八十五話 ずいぶんと勇者もお安くなったものだね
「二人は…… いや、勇者様御一行は何しにこんな人外魔境に来たんだ?」
「なんだ、そんなことか。もちろん依頼を受けたからだよ」
リコは緊張した表情を崩す。
一体、何を聞かれると思ったんだ?
リコからは予想通りの回答が返ってきた。
「冒険者…… 特に勇者パーティーがこんなところに来る理由といえば、そうだろうと思ったけどな。それで…… なんの依頼でここに来たのか聞いても?」
「ああ、構わない。追躡竜の討伐だ。最近、森のかなり浅い所で目撃されることが増えてきていてな。森に近い街道を通る人達が【マーキング】されたりしたら、災害級の被害が出るかもしれない」
「災害級って、あのトカゲそれ程なのか?」
「あんた、緑の泥にずっといた割に何も知らないのね? それ程だからこそ、勇者セラスへの指名依頼が来たってわけ」
勇者への指名依頼ね。
「でも、あれと戦う前にテゴ族に捕まったと……」
「ああ、恥ずかしながらな。俺達は六人パーティーだったんだが、俺とリコ、セラス、魔法使いのプテラが休んでいて、あとの二人が見張りについていたはずだった」
「だった?」
「目が覚めたら俺とリコしかいなかった。しかも、無数のテゴ族に囲まれた状態でだ。いくら俺達でも無防備の寝込みをあれだけのテゴ族に襲われちゃ勝ち目はない」
「なんでまた、そんな事態になったんだ?」
「そんなのわかんないわよ。セラスもウィルも…… プテラ、ラッファもいなくなってた」
「四人ともテゴ族の陽動に釣り出されてしまったと考えるべきなんだが……。奴らにそんな知恵があるなんて聞いたことがない」
アルドは二人だけテゴ族に寝込みを襲われた理由の考察を話す。
「セラス達、大丈夫かな?」
「メンバーが二人欠けた状態で追躡竜と戦うようなマネはしないだろうさ。きっとモンテスに引き返して態勢を立て直すはず」
「じゃあ、依頼は?」
「失敗…… ということになるだろう」
「そんな…… セラスの序列が下がっちゃう」
なんだ? 序列??
聞きなれない言葉が出てきたな。
『ハルト、そのセラスって勇者の序列が何番か聞いてみてよ』
ピリカが不意にそんなことを日本語で言ってくる。
何のことかわからないけど、ピリカの言う通り聞いてみることにする。
「でさ、その勇者セラスの序列は何番なわけ?」
「え? セラスの序列? そ、それは……」
リコがなんだか言い淀む。
他者に教えてマズようなことなのか?
「402番だ」
「ちょっ、アルド!」
「何も隠すようなものでもないだろ。連盟で公表されているんだからな」
「そ、そうよね! 別に何番だってセラスが勇者なのは間違いないんだから」
『402って…… ずいぶんと勇者もお安くなったものだね。ピリカが人類と戦っていた時は、最弱勇者の序列でも150以下だったよ』
ピリカはやれやれといった感じで肩をすくめて見せる。
『勇者って強さとか力関係で序列付けされているんだよ。ピリカから見たら序列三桁の勇者なんて雑魚と変わらないよ。50以下になってくると、変な二つ名みたいなのがついて、ちょびっとだけ手強くなってくる感じだね。それはそうと、今の勇者って全部で何人ぐらいいるんだろうね?』
『ちょっと聞いてみようか』
「そのさ、勇者って今は何人いるんだ?」
「う…… 409人」
リコが歯切れ悪く答える。
なるほどな。
セラスは勇者の中でもほぼ最下層の末端勇者か。
リコはセラスの序列が低いことを気にしてたのか。
なんとなく事情が見えてきな。
「でも、勇者とそうじゃない冒険者には天地ほどの差があるんだからね! 連盟やギルドからの受けられる援助も段違いだし、勇者やそのパーティーメンバーだってだけで一目置かれるんだから!」
「リコの言う通りだ。勇者はそれだけで人々の希望になる。並外れた力を持ち、世界や国に大きく貢献した者だけに連盟から与えられる称号だからな」
「セラスはあたしやアルドと同じ孤児院出身でね。孤児院を出てから勇者にまでなった貧民街希望の星なんだ」
リコが自慢げにセラスの事を語る。
おかげで勇者セラスの身の上については大体わかったかな。
ガンッ!
不意に結界から振動が伝わってくる。
結界に魔物がぶつかったみたいだ。
すぐ目の前に頭から結界に衝突したラプトルもどきが佇んでいる。
アルドとリコは振動と突然の魔物の出現に驚いて武器を手に取る。
「この結界のせいなの? あたしが魔物の接近に気付かなかったなんて……」
「二人とも! 絶対攻撃しないでくれ! 大丈夫だから!」
俺の声を聞いて二人は警戒体制のまま、ラプトルもどきへの攻撃を思いとどまる。
ラプトルもどきは目の前にいる俺達の存在に全く気付くことなく、何にぶつかったのか理解できないまま立ち去っていく。
「ほんとに気づかれないんだ……。あたしたちが目の前にいて、火を焚いてこんなに大きな声で話していても……」
「ああ、正直、俺も驚いている。頭から結界の障壁にぶつかっておきながら、その異常に気付かないとはな……」
二人の反応を見る限り、ピリカのこの結界は超絶チートで間違いなさそうだ。
これを使う局面は十分注意しないとな。
「【持続時間は半日】【結界内から攻撃しない】この条件が満たされている限りは結界内での安全は確保されてる。外にどんな奴が現れても、迂闊に攻撃しないようにな」
「わかった。実際に結界の効果を体験したからな」
「さて、朝までは安全だってわかってもらえたところで、腹ごしらえでもしながら明日の作戦を立てよう。アルドの話だと、勇者との合流はもう無理っぽいし、追躡竜を俺たち四人で倒すしかないんだろ?」
二人に焼けた鳥肉を渡して話を切り出す。
「残念ながらその通りだ。先に奴と戦ったテゴ族と俺達は同じ状況だ。もう、やるかやられるかしかない」
アルドはかなり重苦しい表情で答える。
「つまり、【マーキング】されちゃったあたしたちは依頼を達成しない限り、生きてモンテスに帰れないって事だよね。上等じゃない! あたしらで奴を倒せば無事セラスも依頼達成! 災害級魔獣討伐の功績でセラスの序列が上がるかもしれない」
リコもすでに覚悟はできているみたいで、強気にふるまっている。
「それじゃ、作戦について話し合おう。まずは俺の考えを聞いてもらってもいいかな?」
二人は頷いて俺の意見に耳を傾ける。
……。
……。
「……という作戦で行くのがいいと思うんだけど、どうだい?」
「…… むしろ俺達三人の勝ち筋はそれしかなさそうだな。今いる場所、俺達の戦力と能力では最良の作戦だろう。これでだめなら諦めるしかないか」
「…… いいよ。ハルトの作戦で行こう」
「じゃ、そういうわけで…… 俺は明日に備えて休ませてもらうよ。火はピリカが見ててくれるからさ、二人もしっかり休んでおいたほうが良いぞ」
俺は二人に声をかけてから横になる。
ピリカが俺の横でバッチリ見張ってくれているから、俺や荷物に妙な真似をされる心配はないだろう。
命がかかった勝負に変な疲れを残すわけにもいかない。
明日の勝負に備えてさっさと眠ることにした。
眠っている間に、きっと俺の仕込んだ小細工が仕事をしてくれるはず。
次回、八十六話の投下は1時間後、4月29日の22:30ぐらいを見込んでいます。
やっぱあれなのかな……追放されないと今は見向きもされないのかな……。
そもそも展開遅いし、登場人物超少ないもんな……。
でもでも、プロットも全部書いちゃったし、このまま突っ走りますとも!
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