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六十七話 やっと着いたな…… 五年越しの到達だ

 精霊は敵となれば人類にとって天敵以外の何物でもない。

精霊が出現する戦場では人類軍は敗退を繰り返すばかりになる。

特に五体の精霊王の力は絶大で、かつての魔王と比べても遜色の無いものである。

魔力(マナ)を帯びた魔法金属か魔法攻撃でしか傷つかず、彼女らの操る呪紋に人類の呪文で対抗するのは極めて困難であった。


 人類にとって救いなのは、滅亡寸前の魔族たちに人類の領域に攻め込むだけの兵力は無く、また、精霊達も人類の領域に踏み込んでまで追撃をかけてこなかったことだ。


 彼らの数は精霊・魔族合わせても人類軍の百分の一にも満たないことが幸いした。

戦局は再び数十世代にわたる泥沼の戦いへと逆戻りとなった。



        ラライエ創成記より一部抜粋



 9月7日


 連日降っていた雨が一昨日にはやんで、今日は朝から快晴だ。

今日天気が良かったら、雨期は終了とみなしてジャングル脱出作戦を決行しようと決めていた。


 そう言えば、今日は妹の誕生日だったな。

元気にしているだろうか。


 俺の肉体年齢は相変わらず12歳だと思うが、中身の年齢はもう59歳。

来年には60歳のジジイだな……。

と、いうことは妹も55歳か……。

妹とその家族には無事でいて欲しいものだ。

おっと、それはそれだ。

今はとにかく、俺が行動をおこさないとな。

頭を今後の予定の方に切り替える。


 可能な限りの準備は整えてきた。

特に【ピリカストレージ】の仕込みはジャングル脱出時の補給と、人間の都市到着以降の状況を考慮して準備をしたつもりだ。

あと、術式の仕込みも完璧のはず。

一度出発したら、術式をおいそれと現地で書いていられなくなる。

なので、術式は十分な数を用意してあるし【ピリカストレージ】にもしっかりと補充用の術式を仕込んでいる。


 密林の脱出が不可能と判断すれば、俺とピリカには【ポータル】がある。

一瞬で脱出計画を安全に中断できる保険があるのはとても大きい。

これの存在が、俺にジャングル脱出を決心させてくれた。

……と言っても過言ではない。

十分すぎる検証と準備を重ねた自信はある。

もっとも少々のことで断念するつもりもないけどな。


「よし、出発しよう。この家ともしばらくお別れだな……」


「結界はピリカ達がいなくなっても維持されるから、三年や五年くらいなら手入れなしでも平気だと思うよ」


「それはありがたいな。こんな異世界にまで一緒に来てくれた家だ。出来ればずっと大事にしていきたいよ」


 結界を出る前に一度だけ振り返って我が家を眺める。

全周囲ジャングルの中に立つ我が家とお隣さんの家だけが佇んでいる。


『じゃ、行ってくるよ、少し長い旅になるけど戻ってくるからさ』


 心の中でそう我が家に告げて、東に向けてピリカと共に結界を出る。


 我が家を出て五日。

移動は日中に限定して、ひたすら川を目指して東に進む。

危険な夜間はピリカの結界内で過ごす。

問題なく野営の安全は確保されているし、食料は今のところ現地調達で乗り切れている。


 日中の移動時は、やはりゴブリンなどの魔物に出くわすこともあるが、これも問題なく対処できている。

ピリカは基本的に俺と一緒にいられれば、それだけでご機嫌だ。

今も俺の隣をニコニコしながら歩いている。


「おっ、ピリカあれを頼む。今夜のご飯だ」


「はーい」


 ピリカは頭上を飛ぶ鳥に【ピリカビーム】を放つ。

ピリカは決して狙いを外さない。

【ピリカビーム】が命中してポトリと鳥は落下する。

いつもの雉に似た鳥だ。

これ一羽で二日間は俺の胃袋を満たすことができる。

あとはフルーツが一つ二つ取れれば上出来かな。


 鳥を回収して東に進み続けること半日。

昼を過ぎた頃、ついに川にたどり着いた。


 えっと、これ…… 川だよな? 海じゃなくて……。


 リュックからオペラグラスを取り出して覗き込む。

雨期が明けたばかりだから、川幅が広がっているのかもしれない。

はるか先に向こう岸の木々が何とか見える。

川幅は確実にkm単位だ。


 たまに魚が水面から跳ねているのが見える。


 ……うん。

魚…… 魚だよな?

魚であってくれぇ……。

大きさが地球の大型のイルカくらいあるけど……。


「やっと着いたな…… 五年越しの到達だ」


「これからどうするの?」


「川に沿って下流に進む。川岸は初見の水棲動物とか魔物にいきなり襲われる危険があるから、川を確認しながら森の中を進もう」


 ラライエワニやデカい亀だけでなく、想像の斜め上を行く怪物にいきなり襲われるかもしれない。

なんてったって異世界だ。

情報の無い水辺はかなり危険な気がする。


 川岸から150m程森に分け入って、この辺りから時々川を確認しながら下流に向かって歩き始める。

この川は北が上流で南に向かって流れている。

これほどの川なら川沿いに進んでいけば、いつかは人類の文明圏に到達できると信じたい。


「しかし凄いな。地球でもアマゾンなんかはこんな感じと思うけど……。アマゾンなんて行ったことないけどな」


「前にも言ったけど、ラライエじゃこのくらいの森は結構見かけるよ。でも、この森は他の森よりちょっと魔物多い気はするかな……」


 これでちょっとか?

大丈夫なのか? この世界の人類って……。

 次回、六十八話の投下はは1時間後、4月23日の22:30頃を見込んでいます。

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