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七十二話 もう待ったなしだ。

 俺は気付かれないように静かに、それでいて精一杯急いで集落(コロニー)の風上側に回り込み始める。

奴らの嗅覚が犬並みだった場合、匂いで気付かれるかもしれない。

そう思って一応、風下になるように位置取りは気を付けていたわけだ。

風上に回れば気付かれるかもだけど、風上に着いたらすぐ行動開始するつもりだ。

気付かれるリスクよりも、風上を取る優位性を取ることにした。


 今回は敵の数が圧倒的に多いので、俺が前に作った新しい攻撃魔法の出番がありそうだ。

こいつは風上の方が安心して使える。

テゴ族は全身葉っぱで覆われているから、副次的な効果も期待できそうだ。


 移動しながら【プチピリカシールド】と【ブレイクスルー】を発動する。

武器はサイでは無くG管だ。


 これだけ広さがあるなら、俺の得意なリーチのある棒術で問題なく戦えるだろう。

リュックからばらしたG管を取り出し、連結して一本の棒にする。


 こんなこともあろうかと出発前の準備期間にばらして、使用時には連結できるよう加工しておいた。

これなら移動時はあまりかさばらない。

術式も即座に使えるようにポーチから胸ポケットや内ポケットに移しておく。

【フルメタルジャケット】をメインに【レント】、おそらく実戦初投入になる新魔法も内ポケットに仕込む。

術式の準備も完了して、二人が放り出されている場所から見て風上に当たる場所に到着した。


 テゴ族の集落(コロニー)の方を見ると、成す術のない二人に数人の子供のテゴ族が群がり始めている。

あんな小さなころから、全身葉っぱまみれなのか。

どうやら二人は子供たちのエサのようだ。

ひな鳥にエサを運ぶ親鳥のようなものかな。

一応、集団で子育てをする程度の習性は持ち合わせているのだろう。


 俺は頭を切り替える。

あいつらはゴブリンやコボルトと同列の魔物だ。

人間だと思ってしまえば、人殺しのような気がして攻撃の手が鈍ってしまうかもしれない。


 地球だと生物的に人間ということだと、こんな奴らが相手でも人権がどうだと叫ぶ連中が一定数居る。

殺してしまうと殺人罪に問われかねないが、ここは異世界だ。

気にしなくていいだろう。


 このままだと、本当に人間と獣人の二人が生きたままばらされて、テゴ族の子供の胃袋に収まってしまう。

もう待ったなしだ。


「ピリカ、二人に群がっているやつらを蹴散らしてくれ。敵が混乱している隙に、二人をすぐに手出しできない場所まで下げる」


「はーい!」


 ピリカは正面から堂々と集落(コロニー)の中心に向かって滑空していく。

すでに獣人の娘の命運は数人のテゴ族の子供たちに押さえつけられて、風前の灯火だ。


「くそう! よせ! やだぁっ! セラス! セラスぅ!」


 獣人の娘が自由の利かない体で、精一杯の抵抗を試みている。

セラスって誰だ? 一緒に捕まってる相棒の男かな?


「くっ!」


 人間の男は仲間の獣人の最期を直視できないとばかりに、目を強く閉じて顔を背ける。

半狂乱で叫んでいる獣人の娘に覆いかぶさっているテゴ族の子供が、そのまま彼女の腹を食い千切ろうと口を開いた。

その時、【ピリカビーム】が子供テゴ族の頭を撃ち抜く。

性別さえ不明なテゴ族の子供は、目鼻耳口から血を垂れ流して絶命する。


 意識のあるまま内臓を食い破られる直前だった獣人の娘は、何が起こったのか理解できずにぽかんと固まっている。

状況が理解できないのは、もう一人の男の方も同じだが、現実に引き戻されるのは獣人の娘より一呼吸早かった。


「一体何が…… なっ!?」


 次々と【ピリカビーム】でテゴ族を倒しながら、自分たちの方に向かって飛んでくるピリカを見て、男は驚愕の表情を浮かべる。


「あれ? 生きてる……なんで?」


「最悪だ…… 精霊の襲撃だ」


「うそ…… そんな……」


 あれ?


 二人とも表情が絶望に塗りつぶされてるみたいだけど。

ラライエの精霊の立ち位置ってそんな感じなのか?

すでに、二人を喰らおうとしていた子供のテゴ族は【ピリカビーム】の連射で全滅している。


 突然のピリカの乱入で集落(コロニー)は大混乱に陥っている。

元々、殆ど秩序など無い本能だけの有象無象だ。

一度こうなったら立て直すのは容易でないだろう。


 ピリカはゴミでも見るような冷めた目で二人を一瞥すると、一言も発することなく、すぐ横を滑空してテゴ族の集団に飛び込んでいく。


「……あたし、今、絶対死んだと思った」


「俺もだ。両手足をやられて身動き一つできない人間なんて、いつでも殺せるって思ったんだろ。精霊は人間嫌いだが、魔物も同じくらい嫌いだ。テゴ族は人間でもあり魔物でもある。奴らの方が俺達より気に入らなかったってことだろうさ」


「でも、あの精霊なんか変じゃない? 服を着た精霊なんて…… あたし初めて見た」


「俺も初めてだ。しかも緑の泥に【光の精霊】が出るなんて聞いたことが無いぞ」


 ピリカはテゴ族の集団に飛び込むと【美利河 碑璃飛離拳(ピリカ ピリピリけん)】で次々と切り裂いていく。

世紀末系無双ゲームのような光景が繰り広げられている。

ピリカさん無敵すぎるよ。


 おっと、ピリカに目を奪われている暇はない。

二人の救出に邪魔になるリュックは降ろして茂みに隠しておく。

代わりに、G管はお手製のベルトで背中に装備して両手を開ける。


そして俺はテゴ族に気付かれないように、そっと二人に接近して声をかける。


「大丈夫か? 今のうちに向こうまで引っ張っていくけど、傷の手当てをしてる暇はない。奴らに気付かれるから、痛くても叫んだりしないでくれよ」


「えっ? 子供? なんでこんなところに?」


「少年、なんでこんなところにいるんだ? 他に誰か仲間がいるのか?」


「その仲間が奴らを引き受けてこの時間を作ってくれてるんだ。お互い聞きたいことはあるだろうけど、大丈夫なら少し黙っててくれ」


 俺は会話を一方的に切り上げて二人の救助に取り掛かる。

とはいえ、急なことで何の準備もしていない。

二人を同時に運ぶのは無理だ。

そもそも、【ブレイクスルー】で強化しているから重量的には持ち上がっても、12歳の体では成人の男女は体の大きさ的に持ち上がらない。


 仕方が無いので、戦争映画なんかで見た負傷兵を引きずって撤退する兵士みたいに、後ろから両脇に手を突っ込んで後ろ向きに引きずって一人づつ連れていくことにした。


 次にどちらを先に救助するかだが、ここは素直にレディーファーストで良いだろう。

俺は彼女の背後から両脇に腕を突っ込んでそのまま上半身を引き上げる。


「ちょっ、あんた! どこ触って……」


「マジでちょっと黙っててくれ! 奴らのエサになりたいのか? 勇者の仲間なんだろ? 強引に運ぶけど痛くても叫んだりしないでくれよ?」


「くっ!」


 獣人の娘は俺に言葉を被せられて、状況を理解したのか押し黙った。

俺はそのまま一気に後退を開始する。

申し訳ないが、今すぐ死ぬような傷でないのなら、彼女の怪我の状況に配慮している暇はない。


 ずるずると、下半身を地面に引きずられている獣人の娘は激痛に表情を歪めている。

だが、さすがは勇者パーティーということなのか(そもそも勇者パーティーってのがどれ程のものか知らないが……)苦痛のうめき声一つ上げることは無かった。


 本日の投稿は以上です。次回七十三話の投下は明日、21:30頃を見込んでいます。

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