五十六話 久しぶりに土木工事でもするか
魔王が討ち取られて平穏な日々が訪れて数年の後……。
自らの王を失った魔族たちがその仇を討たんと、ラライエの人類・亜人たちに対して挙兵する。
魔族たちはその数こそ多くは無い。
魔族は個の力において人間はもとより、身体能力では獣人たちを、力ではドワーフを、魔力ではエルフを上回る。
必然的に人類は苦戦を強いられる。
しかしながら、魔族たちは数に勝る人類を押し切ることができず、戦は長期戦となる。
先の見えない戦いが数十世代にもわたり続き、ラライエは人界と魔界を二分して一進一退を繰り返す泥沼の時代へと突入していく。
ラライエ創成記より一部抜粋
8月19日
今日は疲れてほったらかしにしていた、資材の残りと戦利品の整理をすることにしよう。
戦利品は全て金属と宝石なので腐敗の心配はなさげだ。
二千年経っても錆ていないので、おそらく相当錆にも強いのだろう。
余程乱雑な扱いをしない限りは急にダメになったりはしないと思う。
これらの武器本来の性能を引き出すには、手入れが必要な気がする。
だが、武器のメンテナンスについては素人なので、どうしようもない。
とりあえず、剣や宝石なんかの戦利品は全部、お隣の家の中に放り込んでおくことにした。屋内に保管しておけば大丈夫だろう。
お次は、ピリカの勧めで積極的に探していたこのミスリルの板、合計125枚だ。
結局のところ、これで何ができるのか、正直なところ俺自身もよく分かっていない。
「さてさて、ピリカ先生。これだけのミスリルが集まったわけだが、これってどう使うんだ?」
「ハルトは何がしたい? きっといろんなことが出来ると思うよ?」
「要はこれに書いた魔法陣は紙みたいに消失しないから、使い捨てじゃないってことだろ?」
「それだけじゃなくて色々とね……。発動後に消えないことを利用して強気な術式の記述が出来るんだよ」
「それってどういう感じに? なんか利用例とか思いつかないか?」
ピリカはこれの有用性が相当なものであると確信しているみたいだ。
しかし俺には今ひとつピンとこないので、実例を挙げてもらうことにする。
「例えば…… そう! 最近よく使っている【物体転移】の魔法を【空間転移】の特性に変更したり…… とかだね」
「……まじかぁ」
それはすげぇ。
ピリカさん朝一から【1マジかぁ】ゲットだ。
最近よく出てくる【物体転移】と【空間転移】。
同じように見えても現象としてはまるで別物だ。
前者は対象物を指定して地点AからBに転移させる。
その対象物は物質的な組成が確定している物に限られる。
つまり魂とか魔力、電気信号といった物質的に観測できないものはその対象から外れてしまうわけだ。
これが、生物を生きたまま転移できない理由の一つとなる。
後者はA地点とB地点の空間自体をまるっと入れ替えるものだ。
某、変形する戦闘機が出てくるアニメで使われている転移技術に酷似している。
そのため、その空間内にあるものの状態に影響を与えない。
俺が地球から【どこでもない世界】、そしてこのラライエへやってきた際に用いられたものだ。
「ミスリルを使って転移陣の座標を完全固定しちゃえばね。どこからだって確実にその場所に転移できちゃうよ」
「それって、対になる術式も固定が必要なのか?」
「そっちは絶対に必要というわけでもないよ。着地点がラライエの自転・公転状況下であっても見失わないように、物質的にも|魔力≪マナ≫的にもマーキングされていることが大事なの」
ピリカがこの板切れの発見を推すわけだ。
これってオタク的に言えば【ポータル】の魔法だよな?
「つまり、こいつを使えばどこにいても転移可能なマーキングを最大125ヶ所登録できるってことか?」
「それはちょっと無理だよ。空間転移陣は大掛かりだからね。そのミスリル1枚じゃ、小さすぎて術式が描ききれないから」
「……と、いうことは、【ポータル】は理論上出来るってだけで、実現は不可能なのか」
ちょっと期待しすぎたか。
ピリカは一例を挙げただけなのに、過剰に食いついてしまった。
「不可能じゃないよ。それをやるんだったら、縦横5枚ずつ、25枚をきれいに並べてから、そこに術式を書けば出来るよ」
「出来るんかい!」
一か所につき25枚必要ということは……。
ポータルだけに全てのミスリルを費やしたとして、マーキングできるのは5ヶ所……。
他の用途にミスリルを使ってしまえば、ポータルに使える数はさらに少なくなってくるか……。
使いどころが難しくなってきた気がする。
それでもこのミスリル板。
こいつが持つ可能性にぞくぞくしてきた。
凄すぎだろ。
最初の25枚の用途はこの時点で確定だ。
「最初のマーキングは当然ここだ。お願いできるか?」
「もちろんいいよ! やるならこれをしっかりきれいに25枚分、固定しなきゃだよ」
「なら、家の前に取り付けよう。久しぶりに土木工事でもするか」
大学出て新人の頃は、携帯電話の基地局建設工事現場を駆け回ったものだ。
なんか懐かしい。
年齢が40歳を超えたくらいからは設計図面やコストの見積、工程表との闘いばかりになってしまったけど……。
早速、倉庫からメジャーを取り出してきてまずは採寸、墨だし……。
必要な面積のアスファルトをのみとハンマー、鶴嘴で斫って……。
(工程中略)
せっせとミスリル板25枚がぴったり収まる2m四方の窪みを造成する。
最後に屋外タイル接着用セメントを薄く流し込んで、ミスリル板を隙間やずれが出ないようにはめ込んでいく。
「これで接着剤が乾いたら完成だ。どうだ? いけそうか?」
ピリカは地面にはめ込まれた25枚のミスリル板を注意深く確認する。
「うん、これなら大丈夫そうだよ。明日から術式刻んじゃうね。結構手間かかるから十日くらいかかると思うよ」
「そっか、別にゆっくりでいいからな」
次回、五十七話の投下は1時間後、23:30ぐらいを見込んでいます。
ちょっと不味いです。読み甘くてこのペースでは30日までストックが
持ちません。
次の土日で何とか、30日までのストックを工面したいです。
どうか……どうかMPになりうるブックマークと評価ポイントを
お願いいたします。




