五十三話 なんつーパワープレイだよ
家に戻った時にはすっかり日も落ちて、暗くなってしまっていた。
空になったドローンのバッテリーを充電器にセットして翌日に備える。
今日は人間らしき白骨を見つけたけど、いまだに生きた人間に会わないな。
俺がラライエに来て3年半以上が経つ。
家を中心に周囲約4km以上が地図データ化済みで、地理的状況を把握している。
つまり直径9kmぐらい……。
ちょっとした町なら入る面積だ。
にもかかわらず、その地図データは、ほぼ密林で覆われているのみだ。
俺の基本スタンスは、引きオタニートライフこそ至高と思っているから、別に孤独であることを苦痛とは思わない。
ピリカもいるし、そもそも孤独ということは無い。
しかし、実状は引きオタニートライフというにはほど遠い。
家の維持、食料の確保、身体の鍛錬、魔法の修練と研究等々……。
俺自身が異世界で生きていくのに必要と思われる行動に、活動時間の大半が持っていかれているわけだ。
このままだと、俺はこの秘境で死ぬまでオタライフではなく、スローライフもしくはサバイバルライフを送り続ける羽目になりそうだ。
本音を言えばこれは何とか避けたい。
せめて家にあるゲーム・アニメだけはすべて消化してから死にたいものだ。
そのために、まずはラライエの人間社会への接触は必須だ。
ピリカは嫌がりそうな気もするけど……。
まぁ、今時点でそのきっかけすらないわけだが……。
そんなことを考えながら、ワニ肉ステーキとフルーツの夕食にありついている。
ピリカさんはリビングにある大型テレビの前で音ゲーを満喫中だ。
しかもなんか、音楽に合わせてMPを吸い取りそうなヘンな踊りを踊りながら、コントローラを操っている。
それがまた地味に超うまい。
スーパーハードモードにも変わらず【excellent!】の文字が画面中で踊っている。
ピリカの可愛さも相まって、このプレイ動画を地球のネットにアップすれば絶対もの凄い反響を得られるだろうと確信する。
「ほっ、とう! ぐるぐるぅ~とう!」
ピリカの謎ダンスプレイは、地球が平和であれば時代を席巻するに違いない。
ちなみに俺は地球で引きこもっていた時に3ヶ月ほどやり込んでみたが、あまりいいスコアは出なかった。
「ピリカ……凄すぎだろ。せめてゲームの腕くらいはピリカに勝っていたかったよ」
まぁ、良いか。
ピリカがそれで楽しくいられるなら。
「ピリカ、俺はもう寝るぞ。明日は準備が終わったらまた洞窟行くから」
「はーい!了解っと!」
ヘンな踊りで音ゲーをやりながら、ピリカは返事を返してくる。
精霊のピリカは食事も睡眠も必要としない。
ラライエでは、物質界とは違う裏側の世界から常に魔力の供給を受けているので睡眠・食事が不要らしい。
【どこでもない世界】では魔力の供給がままならなくて、定期的に自身の生命力を魔力に変換していたために、休眠を必要としていたそうだ。
しかも【ピリカの世界】を維持するのに莫大な魔力が常時必要で、ジリ貧だったとか。
今は本来ピリカが生きていたラライエに戻ってきたので、全く問題なくコンディションは常時万全とのこと。
ノリノリでゲームを楽しむピリカを残して、俺は二階の寝室に向かい眠りにつく。
8月17日
朝食を済ませると、洞窟探索に必要になりそうな道具を確認する。
人一人が持ち運べる物量というのは限られているので、おのずとアイテムは厳選せざるを得ないのだが、今回は欲張っている。
もちろんピリカの力を当てにしてだ。
鉈やバールなど、洞窟内の瓦礫をバラすのに必要な道具を中心にチョイスするとともに、組み立て式のアルミリヤカーも持ち出している。
一度に洞窟の外まで多くの物を運び出すには欠かせない。
それらを家の前のアスファルトに広げた3m四方のブルーシートの上に並べていく。
細かい工具類やドローン、それらの予備バッテリーを入れると、軽ワゴン車一台分くらいの荷物になってしまった。
絶対一人で運べる物量ではないが問題ない。
「それじゃピリカ、これを洞窟前に転移できるように準備を頼む」
ピリカはにこやかに頷くと、ブルーシートの真下のアスファルトに魔法陣を展開する。
「ハルト、おっけーだよ」
これで、洞窟前に対になる魔法陣を発動させれば、この荷物は洞窟前に現れるという寸法だ。
「ありがとう。それじゃ出発しよう」
俺はピリカと共に昨日の洞窟へと向かった。
洞窟に到着したときにはもう昼前だ。
昨日、子ワニの死骸を埋めるために掘った穴の上がちょうど平坦に切り開かれた感じになっているので、そこに資材を転移してもらう。
地面に家に残してきた魔法陣の対になる魔法陣が描き出されて、ブルーシートとその上に積まれた資材が現れる。
ヤバいほど便利すぎる。
次に洞窟の入口を塞いでいた【ストーンウォール】的な魔法で作り出された岩塊をピリカが蹴り飛ばして撤去する。
なんつーパワープレイだよ。
実際には一瞬だけ、つま先に魔法陣が出ていたので、斥力を発生させるとともに、岩塊の重量軽減を合わせて跳ね飛ばしたのだろうと推測は出来るが、絵的には蹴り飛ばしたようにしか見えなかった。
とりあえず、魔法を発動させた状態の【ピリカキック】を俺が受けたら間違いなく死ぬことだけは分かった。
時間的にはちょうど昼ご飯時になっていたので、昼食に軽くフルーツを食べてから組み立てたリヤカーを引きながら洞窟に踏み入れた。
ピリカがそばにいるときはピリカ自身が光っているので暗闇でも照明いらずで助かる。
逆の言い方をすれば、闇の中ではピリカは自分の存在を周囲に知らせなら行動しているに等しい状態だ。
【どこでもない世界】で俺が三日もの間、ピリカに捕まることなくいられたのも、そのおかげだ。
もし、ピリカが水の体で顕現していたら30分も保たずに捕まっていただろう。
ピリカ自身が無敵であったとしても、夜間の戦闘になった場合はピリカが一緒にいることは圧倒的に不利になる要因になるかも知れない。
対策を考えておいた方が良いかもな。
そんなことを考えながら、リヤカーを引っ張りながら進むことおよそ400m。
洞窟の最深部の空間に到着した。
念のためピリカとドローンにワニの生き残りがいないか軽く確認してもらったが大丈夫そうだ。
まず、着手したいのは白骨の運び出しと埋葬かな。
やはり人間の物だとすれば、瓦礫やごみと一緒に捨てたりしたら呪われたりしそうで怖い。なんせ、ここは異世界だし、地球にもゴースト系の魔物は出現していたからな。
呪い等はは普通に存在していそうだ。
ある程度、人の形が残っている白骨が身に着けているのは、決まった形式の服や鎧なので、おそらく何かの制服的なものだろうとは思う。
そんな白骨をピリカはつまらなさそうに見下ろして言う。
「ね、ハルト、白骨がピカピカじゃないね」
「そうだな、ワニは白骨を磨かないからな」
「地球のピカピカ白骨も見たかったな」
俺もそんなものは見たことが無いけどな。
「ピカピカじゃないんだったらもういいや。ゴミと一緒に捨てちゃおうよ」
「いやいや、そんな死体蹴りみたいなマネしないって。まずはちゃんと埋葬してやろう。呪われたりしたら嫌じゃないないか」
「大丈夫だよ。もうとっくに魂も輪廻のサイクルに流されてるし、穢れの依り代になってアンデット化することも無いよ。こんなのはただのゴミと一緒だよ」
ピリカはそんな身も蓋も無いことを言ってくるが、まぁ、そこは俺の気分の問題だ。
「しかし、この連中はなんでこんな穴倉の奥で死ぬことになったんだろうな。ワニに襲われたわけでもなさそうだしな……っと」
俺はリヤカーに次々と白骨を積み上げながらそんな疑問を口にする。
するとピリカはその疑問に対する答えを持っていた。
次回、五十四話の投下は1時間後、4月18日の23:30頃を見込んでいます。
そろそろ、投稿文字数が15万字を越えてきそうです。
ここまで切らずに見てくださって、ありがとうございます。
それだけでもとても嬉しいのですが、ブックマークと評価ポイント
つけていただければさらに嬉しいです。どうかお願いいたします。




