八十四話 なるほど…… 逆転の発想か
人類と創成神フェシオスとの戦いは絶望的なものとなった。
神であるフェシオスは人類に天罰を下すのみ。
人類に抗うすべはない。
精霊や魔族を攻める人類軍に、天変地異・災害が容赦なく襲いかかる。
神の御座さえ知る術のない人類は一方的に蹂躙されるのみ。
人類は九割九分手が届いていた勝利を手放さざるを得なくなった。
まさに人類は【ラライエ】という世界そのものを相手に戦うことになった。
神の御座に至らねば人類に未来はない。
神にも魔族にも精霊にも気取られることなく人類は、神に刃を振るう術を模索し始める。
ラライエ創成記より一部抜粋
「よし、ここにしよう。ピリカ、今夜から四人いるから広いめで頼むよ。そうだな…… 直径10mぐらいで……」
俺はG管を取り出して地面に直径10mくらいの円を描く。
この時に、ちょっと小細工を仕込んでおいた。
ピリカは何も言わずにその円形の大きさに合わせて結界を展開させる。
「二人とも、明日の朝まで絶対にこの線から外に出るの禁止だからな」
「えっ? 何これ?」
リコがなんか固まっている。
「おい、ハルト…… これは一体……。追躡竜の【マーキング】が消えたぞ」
「やっぱりそうだよね? 心臓に針刺されたみたいな感覚が消えたよ。これって、もしかして私たち助かったの?」
リコは追躡竜の【マーキング】から逃れられたのでは?
そう考えたのだろう。
目をキラキラさせてこちらの返答を待っている。
尻尾もゆっくり左右に揺れている。
そんな顔をされると、現実を突きつけるのが少し可哀そうになるな。
「残念だけど、そこまで都合のいいものじゃない。【マーキング】が消えたのは、ピリカが結界を展開させてるおかげだから。ここから一歩でも出たら、即座に【マーキング】も復活するから絶対出るなよ」
「そうなんだ…… さすがにそんなに甘くないね」
望みが絶たれて、リコの尻尾は力なく垂れさがる。
ほんとにわかりやすいな。
「それでハルト。この結界は中にいる限り追躡竜の【マーキング】を無効化するもの…… ということでいいのか?」
「それで間違いないみたいだけど、その効果はおまけだ。本来は【魔物から見つからない】、【魔物に襲われない】そのための結界なんだ。この森の夜は危なすぎて、とても歩けたもんじゃないからな。むしろ俺は、あんたたちがどうやってこんなところまで来たのかが気になるね。さすがに街から日帰りの距離ってことは無いだろ?」
「緑の泥を進むときは、パーティーに索敵に長けたメンバーを加えて、魔物を避けながら夜間に進むのが鉄則だ。ハルトの言う通り、夜は強力な魔物が徘徊するからな。野営の時に奇襲されでもしたら、あっという間に全滅もありうる。だから、パーティー全員で最大限警戒しながら魔物との遭遇を避けながら夜間進む。そして、比較的安全な昼の間に野営して、交代で休むのが普通だ」
「なるほど…… 逆転の発想か」
確かに、夜間の魔物と戦闘になるとかなりマズい。
だったら全員で行動して全力で戦闘回避しながら進む方がマシかもしれない。
この異世界魔境に限って言えば、昼間の方が安全を確保しやすいのは間違いない。
「緑の泥はそこいらの三流冒険者じゃ、昼間に踏み入るのも危なくてそもそも無理なんだけどね! あたしたちは勇者パーティーだからさ! こんなに深くまで入ってこられたってわけ」
リコがどやぁ! と、書いてあるように見える顔で自慢している。
だけどお前ら、テゴ族に捕まってひん剥かれた上に餌になりかけてたよな?
そう突っ込もうかと思ったが、中身は大人なのでやめておいた。
突っ込んだら絶対にケンカになるからな。
「とりあえず、この結界の中にいれば明日の朝までは魔物に見つからないし襲われないから……。腰を据えて情報交換とこれからの作戦を考えよう」
……。
……。
「あのさ、こんな堂々と火を焚いて平気なの? こんなに見通しのきく場所で……」
「ああ、結界の中にいる限りは平気だ。今までこの状態で魔物に見つかったり襲われたりしたことは無い。安心していい」
「……あんたの精霊の力、洒落になってないよ」
「ああ、もしこの結界にハルトの言う通りの効果がなかったら、俺達は今夜死ぬぞ」
「おっと、そうだ…… 外にどんな魔物が現れても絶対攻撃禁止な。内側から攻撃したら結界の効果消えるから」
「強力な反面、そういう制約があるのか…… わかった」
とりあえず、これで大丈夫だろう。
本当は結界内から攻撃しても、認識阻害が失われるだけで障壁は残るのだが、それを教えてやるほど信用はできない。
とはいうものの、今までの行動を見た感じだと二人は別に悪人というわけでもなさそうだ。
なので、別にピリカみたいな塩対応を取るつもりもない。
結界の中にいる限りは明日の朝までは安全は確保できているはず。
まずは食事の準備を進めつつ、色々と聞き出してみるかな。
アルドとリコは身ぐるみはがされた状態で、装備品のみを回収してここまで来ている。
二人の水、食料は俺が用意せざるを得ないだろう。
ポリ袋に放り込んである鳥肉を取り出して火にかける。
俺一人だと二日分あるけど、3人分必要なのでここで使い切ってしまうか。
木の枝に三等分に切り分けた鳥肉を刺して火にかける。
やがて、ポタポタと肉の脂が滴り落ち始める。
その様子を見つめながら俺は二人に話しかける。
「そろそろ、二人に本命の質問をぶつけてもいいかな?」
「な、なによ? なんか気になる言い方ね?」
「何を聞かれるかは察しがついているけどな…… 答えられることなら答えるよ」
やはりアルドは中々に察しがいいみたいだな。
本日の投稿は以上です。
次回、八十五話の投下は明日4月29日の21:30ぐらいを見込んでいます。
不本意ながら明日でストックが全部溶けます。
計画通りに明日と明後日、三話投稿を貫くには、夜通し原稿を上積みする必要が
ありそうです。Σ(゜∀゜ノ)ノキャー
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