七十四話 なんじゃこりゃぁ!?
俺が射出した魔法の正体は魔力で作った透明のカプセルに限界まで圧縮した透明の気体だ。
着想自体はピリカがラライエワニを倒した時に使ったプラズマ火球の魔法だが、あれは強力すぎるし、俺には理解不能な原理が多すぎて再現は出来ない。
そこで、俺にも生成可能な劣化版として作り上げたものがこの【クリメイション】というわけだ。
気体の正体は『火山ガス』。
脳内PCのデータベースに成分があったので、何とか生成に成功した。
9割は水蒸気、あとの一割は一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素などで構成された1000度まで加熱された無色の高温ガスだ。
これをバレーボール大の魔力の球体に限界まで圧縮してある。
防げない、躱せない、見切れないというのは攻撃手段としてはやはり重要だ。
ファンタジー系攻撃魔法の定番であるファイアボールやアイシクルランスとかってさ。
あそこまであからさまに発動が見えちゃったら対策されるでしょ!ってよく思っていた。
無色透明で超高温の圧縮ガス弾。
これなら【フルメタルジャケット】ほどの弾速が出てなくても対応は困難なはずだ。
ここまで加熱された硫化水素は可燃物に触れることで発火性も出てくる。
全身葉っぱのテゴ族には効果は抜群だ! ……というやつだ。
それに、硫化水素はもちろんのこと一酸化炭素、二酸化炭素は殆どの生物にとって有害だ。
特に一酸化炭素は非常に危険で、火山ガスクラスの濃度の物を一息でも吸えば普通に命に係わる。
しかも至近距離でガスを吸った者は、即座に気管と肺を焼かれる追加効果のおまけつきだ。
地球で対人攻撃手段に使用されれば、かなり非人道的な兵器になるだろう。
しかし、ここは異世界だしテゴ族は同じ人間として扱うのは無理がありすぎる存在だろう。こいつらへの使用は許容されると判断した。
この一撃で30匹は倒せたかな?
【ピリカビーム】で削られていってる奴らを含めれば敵の残数は100を下回り始めていると思う。
残念ながら第二射の余裕はなさそうだ。
先頭のテゴ族が目前に迫ってきている。
俺はG管を構えて、即座に使えるだけの【レント】をテゴ族に対して発動させる。
ここからは乱戦になりそうだ。
以降、使用する魔法は止め用の【フルメタルジャケット】に絞って格ゲードライバを起動させる。
物理攻撃しか攻撃手段を持たないテゴ族が相手なら、【プチピリカシールド】の効果がある間は俺も無敵と考えて差し支え無さそうだ。
ミッション
勝利条件:【プチピリカシールド】の効果が切れるまでにテゴ族を殲滅せよ
敗北条件:テゴ族が後ろに隠している二人のところに到達する
【プチピリカシールド】の効果が切れるまでにテゴ族を全滅できない
……こんなところかな?
もちろん最善を尽くすが、一番大事なのは俺とピリカの命だ。
ダメそうなら即座に【ポータル】を発動させて撤退するつもりだ。
あの二人には申し訳ないが、彼等を連れて【ポータル】で撤退するつもりはさらさらない。名前さえ知らない二人の命よりも、秘密満載の我が家の存在秘匿の方が大事である。
だから本当に【プチピリカシールド】の効果が失われるまで頑張るつもりはない。
撤退の判断目安は効果が消える20秒前ぐらいだろう。
それまでは俺も全力で頑張らせてもらう。
まだ20分以上残っているし、ピリカ無双と合わせれば、なんとなくだがいけそうな予感はしている。
群がってくるテゴ族を棒術で薙ぎ払ったり、打ちのめしたりていく。
首が折れたり、内臓破裂して立ち上がれそうにないのは放置。
体勢が崩れて隙が出来た奴には追い打ちで【フルメタルジャケット】をお見舞いして止めを刺していく。
ピリカさんは星を取った無敵の配管工状態なので好きにさせておく。
襲い掛かる端から刻まれていくテゴ族が可哀想に思えてくる。
しかし、こいつらホントに恐怖心とか無いのな。
ピリカが奴らの思考は殺す・食べるしか無いって言っていたけど成程と思う。
俺がテゴ族側なら、最初の10人が刻まれた時点で無理と判断して逃亡するけどな。
まだ、俺の方が倒せる可能性高いだろ?
なんでピリカの方に流れていく敵の方が多いんだ?
訳が分からん。
ま、その方が助かるけど。
俺が参戦して数分が経過した。
いくら俺の方が相手にしている数が少ないとはいえ、全ての攻撃をさばき切れてはいない。この戦闘開始わずか数分ですでに7回【プチピリカシールド】が仕事をしている。
【プチピリカシールド】が無かったら7回死んでいる計算だ。
ピリカが圧倒的すぎるだけで、テゴ族は決して弱くはない。
気を引き締めないとな。
これだけ敵が群がってくると、絵的には格ゲーというよりは二人でずんずん進んでいく横スクロールバトルのレトロゲームみたいだ。
あのゲームみたいにエルボーだけで次々と敵をなぎ倒したりできないけどね。
いや……ピリカならエルボーだけで敵を一掃もワンチャンあるか?
「てぇぃ!」
駆け寄ってくるテゴ族を下段払いで倒して【フルメタルジャケット】で止めを刺す。
これで11匹? 12匹? もう数がわからなくなってきた。
じわじわと敵の数は減ってきているが、まだまだおかわりはたっぷりだ。
この辺りも死体だらけで足元が悪くなってきた。
さらに3歩ほど下がった方が良いかな。
そんなことを考えていると、俺が全く予想もしなかった形で状況が打ち破られた。
俺達が最初にこの集落にやってきた方向(今いる俺達のところから見て風下の場所)の外側の草木が引き裂かれて、とんでもない乱入者が飛び込んできたのだ。
「なんじゃこりゃぁ!?」
二足歩行で全高10m……は無いな。
脳内PCの測量ソフトが8m強と算出している。
長い尾を持つそのフォルムはまるで太古の地球に存在したT-REXを彷彿とさせる。
ただし、その鼻先に大きな角が突き出し、両耳に当たる場所に毒々しい緑地に赤い斑点がついた膜のようなものが後ろに向けてついているのが特徴的だ。
ぶっちゃけ、ラプトルもどきと遭遇して以来、この手の奴が緑の泥に生息している可能性はめっちゃ想定していた。
しかしこのタイミングでの遭遇は無いだろ!
次回、七十五話の投下は1時間後、4月25日の23:30頃を見込んでいます。
少し遅くなってしまいました。ストックの後半部になってくるとさすがに
取り切れていない誤字が多くて……すいません。
頑張って月内は三話投稿を続けますので、ブックマークと評価ポイントを
お願いします。




