが平和ボケした地球人であり、日本人なんだろうな…… と、思ってしまった。
「ほんとに大丈夫なのか? 立てないみたいだが」
「ああ、下半身が痛すぎて起き上がるのはまだ無理ぽい」
『そりゃそうだよ! ハルトまたリミッター切って体動かしたでしょ? 両足ともまだボロボロだよ! 心臓と肺の損傷を治すのに全力だったから、足はまだ全然治ってないよ』
ピリカが日本語で俺の状況を説明してくれた。
やっとギャン泣きモードから復活したようだ。
『すまん。できるならこのまま足の方も頼むよ。でも、おかげでリコのミンチを見ずに済んだ。結果オーライってやつだ』
『全然オーライじゃないよ! ほんとに死んじゃうところだったんだよ! あんな、いぬっころの命なんて1兆個集まってもハルトの命と釣り合わないんだから!』
かわいくぷりぷりと頬を膨らませながらピリカは次の術式を展開させる。
そこから注がれる光があたると、俺の両足の激痛はたちどころに収まった。
「ふぅ、かなりきわどい所だったが何とかなったな」
俺はようやく自分の足で立ち上がることができた。
「ぐすっ、ハルト、よかった。あたしのせいであんたみたいな子が死んだら、一生後悔するところだったよ」
「そう思うんだったら、ハルトを巻き込まないで一人でひき肉になってればよかったんだよ!」
「本当に口の悪い精霊だね! ……でも、ありがとう。ハルトを死なせないでくれて」
「何言ってるの? あたりまえでしょ? ハルトはピリカの全てだもん! ピリカの命と引き換えにしてもハルトの事は守るから!」
「ああ、何度も言ってるけど、ピリカはピリカの命を最優先にして俺の安全はそのついででいいからな」
「やあぁだぁ!」
この話をすると堂々巡りになるのでこの辺で終わりにする。
「さてさて、問題のでっかいトカゲはどうなったのかな ……っと」
なんか、足元がふらついて転びそうになった。
「あっ! ハルト、急に動いちゃダメ! 傷は治したけど血が全然足りてないから」
「マジかぁ」
「完全に動けるようになるまで何日か掛かるよ」
「そうか…… わかった。気を付けてゆっくり動くよ」
血が足りないってことは体内をめぐる酸素も栄養も不足気味になるってことだ。
すぐに息が上がってしまう貧血状態ってわけか。
「それで…… やつはどうなった? 倒せたのか?」
「……」
「……」
アルドとリコ、二人とも暗い顔で押し黙っている。
なんか嫌な予感がしてきた。
「おい……。まさか……」
「残念だが、奴の【マーキング】がまだ繋がっている」
アルドが悔しそうにそう告げる。
俺は魔力の存在を認識できないのでさっぱりわからない。
「ピリカ…… マジか?」
「マジだね」
「マジかぁ……」
あのトカゲ……不死身なのか?
今回でストックが全て溶けました。次回以降、投稿のペースは大きく下がりますが
ご容赦ください。
一話上がるごとに都度上げるべきか……。ある程度たまってから集中的に
投下するか迷っております。
とりま、この五連休中に2~3話程度投下したいな……とは思っております。
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