四十六話 うわぁ、マジかぁ
とても逃げ切れそうにない。
俺は猛ダッシュで来た道を引き返す。
水深が浅くなってくると、泳ぎではなく自分の足で移動しなくてはいけなくなって、若干ワニの移動速度は落ちた。
水深20㎝でも少しは浮力の恩恵があるようで、それでもワニの移動速度は充分速い。
俺は追いつかれる前に、すこし太めの木に手をかけると一気に登る。
襲い来る危機感から火事場の○○力が発動している。
きっとキノヴォリ生涯最速記録を更新したであろう軽快さだ。
某ケモミミ娘アニメのヒロイン顔負けのスピードだったと断言する。
5mほど登ったところで枝に跨り地表というか水面の様子を確認する。
さすがに木には登っては来られないようで、ラライエワニは木の根元でうろついている。
しかしデカい。
洒落になってない。
こいつが俺の事を諦めてくれない限り、地上に下りられそうにない。
10分近く経過したがこのワニさんが俺を諦めてくれそうなそぶりは無い。
木の根元から立ち去る気配は全く無く、じっと俺の様子を伺っている。
「そろそろ諦めて行ってくれないかな。もう俺を食べるのは無理って分かって欲しいな」
「アイツ、多分…… じゃなくて絶対諦めないよ」
ふわふわと浮かんでいたピリカが俺の隣に腰かけて、嫌なことを言ってくる。
「えっ! なんで? もうほかのエサ探しに行った方が、あのワニも効率的だろ?」
「だってアレ、ワニじゃなくてワニの魔物だもん。きっと殺す、食べるしか考えてないし、隣にピリカがいるのに逃げないなんて、デカネズミより頭悪そうだもん」
「うっ、確かに……」
「きっと一週間でも十日でもハルトが降りてくるまであそこで待ってるよ」
「マジかぁ」
ラライエワニの観察を続けていると、ラライエワニに動きがあった。
ラライエワニは自分の尻尾を大きく振り回して木の幹に打ち付けた。
テイルアタックというやつだろう。
ズン! っと、テイルアタックの振動が俺のところまで伝わってきて、一瞬バランスを崩して枝から落ちそうになった。
「うおぅ、あ、危ねぇ! 木をゆすって落としにかかってくるか……。ワニにしては頭使ってくるな」
「結構、力強いね。ずっとあれをされ続けると木が倒れそうだね」
「ああ、むしろそっちが狙いかもな」
ラライエワニは断続的に木にテイルアタックを浴びせ続けている。
「仕方がない…… 倒すか」
俺はポーチから【フルメタルジャケット】を3枚取り出して、ラライエワニの脳天に向けて放つ。
弾丸は狙い通りラライエワニの頭に命中した。
……が、俺の期待した結果にはならなかった。
チュイン! チュイン! チュイン!
……と三度、全く予想もしない音を立てて弾丸がはじき飛ばされた。
「うわぁ、マジかぁ」
本日三度目の「マジかぁ」である。
大体、生物の体表ってさ、たんぱく質・水分・カルシウムとかで出来てるよね?
これは特に丈夫な部位である、角とか爪とか甲羅なんかだって例外じゃないでしょ。
金属製の弾丸が命中して【チュイン!】なんて音が出る要素無いよね?
原理は分からないが、俺の【フルメタルジャケット】が通じないのは確定事実だ。
こうなると俺に打てる手は一つしかない。
「先生、お願いします」
ピリカ先生にあれを排除してもらうしかない。
「はーい!」
ピリカは人差し指をラライエワニに向けて、ピッと【ピリカビーム】を放つ。
無敵チートの必殺ビームだ。
はい、これにて状況終了っと。
チュイン!
「……あ、あれっ?」
【ピリカビーム】が入射角から90度くらい屈折して、明後日の方向にはじき出された。
ピリカも想定外だったみたいでちょっと驚いた様子だ。
「うわぁ、マジかぁ」
ラライエワニすげぇ。
【4マジかぁ】GETだよ。
別に記念商品は無いけどな。
そもそも実体の無い光学攻撃が命中して【チュイン!】とか…… なんなの?
現実問題として、ピリカビームが通用しない相手は初めて見た。
地味にピンチかもしれない。
「すごいね、アイツ。これが通じない魔物ってあんまりいないんだけどね」
ピリカは取り乱したそぶりもなく、いつものゆるふわテンションで感想を口にする。
「えっと、ピリカさん。あのワニは一体どうなってるのかわかる?」
「きっとあれがアイツの生態的な能力だね。多分、体表に高い攻撃耐性と魔力反射特性があるんだよ」
「……ということは、あのワニには並大抵の攻撃は効かないってことか? 戦車砲みたいな圧倒的な物理攻撃手段で倒すしかないと……」
これはきついな。
ブレイクスルーをかけても直接戦闘で勝てる気が全くしない。
「そんなことしなくても、あんなのすぐやっつけるよ。ハルトを食べようとした時点でアイツを生かす理由ないもん! ハルトがアレの観察したそうだったから生かしておいただけだよ」
ピリカビームが通じなくても、どうやらピリカにはラライエワニも楽勝らしい。
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