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八十六話 下手したら特級指定以上の討伐対象だ

 結界内で何事もなく朝を迎えた。


「おはよう、いよいよ勝負だ。二人ともゆっくり休めたかい?」


「ああ、こんなに堂々と緑の泥で夜を過ごせるなんて思わなかったよ」


追躡竜(ついじょうりゅう)に【マーキング】されているのにね」


 二人が予想通りの回答を返してくる。


 俺は結界の状態を確認するふりをして、結界の外周ギリギリを一周した。

この時に木の裏側に仕込んでいたものを回収してポケットに収める。


「結界を一歩出ればそこからが勝負だ。二人とも準備はいいか?」


「大丈夫、先導はあたしがきっちりやるから…… 遅れないでよ!」


「俺達を見失っている追躡竜(ついじょうりゅう)が遠くに移動してくれていると助かるんだがな……」


 昨夜立てた作戦で一番の不安要素をアルドが口にする。

今は追躡竜(ついじょうりゅう)の【マーキング】が切れているので奴が俺達の場所を知ることはできない。

 テゴ族をせん滅した追躡竜(ついじょうりゅう)が次にどこへ向かうのか、ここだけが完全に運頼みになっている。

 俺達がいる場所から逆方向に移動してくれていれば、奴が俺達に追いつくまでの時間が稼げる。

すぐ近くにきていれば作戦実行場所に到着するまでに追いつかれるリスクがある。

作戦準備が整う前に追いつかれた場合は二人には悪いが、俺はためらわずに【ポータル】を使うつもりだ。

 少しでも早く目的地に到着するためには、魔物との遭遇・戦闘を最小にする必要がある。

リコが先頭になって最適かつ最短ルートを選択しながら進む手筈だ。


 リコが俺とピリカ・アルドに出発の合図をかける。

ここからは時間・運との勝負だ。


「じゃ、行くよ。 いち、にの……それっ!」


 四人が一斉に結界から飛び出す。

先頭を走るリコは迷いなく森を駆ける。その後ろをアルドが続く。


 前を走る二人に続いて密林を進みながら、俺は脳内PCで音声データを再生している。

これは昨夜、俺が仕込んでいたヴォイスレコーダが録音していたものだ。


 結界作成時にこっそり木に貼り付けて、朝に回収しておいた。

予想通り、俺が眠っている間の二人の会話が録音されている。

一応、ピリカに聞かれないよう配慮しているみたいだが、本命の耳はこっちなんだよな。


  ……。


     ……。



「この子、一体何? なんか、話し方が貧民街のジジババ衆みたいな感じだし……。確か年はもうすぐ13歳って言ってたよね? その割に行動が大人びてるっていうか……。 ほんとにただの秘境集落の子供なのかな?」


「言葉が古臭いのは、秘境集落の特有の(なま)りじゃないのか? 第一共通語が通じるだけ上出来だろう。まぁ、この年頃の子供にしては達観している感じはあるな。」


 なるほどな。

このイントネーションの違和感は俺のラライエ第一共通語が古臭いせいか。

ラライエの知識は全てピリカが先生だからしょうがないな。

ピリカはここ何百年間、人間と関わっていないと言ってたから当然だろう。

アルドの言う通り、通じているだけで上出来としておこう。


「それと、あの子が使った呪紋…… 気になりすぎるんだけど……」


「呪紋の効果はわからなかったな。だが、あんな紙切れ一枚で発動する呪紋は見たことがない」


「あたしもだよ。中央ギルドの一番小さい呪紋でも直径3ブラーブ以下の巻物(スクロール)なんてなかったよね?」


 ああ、そっちか……。

その方向でチートだったのか。

その発想はなかった。

地球では【小型かつ高性能】こそが美学だったからな。

ちなみに【ブラーブ】はラライエの長さの単位だ。

1ブラーブが大体1.5㎝ぐらいだ。3ブラーブだと大体5㎝ちょっと切るぐらいだな。

意外とデカいぞ。


 もう面倒だから大きさ・重さ・距離、数値的な単位は全部ひっくるめて日本で使われている単位表記に脳内変換しよう。


 それよりも、呪紋一つが最低でも直径5㎝の巻物(スクロール)丸々一本って……きついだろ。

使い捨ての呪紋1個でそんなにかさばっていたら、戦闘一回分ぐらいしか持てない。

今、リュックの中は2,000枚以上の呪紋が入っている。

これでも足りないかも……と、思っているのにすでにこれがチートだったか。

呪紋は二人の前で思い切り使ってしまったので今更だな……。

もう誤魔化せないだろうから一族の秘伝ってことにしよう。


「でもさ、実際のところあんな歳で精霊術師と呪紋使いを両立できるものなの?」


「精霊の契約に魔力(マナ)を持っていかれている状態で呪紋を使うか……。天才的な才能だ」


「それに、あの光の精霊……。ハルトはピリカって呼んでいたけど……」


「この結界、俺達を治した治癒術、ゴブリンやテゴ族の群れをものともしない力……。凄まじいな」


「ほんとだよ。こんなのが野良精霊だったら……」


「下手したら特級指定以上の討伐対象だ」


「……だよね」


 やっぱピリカは存在そのものがチートか。

俺もピリカも、ラライエの人間に対する付き合い方は慎重に見定めないとな。


「……で、これからどうするの?」


追躡竜(ついじょうりゅう)に追いつかれるまでにセラス達との合流は難しそうだ。……と、なれば俺達の生存率を少しでも上げるために、ハルトとの共闘は必須になるだろう」


「そうだね」


 気に入らんな。

こいつら、どうあってもピリカを頭数に数える気は無いらしい。

ピリカは俺の付属物……武器や装備と同じ位置づけか?

ピリカが人間と距離を取りたがるのも、塩対応になるのも納得だ。


 逆なんだよ。


 俺の方がピリカの付属物でお荷物だということが、この二人には理解できないと見える。

しかし種族間戦争の歴史があった以上、人類全体にこういう認識があるのは仕方がないのかもしれない。


「……で、どうするの? うまく生き延びたとして、この子をモンテスまで案内する?」


「それは、生き延びてから考えればいいんじゃないのか? 俺はハルトが加わったところで勝算はほぼ無いと思っている」


「……だよね」


「だけど万一、生き延びられたなら俺は別に連れて行ってやってもいいとは思っている。ハルトのおかげでテゴ族に食われずに済んだのは事実だ。恩人ではあるからな」


「そうだよね。あたしもこの子が悪人じゃないとは思ってるよ」


追躡竜(ついじょうりゅう)を倒さないと生き延びられないという点で、俺達は一蓮托生、利害は一致している。その後、街までの道案内で助けてもらった礼の代わりになるなら安いものだろ」


 そうそう、それでいいんだよ。

俺は二人を利用してラライエの情報収集をしている。お前たちは俺とピリカを利用して街に生還する。

お互いギブアンドテイクだと理解できてれば問題はない。

【頃合いを見て俺とピリカを始末するか……】

なんて算段を立てるようだったら対策が必要かな? って思ったけど余計な心配だったみたいだ。


俺は脳内PCの音声データを削除して二人の後を追うことに集中する。



 次回、八十七話の投下は1時間後、4月29日。23:30頃を見込んでいます。

何とか本日は落とさずに三話投稿できそうです。

 問題は明日です。


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更にうれしいです。

まぁ、今更奇跡は起きないってわかっていますが、あと一日頑張ります。

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