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七十五話 そうだね、ハルト60点!

 単純な大きさだけなら、こいつはこれでも以前遭遇したラライエワニ成体の半分以下だ。

しかし、脅威度は絶対にこいつの方が高いと思われる。

ラライエワニは地を這っての移動だし、その本領を発揮するのは水辺限定だ。

このT-REXもどきは明らかに密林を活動圏にしている。

身体的な運動性能がラライエワニとは段違いなのが子供でも分かるフォルムだ。


 ずんずんと集落(コロニー)に入ってきて周囲をぐるりと見回すと、耳の位置にある膜を突然広げた。

その様子は巨大なエリマキトカゲに見えなくもない。


「ギャオォォーーッ!」


 次の瞬間、突然T-REXもどきが吠えた。

凄まじい音量だ。

耳をつんざくというのはこういうのを言うのだろうな。

子供の頃(今は別の意味で子供だが)に見ていた原始人のアニメで、叫び声が石になって飛んでいく演出があったけど感覚的にそんな印象だ。


 ヤツの叫び声による衝撃が俺の全身を突き抜けていった。

不覚にもそのショックで数秒、動けなくなってしまう。

さすがに【プチピリカシールド】もこれに反応して発動することは無かった。


 これって某ひと狩りするゲームで、耐性無い時に大型の竜種に吠えられたときになるアレじゃね?

……とも思ってしまった。


 動けなくなったのは俺だけでなく、この場にいたテゴ族たちも同様だったが、ピリカはケロッとしている。

平気そうではあるが、目が少しマジモードだ。


「ハルト、ちょっとマズいことになったかも」


「そりゃ、マズいことになっただろ。こんな奴の乱入は想定外だからな」


「うん、そうなんだけどね。マズいのはあいつに吠えさせたことでね……」


「問題はあのT-REXもどきの立ち位置だな。どうせあれも魔物だろうから、魔物同士、テゴ族と仲良しこよしでないことを祈るばかりだ」


 マジであれとテゴ族が共闘してくるのだけは勘弁してください。

祈るような気持ちでT-REXもどきが取る次の挙動に注意を払う。


 しかし、予想外にも先に動いたのはテゴ族たちだった。

俺達との戦闘を中断し、一斉にT-REXもどきに襲い掛かる。

なんか、アリの群れに飛び込んだカマキリがアリ達に襲われているような……。

そんな構図に見えなくもない。


 次々とテゴ族がT-REXもどきの皮膚や肉をむしり取る一方で、T-REXもどきも容赦なくテゴ族たちを貪っている。

互いに食い合う地獄のバトルが繰り広げられる一方で、俺とピリカは完全に放置状態になった。

俺とピリカは平気だが、もしかしてさっきの咆哮に自分にヘイトを集める効果でもあったのだろうか?


「えっと……何コレ? いきなり見向きもされなくなったけどさ。奴らにとっては、俺達よりあの恐竜の方が脅威ということなのか?」


「そうだね、ハルト60点! あいつらにとっては、ある意味アイツの方が脅威だよ。やるかやられるかの状況になってしまったのが、本能で理解できたんだと思う」


「あの恐竜、それほどなのか?」


「本気のピリカの敵じゃないけどね。それでもあれは魔物よりタチの悪い【魔獣】だからね」


 なんか、ピリカさんの口からまたパワーワードが出てきたぞ。


「気になる言葉が出てきたけど、今はそれどころじゃないな。この状況を利用しない手は無い。今のうちにここを離れよう」


 テゴ族とT-REXもどきの勝敗の行方を気にしている暇はない。

今は動く時だ。


 俺達は奴らの気をひかないように、そっと二人を隠している集落(コロニー)の外側へ退避を開始する。

今になってふと思い出した。T-REXもどきの現れた方向は、俺達が最初のテゴ族を尾行しながらやってきた方角だ。

ここに来る少し前に、なんか大型の動物が通った跡らしきものがあった。

きっとそれがこのT-REXもどきだったのだろう。

過ぎたことだが、念のためその正体を確かめておくべきだったかもしれない。


「二人とも生きてるかい?」


「今のところは何とかな」


 人間の男の方が返事を返してくる。

見た感じは結構辛そうだ。


「状況が予想外の方向で変わってしまった。すぐにここからずらかる」


「ああ、わかってる。別に恨んだりはしないさ」


「そう……だね。あたしたちもバッチリ聞こえちゃったし、【マーキング】されてるのは分かってるから……」


 ?? なんか微妙に話がかみ合っていない気がする。


「元々あたしたちの目的でもあったんだから、仕方ないよ。あんたが何でこんなところにいたのか知ならいけど、無事に生き延びることを祈ってるよ」


「そうだな…… まだ近くに勇者セラスのパーティーがいるかも知れない。勇者パーティーが見つかればまだ可能性はある。絶対に最後まであきらめるなよ」


 やはり何か認識に食い違いがありそうだ。


「あのさ。二人そろってなんか勘違いしてない?」


 俺がこんな言葉をかぶせてくることが予想外だったのか、二人の頭上に【??】が見えそうな表情にんった。

構わずに俺は続ける。


「まず、俺は二人を見捨てていく気はないぞ。……今のところはな」


「何言ってんだ! あたしたちはもう自由に動けない。いいから行けって!」


「ピリカ、二人の怪我を治してやってくれないか?」


 きっとそう言うだろうと、ピリカも予想していたはずだと思うが、それでもピリカは露骨に嫌そうな表情をする。


「こいつら、勇者の仲間って言ってたよ? やっぱり放っといていいと思うけどな」


「せっかく危険を冒してまで助けたんだ。ここまでしたのにそんなこと言わないでくれよ」


 ピリカとしては、気が進まないのに人間たちを助けるのに、二人に対して嫌みの一つでも言ってやらないと気が済まないだけなんだろう。

ピリカの嫌味聞くだけで助けてもらえるんだ。

二人には甘んじて受けてもらうことにする。

ピリカは治癒術式を二人に向けて発動させる。

魔法陣から降り注ぐ光がみるみる二人の傷を癒していく。

ものの十秒ほどで、傷は完全にふさがって傷跡すら残っていない状態になる。


 二人ともなんか固まっている。

ここまでの治癒効果が得られる魔法は、ラライエでも規格外なのかもしれない。

ラノベ主人公ならここで『俺、なんかやっちゃいました?』的なリアクションをするのだろうけど、俺は華麗にスルーするよ。

そもそもやったのはピリカだし……。


 この二人の反応を観察して、人類文明圏での俺の立ち位置を見極めたい。

それと、ピリカを含めてどこまでやればチート扱いされてしまうのかとか、色々と実験しながら情報収集を行うことにする。

貴重な情報源兼、サンプルだ。

むざむざ見殺しにはしないさ。

それに助けられる者を見捨てるのも目覚めが悪い。

損得勘定だけで動けないあたり、根っこの部分はやっぱり、俺は平和ボケした日本人なんだろうな。


「傷は治ってるみたいだし、もう自分で歩けるんじゃないか?」


「嘘でしょ? もう二度と立てないと思ってたのに……」


 獣人の娘がゆっくりと立ち上がる。

こうして立ち上がると結構大きいな。脳内PCが彼女の身長を172㎝と計測している。


「俺も諦めていたんだけどな。【光の精霊】の能力がこれ程とはな」


「希少で強力って話だけど、ほんとにすごいわね」


「ああ、完全に切られた手足の腱を治すなんて聖者・聖女級の治癒魔法だ」


 どうやら、聖者・聖女って呼ばれてるようなのはこのくらいの治癒はできるみたいだ。


「ハルトのお願いだから治してあげたけど、妙な真似したらすぐに刻むから」


ピリカは魔物を見るような光の無い目で二人をにらみつける。


「ちょっと! 【契約精霊】のしつけがなってないんじゃないの?」


 獣人の娘が何か言ってるがここはスルーする。

ピリカは俺の考えを代弁してくれてもいるからな。

俺としても妙な真似してきたらピリカが二人を刻んでも一向にかまわない。

会ったばかりの二人を俺もそこまで信用はしていない。


「動けるなら、急いでここを離れよう。テゴ族とT-REXもどき、どっちが勝つにしろこのチャンスを無駄にできない」


「てぃーれっく……何? 追躡竜(ついじょうりゅう)のことでしょ?」


 どうやらあのT-REXもどきはラライエの人類に追躡竜(ついじょうりゅう)と呼ばれているらしい。

なんか、一狩りするゲームの討伐対象になりそうな呼び名だ。

見た目もそれっぽいし。


「別にそんなはぐらかさなくてもいいわよ。覚悟はできてるし」


「……だな。大体、テゴ族ごときが追躡竜(ついじょうりゅう)に勝てるわけがない。奴らが少しでも長く粘ってくれることを期待しよう」


 おっと、二人はT-REXもどき、もとい、追躡竜(ついじょうりゅう)にオールbetですか。

どうやら、緑の泥でもかなり上位の存在みたいだ。

ピリカも奴を【魔獣】なんて呼び方していたし。


「おい、俺たちの武器の場所はわかりそうか?」


 男の方が獣人の娘に尋ねる。

獣人の娘は鼻をひくつかせて周囲の匂いを探っている。

獣人の特性的に嗅覚が鋭敏なんだろうと俺のオタク知識で推測する。


「まだあたしたちが捕まってから一日しかたってないから……。大丈夫! 分かるよ」


「少年、一緒に来てくれ。俺達の装備を回収したい」


「はいよ」


 俺はG管をばらしてリュックにしまい込んで、再びサイを装備し直しながら返事をする。

そんなわけで俺とピリカ、素っ裸の男女という変な取り合わせで二人の装備を回収するためにこの密林をしばらく進むことになった。



 本日の投稿は以上です。

次回、七十六話の投下は明日、4月26日の21:30頃を見込んでいます。

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