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六十一話 俺なんて地球じゃ、これが生きがいだったからな

 9月20日


 あと半年くらいで、俺の体は歳を取り始める。

ずっと試行錯誤を重ねてきた物質転送の魔法は、予想通りの苦戦の末、ようやく物になった。

結局、わからない部分があまりにも多くて、大部分はピリカが書いてくれた術式の丸写しになってしまった。

なので、そこは完全にブラックボックスだ。


 この俺オリジナルもどきの物質転送魔法、転送元の術式はA4コピー用紙丸一枚を使うが、対の術式は名刺サイズだ。


【プチピリカシールド】等、基本の4魔法と同じ大きさに収められたメリットは大きい。

これで利便性は確保できたと言ってもいいだろう。


 この術式の最大の特徴は転送元の術式一つ一つにシリアル番号を付けることが出来ることだ。

対の術式は一節が空白で書き込まれていないものになっている。

この空欄に対応するシリアル番号を書き込んで発動させると、その番号に対応する術式の上に存在するものを転移させる。

つまり、従来のピリカの転移陣と違って複数の転移陣を仕込んでおいて、対の術式からどの転移陣を発動させるのかを指定できるって寸法だ。


 これで仕込んでさえおけば、家(結界内)にある物なら、なんだってどこにいても手元に引き寄せることができるようになるということだ。


 結論。


 俺は擬似的なアイテムストレージを獲得したと言える。

ついに、どうやっても超えることのできなかった補給の問題を克服したに等しい。


 魔法陣のシリアル管理は脳内PCの表計算ソフトで管理表でも作っておけば、誤転送はほぼほぼ防ぐことができるだろう。

魔法と脳内PCの無敵コンボだ。


 この転送術式、中核部分はピリカの物質転送魔法に依存しているので【ピリカストレージ】とでも名付けよう。


 早速、実テストに掛かろう。

テストなので転送の対象物は何だって良い。

物質転移術なので生物は絶対NGだ。

対象物は科学的に観測可能なもの限定って言い方が正しい気がする。

魂とか魔力(マナ)とかそういうのは転送できない。


 脳内PCの検証(シミュレーション)では失敗はあり得ないはずだが、失敗して壊れたり想定外の変異が発生しても嫌なので、不要そうな物で実験しよう。


 ダイニングに転送元術式シリアル1と2を並べる。

術式1の上にジュースの空き缶を乗せ、術式2の上にスプーンを一個置いた。

リビングでアニメのブルーレイを見ているピリカに声をかける。


「それ見終わったら一緒に来てくれ。ついに俺の転移術式が出来たんだ」


「はーい」


 ピリカが見ているのは、定番のロボットアニメシリーズだ。

画面にはこのシリーズのヒロイン歌姫が自国の指揮官に柔らかい物腰で話しかけている。


「私たちって何と戦っているんでしょうね…… 戦争って難しいわね」




 俺の準備が整ったタイミングでピリカが玄関にやってくる。


「お待たせぇ、地球のアニメもゲームもおもしろいね」


「だろ? 俺なんて地球じゃ、これが生きがいだったからな」


 ピリカと共に結界の外に出かける。

数百メートル密林に踏み入って少し平坦で開けた場所に到着する。


「よし! この辺で良いかな。それじゃ、始めようか」


「きっと大丈夫だよ! ピリカが見た感じでも、術式も問題なさそうだったし」


 ポーチから名刺サイズの術式一枚とバインダー取り出した。

バインダーにパチンと術式のカードを固定する。


 そして術式の空欄にシリアルナンバー1を示す記述をボールペンで書き入れる。

もちろん手を動かしているのは脳内プリンタだ。

きわめて高い精度を要求される術式を人の手で書くのは、一文字だって不可能だ。

描きあがったカードを足元に置く。


「始めるぞ…… 【ピリカストレージ】」


 術式を発動させる。

まぁ、別に術式を発音する必要はないんだけど……。

オタクとしては、非常時でなければ気分に浸りたいときはある。

すぐに術式が起動して、カードは光になって消失する。


 完全に光が収まって、カードが置いてあった場所には、ジュースの空き缶がポツンと立っていた。


「やたっ! 成功だ」


「おめでとう! よかったね」


 ピリカは優しく微笑んで称賛してくれる。


「あぁ、ありがとう。これで補給線確保のめどが立ったよ。」


 念のためもう一枚カードを取り出して、さっきと同じ手順で空欄にシリアルナンバー2を書き入れて発動させる。

次は、地面に使い込まれたスプーンが現れる。


「よし、狙い通りだ。同じ対の術式をシリアル番号で区別して召喚元の術式を指定できる」


「あのね、ハルト。転移術でこんな使い方したの、多分ハルトが初めてだと思うよ」


「そんなはずないだろ? こんなの誰でも思いつくだろ」


「思いついても出来ないんだよ。そもそも人間たちは術式を理解できないからね」


「マジかぁ……」


「まじまじ! 人間たちは既存の術式を模写して使ってるだけだし」


 どうやら【ピリカストレージ】は、俺だけのラライエでのチート能力になり得そうだ。

人間社会にたどり着ければ…… だけど。

 ちょっと少ない目ですいません。きりのよさそうなところで

区切ったらこんな感じになりました。

 次回、六二話は1時間後、4月21日の22:30ぐらいを見込んでいます。


 どうか、ブックマークと評価ポイントよろしくお願いします。

狙ってやっているとはいえ、ここまで登場人物の少ないストーリーを

ここまで追ってくださっている読者には感謝しかないです。

 できましたら、このまま切らずに見ていただければ嬉しいです。

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