六話 それを使うなんてトンデモナイ
想定の斜め上を行く非常事態だ。
まずは、自分以外の生存者を探すことにしよう。
……とはいうものの、無事そうなのは隣と裏手。
あとは、お向かいの家の三軒だけだ。
その向こう側は、途中で切り取られている。
住人が居たとしても、無事かどうかは怪しい。
無事そうな三軒のインターホンを順番に押してみる。
返事はない。
なりふり構っていられる状況ではないな。
自宅の倉庫から脚立とバールを持ち出してくる。
【バールのようなもの】ではない。
まごうことなき【バール】である。
脚立に上り、バールでお隣さん家の窓を破り、手を突っ込んで鍵を開ける。
平時なら犯罪行為だが、そんなことを言っていられない。
成立するのか少し微妙だが、ここの住人と鉢合わせしたときは素直に謝って、緊急避難を主張させてもらおう。
最低限の近所付き合いくらいはあるお隣さんだし、きっと許してくれるだろう。
小学生の姿になってしまった、俺の事が分かってもらえるか分らんけど……。
ガラスを踏まないように中に入り、一応、大声で呼びかけてみる。
「失礼します! お隣の大山です!」
返事はない。
「どなたかいらっしゃいませんか? 非常事態なので窓から入らせてもらいました!」
ここまで静かだと、雑音で聞こえないなんてことはないと思うが……。
懐中電灯の明かりを頼りに、探索を開始する。
……。
……。
……。
結局、三軒とも誰一人いなかった。
このシャボン玉の中で生存? している人間は俺一人だけのようだ。
他の人は地震発生時に避難したのだろうか?
丸二日以上、気絶していたみたいだし……。
懸念材料しかない状況ではあるが、できる範囲で生存環境を整えよう。
申し訳ないが自宅以外の家屋からも、使えるものは使わせてもらおう。
特に電気が止まっているので、生鮮食品と冷凍食品はすぐにダメになる。
生ものから優先して消費するとして……。
常温保存がきかなくて使いきれないものは、勿体ないが穴を掘って埋めてしまう。
このまま腐敗させれば衛生環境が加速的に悪くなる。
倉庫にあるBBQセットと木炭で火を通して、保存可能期間を伸ばすことも考えた。
しかし、このシャボン空間内の空気(特に酸素)が有限である可能性が頭をよぎったのでやめた。
シャボン空間(便宜上そう呼ぶことにした)の外側が真空である可能性を考慮すれば、あまり迂闊なことはできない。
最低限の環境維持は自動で出来ている不思議空間であることを期待する。
とにかく最優先は水・食料だな。
倉庫にポリタンクで非常用飲料水は大量に備蓄してある。
それでも、水は最高レベルに貴重である。
周りの家から調達してきた飲料・食料も全て含め、長期保存可能な水・食料はおよそ半年分くらいだ。
このまま呼吸可能な空気が維持されるという楽観視前提でも、半年以内にこのシャボン空間から脱出する手立てが見つからなければ、俺の生涯は終了することになる。
エネルギーになりそうなものは、お隣の屋根の太陽光パネルに繋がっている蓄電池。
箱買いで備蓄してある乾電池各種。
倉庫にある携行缶八個分のガソリンとかつて仕事で使っていた発発。
(発動発電機の略・ガソリンで動かす発電機。お祭りの屋台なんかで見た人も多いかな。)
いざとなったら車のエンジンとバッテリー。
壊すことを前提にすれば、隣のコインパーキングにある五台と、お向かいさんの車庫にある一台。
計六台の分のバッテリー&燃料タンクのガソリンも計算に入れられそうだ。
もちろん、エンジンは可能な限り使わない方針で行く。
これでも俺はかつての職業柄、電気工事士・陸上無線技士・工事担任者その他もろもろの技術系資格保有者だ。
機械的・建築的な部分は何とかなるだろう。
あとは、一般人から見ると、用途不明な専門的な工具や測定器が未だに倉庫の奥に眠っている。
オシロスコープとかOTDRとかウォールスキャナとか、空撮用のドローンとかね。
医薬品は残念ながら、家庭の置き薬レベルの最低限の物しかない。
だから、病気にかからないように衛生環境の維持も最重要となる。
しかし、風呂には入れそうにない。
風呂のために消費する水と熱エネルギーは勿体なさすぎる。
不本意だが、浴槽に残っている水と最低限のボディーソープで数日おきにチビチビと体を洗うのが精一杯になりそうだ。
トイレタンクに残っている水さえも貴重品なのだから……。
用を足すのも庭に穴を掘って用を足すことになりそうだ。
温水洗浄便座?
それを使うなんてトンデモナイ。
……はぁ。
なんか切ないため息が出た。
ここまでの状況確認したところで、休むことにする。
脳内PCの時計は11月26日のAM5時前だ。
眠気も結構来てる。
シャボン空間内でこのまま眠っても安全なのか怪しい。
だが、すでに二日以上気絶しても何ともなかったのだ。
大丈夫と思いたい。
生鮮食品の中からまだ傷んでいない野菜とヨーグルトをチョイスして、シャボン空間初の食事を摂って空腹を満たした。
その後、二階の自室のベッドに横たわる。
実はもう一つ嫌な予感がしているのだが、それは起きてから確認だ。
かなりの眠気に見舞われていたので、横になってすぐに俺は眠りに落ちて行った。
本日の投稿はここまでです。
七話の投下は明日、4月3日の21:30ぐらいを目標にします。
ちょっとでも妄想垂れ流し駄文に興味持ってくだされば、
下の★マークを一個だけでもポチってブックマークつけてくれたらうれしいです。
あと、大した事書いてませんがTwitterフォローなんかも歓迎です。
なんせコミュ障ですから!
今、フォローしておくと、億に一つ大化けしたとき、
古参フォロワーアピール出来ますよ!
なんてったって今のフォロワー数はゼロ!ですからね!