六十六話 ほぼ無敵だね!
翌朝、俺は何事もなく目を覚ます。
周囲には魔物の死骸は見当たらない。
「おはよう、ピリカ。どうだ? 魔物は襲ってきたりしたか?」
「あっ、おはよう! ハルト! おうちにいるときと一緒だよ。全然襲ってこなかったよ」
「それは良かった。やっと予想通りかつ、理想の結果が得られたよ」
全くもっと早く気付けって話なんだけどな。
地球にいた頃からカウントしたら十年近く引きこもり生活をしていたせいかな。
結界で安全を確保するというところに思考が行きつかなかったとは……。
ラライエに来てからの五年は引きこもりというか……。
かなりサバイバル生活寄りだけど、それでも夜に密林に入るという選択肢がそもそも無かったからな。
俺は【ポータル】で家に戻り、早速ビデオカメラをダイニングの液晶テレビにつないで3倍速で再生してみる。
そこに映っていたのは半ば予想していた光景だ。
画面には15分おきくらいに魔物が通り過ぎていく様子が映っていた。
虎や熊みたいな昼間でもたまに遭遇していたやつから、今まで見たことが無かったラプトルもどきまでかなりバラエティに富んでいる。
やはり、この密林では夜行性の魔物の方が圧倒的に多いみたいだ。
ゴブリンやコボルト、デカネズミですらこの森では完全に狩られる側だということが改めて分かった。
この分だと、まだ遭遇していないだけで、成体のラライエワニみたいなすんごいのが昼間に活動する魔物の中にも、まだまだいそうな気がする。
この映像を見て心底思う。
ラライエに来て最初の一週間、結界無しでよく無事でいられたものだ。
危険な状況を危険だと認識できないことの怖さを実感した。
あとは、ピリカが作る結界のチートっぷりが改めて浮き彫りになっていた。
魔物たちは火を焚いて堂々と休んでいる俺とピリカの存在に全く気付くことは無い。
さらに、結界に接触してしまう魔物もいるのにそれでも俺たちに気付くことも無い。
なんか『目に見えない障害物にぶつかったぞ?』……みたいな感じだ。
進路を変更したり、結界をよけて通ったりしていなくなってしまう。
「いままであまり気にしてなかったけどさ。この結界、無敵じゃないの?」
「ほぼ無敵だね! でも完全無敵じゃないないよ」
「どの辺が無敵じゃないのか教えてもらってもいいか?」
「まず、結界の持続時間は最初につぎ込む魔力の量に依存するの。攻撃を受けたりすれば魔力の消費が多くなるからそれだけ早く消えちゃうよ」
「そっか…… でも家の結界は一回も消えたりしてないよな?」
「おうちの結界は沢山魔力使って作ったからね。ピリカの魔力総量の四分の一ぐらい使ったから、何事も無かったら百年は持つと思うよ。半永続魔法だって言ったよね?」
「確かにそんなことを言ってた気がするな」
「昨日の結界はハルトが12時間で良いって言ってたから、12時間ぐらいで消えちゃうよ。攻撃受けたりするともっと短い時間で消えちゃうけどね」
「なるほどな…… それでも十分強力すぎるよな」
「あと、認識阻害は知性の高い相手に触れられたら効果は無くなるからね。殆ど本能だけで生きてるような魔物なら触られても平気だけど」
「……と、いうことは対人結界としては、認識阻害効果に過度の期待はしない方が良いということか」
「そうだね。あと結界に入るところを見られたり、結界の内側から外にいる相手に触れたり攻撃したりしたら知性の無い相手にも見つかっちゃうよ」
「それは結界が失われるということか?」
「障壁としての機能はそのままだけど、結界の存在に気付いてしまった相手に対して認識阻害はもう働かなくなってしまうよ」
「なるほど、気を付けるよ」
家の結界にそんな特性があったとはな。
もっと早く聞いておくべきだった。
しかし、これで密林脱出の道筋が見えてきたかもしれない。
あと何度か結界を使った野営をやってみて、安全性が確認出来たら行動に出るころ合いだろう。
ただ、ちょっと時期が微妙になってしまった。
決行は次の雨期が明けてからだな。
雨期の密林を踏破するのはやはり避けたい。
今が四月の後半だから、あとひと月ちょっとで雨期に入る。
一か月でこの広大なジャングルを抜けられるなんて、おめでたい思考は持っていない。
「ピリカ、次の雨期が明けたら俺はこのジャングルの脱出に挑戦するぞ」
「ん? いいけど、どうして?」
「やっぱり一度はラライエの人間の文明と都市を見ておきたい。今のままじゃ、俺は引きオタ生活と無縁のまま一生が終わってしまう」
「でも、ラライエの人間はあんまりお勧めできないよ?」
「もちろん、ピリカの事は信じているけどな。でも、自分自身で確かめておくことも必要じゃないかって思うんだ」
「むぅ……わかった。ハルトがそう言うならピリカも止めないよ。ピリカも、もう何百年も人間と関わってないから、人間達も変わってるかもしれないもんね」
「すまないな。嫌なこと頼んでさ」
こうして、雨期が明けるまでの期間を使って、出来得る限りの準備を整えることにする。
目指すはジャングルを脱出して人間の都市への到達だ。
そこにはきっと、俺の異世界引きオタライフの足がかりがあるに違いない!
……と、信じたい。
本日の投稿は以上です。
次回、六十七話の投下は明日、4月23日の21:30ぐらいを見込んでいます。
明日は週末……。明日一日、社畜をやれば目覚まし時計をOFFにして眠れる日が来ます。
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