七十六話 なんか変なこと考えてるだろ?
永遠に続くかに思われた魔族・精霊達との戦いも、長い時の流れの中で少しずつ、本当にほんの少しずつだが人類が優勢になっていく。
精霊は神と同じく悠久の時を生きる存在である。
その数が増えるにも育つにも悠久ともいえる時を必要とするとされている。
そのため、精霊の減少した個体数が回復することは無い。
精霊を一体でも討ち取れば、その分だけ確実にその戦力は削がれていく。
数百・数千年の時と数十・数百の勇者の命、数万・数十万の戦士たちの命を引き換えに人類はついに炎と土の精霊王を討ち取ることに成功した。
残る精霊王は水・風・光の三体。
数の上でも精霊は最盛期の四割を失っている。
魔族たちもじわじわと損耗が蓄積している。
もはや大勢は決し、もはや人類の勝利は確定的となった。
それでも、人類が勝利をつかむには、まだ数百年規模の戦いが続くことにはなるであろうが……。
ラライエ創成記より一部抜粋
獣人の娘が先頭に立ち、周囲を警戒しながら匂いをたどる。
俺たちはそのあとに続いて密林を進んでいく。
一応、何が起こるかわからないので、脳内PCでマッピングは続けている。
「そういえば自己紹介がまだだったな。少年は【ハルト】って名前だろ? 少年の契約精霊がそう言ってたもんな」
「ああ。俺の名前はハルト。こっちが精霊のピリカ」
「アルドだ。年は22で勇者セラスのパーティーメンバーで戦士をやってる。状況次第では壁役をやることもあるな」
二十二ということは日本じゃ大学四年ぐらいか。
俺から見れば余裕で小僧の分類だ。
「あっちはリコ。19歳で見ての通り獣人だ。俺と同じ勇者セラスのパーティーで斥候役をやってる」
獣人の娘が、ぶっきらぼうに名乗る。
「リコ……。今ちょっと集中してるから、話はあとにして」
どうやら、警戒しながら匂いを追うのに集中しているようだ。
短くそれだけ言うと、再び匂いを追い始める。
アルドにリコね。
この二人に何とか人類の都市までの道案内をしてもらいつつ、情報収集ができればいいのだが……。
リコの集中を切らせるのも不味そうなので、静かにリコの後について密林を進む。
それにしても……素っ裸の年頃の男女の後について密林を進むこの光景って……。
もう考えるのはよそう。
最初のうちは胸や局部を手で隠していたリコも、今は堂々としたものだ。
ここまでばっちり見られたら今更って感じなのかもしれない。
30分程でどうやら目的地に到着したようだ。
雑草が広範囲で荒らされていて、おそらくテゴ族の死体の成れの果てだろう。
あちこちに食い散らされた跡と思われる骨や血痕が散らかっている。
日本にいたころに、初見でこの光景が飛び込んできていたら絶対に吐いていると思う。
俺もすっかり耐性がついてしまったものだ。
二人はあたりをごそごそと探って次々と散乱している鎧のパーツや武器などを見つけて集め始める。
どうやら、テゴ族は取り上げた武器や鎧を持って帰って、自分達で使う頭すら持ち合わせていないと見える。
知能レベルだけならコボルト以下だな。
生物学的には同じ人間だというのに情けない限りだ。
「二人の装備は見つかりそうかい?」
「ああ。武器と防具は何とか使えそうだ」
それはよかった。
丸腰・丸裸の二人を連れてジャングルを踏破する羽目にはならなくて済みそうだ。
「くそっ、食料やポーションは全滅だよ」
リコが引きちぎられて、原型をとどめていない背負い袋だったものを拾い上げて悪態をつく。
「まったく、食い意地だけは張ってやがるな」
「でもさ、これは無事だったよ」
リコが散乱している荷物から一枚のカードを見つけ出して、そうアルドに告げる。
「ああ、俺のも無事だ。」
アルドもリコと同じ意匠のカードを見つけ出していた。
「それは?」
「え? これ? 冒険者ギルド証に決まってるでしょ」
おおっと、やっぱりあるのか!
もはや異世界じゃお約束だな。
後で、その冒険者ギルドについては教えてもらう必要があるだろう。
俺の異世界ライフにとって絶対に無関係ではいられない予感しかしない。
結局、冒険者ギルド証以外の二人の消耗品関係の携行品は全滅っぽい。
「わかってたけど、やっぱ服もダメか。捕まった時にビリビリに破られたもんね」
おそらくリコが身に着けていた元インナーらしきぼろ布を放り投げ捨て言う。
ケモミミ娘がテゴ族に取り押さえられて、鎧をはがされた上に服を引き裂かれて裸に剥かれる光景が脳裏をよぎる。
それ、なんて〇ロゲ?
お約束通り気丈に「くっころ!」とか言ったのだろうか?
「お前、ハルトだっけ? なんか変なこと考えてるだろ?」
「えっ!? いや、そんなことはない。二人とも災難だったなぁっと思っただけだ」
「ほんとかぁ?」
リコは懐疑的なジト目を俺に向ける。
この察しの良さも獣人ならではの感覚なのか?
「とにかく、武器と防具だけでも使える状態で残っていてよかったと思うしかないな」
アルドが鎧や剣の状態を確認しながらリコに声をかける。
「うぅ…… 裸に鎧ってなんの罰ゲームだよ」
リコの耳が垂れているので、テンションダダ下がりのようだ。
表情だけでなく、感情が犬と同列に耳や尻尾に出てくるので、リコは非常にわかりやすい。
この子は気が強くて荒っぽい一面も見えるけど、わかりやすいということはそれだけで好感が持てるぞ。
一方のアルドは戦士職らしいが、豪胆という感じは全くなく冷静な印象があるな。
冷静に物事を考えられるのはいいことだ。
一方でなんとなく物事を割り切るというか、諦めモードに入るのが早いような気がする。
テゴ族に捕まっていた時も、自分の命がかかっている状況でも諦めていたみたいだったし……。
せめて自分の命の安売りはやめような。
しかし、エプロンなら需要がありそうだが、裸アーマーはなんか痛そうだしかわいそうな気がする。
仕方がない、少しだけ手を差し伸べてやるか。
次回、77話の投下は1時間後。
4月26日の22:30頃を見込んでいます。
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