四十五話 うわ…… マジかぁ
魔王とその配下の魔物の強さは圧倒的であった。
勇者の末裔たちが結集しても尚、その勢いを押し戻すことは難しく、戦局は膠着状態となっていた。
いたずらに兵站を擦り減らしていくばかりで数年が経過し、疲れ・恐怖を知らぬ魔物たちの猛攻の前に、戦線の維持も限界になる。
兵力も食料も武器も決してただではない人間や亜人達は、永遠に戦場に踏みとどまってはいられない。
しかし、最前線の勇者たちが退くわけにはいかない。
彼らが敗れれば魔族以外の人類は滅ぶだけなのだから……。
そんな窮地に立たされた人類に救いの手を差し伸べる者たちがいた。
精霊である。
ただ自由気ままに生きるのみと思われていた精霊たちだったが、大きな力を持つ五人の精霊が仲間の精霊たちを引き連れて勇者たちの前に現れた。
「このまま人族や亜人族が滅亡するのは本意ではありません。魔王を退けるために私たちも力を貸しましょう」
後に精霊王と呼ばれることになる五人の精霊をはじめとする精霊達が戦列に加わることで戦況は大きく動くことになった。
ラライエ創成記より一部抜粋
7月7日。
ラライエに来て三回目の七夕だ。
地球ですらない熱帯のジャングルに七夕は関係ないけどね。
相変わらず雨の頻度が凄まじい。
湿度も高く、火を通していない食料は外気に晒していると、保存がきかずにすぐダメになる。
この時期ばかりはソーラーパネルの電力で冷蔵庫を動かさざるを得ない。
ラライエの果実類はとても濃厚で美味しいが、野菜室に入れておかないと思ったよりも足が速い。
そのため、雨の降らない日は少々足元が悪くても、食料調達に出ざるを得ない。
この時期は次に晴れるのがいつになるのか全く読めないのだから……。
俺は気象予報士でもないし、そもそもラライエには気象衛星なんてものはない。
百科事典や脳内PCのデータで地球の雲の種類なんかを参照して、天気を予測してみたりもしたが、あまり当てにならなかった。
さすがに入道雲がかなり大きく出ていたりとか、小学生でもわかりそうな雨の予兆が出ているときは地球と同じみたいだが、翌日の天気予測もままならない状況では、ライフラインの確保はやれるときにやるしかないのである。
「今日の天気は落ち着いてくれそうだな。食料を調達しに行こう」
「はーい」
数日続いた大雨が上がったばかりで地面のコンディションはかなり悪い。
ゴム長を履いてピリカと共に食料調達に出発する。
結界を出て100mも進むと、足元はぬかるみどころか20㎝ほど水に浸かるほど冠水している状態になっていた。
「今回はかなり降ったからな。水が引くのは何日かかかりそうな感じだな」
「そうだね。でも、おうちまでお水来なくてよかったね」
「ほんとそれな」
家にまで浸水されると防ぐ手立てはない。
これ以上冠水するなら、移動にボートとか必要になりそうだ。
家にはレジャー用のゴムボートが一つあるだけだ。
木の枝先や岩に当たっただけで、簡単に穴が開いてしまうような脆弱なやつなので、ラライエでは使い物にならない気がする。
ここに来て三年間無事だったが、雨期に備えて何らかの冠水対策は必要かもしれない。
そんな話をして進むこと数十分。
こんな状況なので食料になりそうな獲物には全く遭遇していない。
確かこの先は少しだけ開けている場所だったはずだ。
やがて視界が広がるところに出てきたが、ここでピリカに制止される。
「ハルト、止まって! なんかいるよ」
「え? どこに?」
冠水しているせいで、開けた場所が見た感じちょっとした沼みたいになっている。
見た目通り深さもありそうだ。
水面に異常は見当たらなさげだが……。
ピリカが何かいるというのだから、安全な状況ではないのだろう。
なんか嫌な予感がする。
「あそこ! ほら、岩があってその横の水面にいるでしょ」
「うわ…… マジかぁ」
よく見ると50mほど前方の水面に、僅かに目と鼻先が出ていて水中に大きな影を落としている生物がいる。
地球でも動物園なんかでは見かけるが、野生の実物を見るのは初めてだ。
所謂、『ワニ』である。
しかし、さすがはラライエ。
デカさが半端ない。
脳内PCの大きさ測定アプリで計ったら、鼻の頭から尻尾の先まで17mもある。
SFアニメで出てくるリアルロボット並だ。
地球で最大のワニが『イリエワニ』の7m位だったはずだから、そこからさらに10mデカいのか。
とりあえずこいつは『ラライエワニ』と呼称しよう。
「地球じゃあれは『ワニ』って呼ばれているけど、ラライエじゃなんか呼び名はあるのか?」
ピリカに尋ねてみる。
「あ、ほんとだ。おうちの図鑑にあったワニに似てるね。ピリカも人間がアレをなんて呼ぶのか知らないよ。それに、アレ動物じゃなくて魔物だよ」
「そうなのか? やっぱ俺には動物と魔物の見分けが全然つかないな」
「ハルトが見つかったら絶対襲ってくるよ。今のうちに戦うか逃げるか決めた方がいいよ」
そんなのは決まっている。
「逃げよう。水辺であのデカさのワニと戦うなんて自殺行為だ」
見つかったときに備えて、魔法の準備だけは整えつつゆっくりと後ろに下がる。
どうやら無事に撤退できそうだと思ったその時である。
ちょうど俺たちとラライエワニとの中間あたりの水面に、水鳥っぽい鳥が急降下してきた。
バシャバシャと水面を叩く音をさせて、鳥は両足で水面近くにいた魚をつかみ取ると、そのまま飛び去って行く。
これによってラライエワニの視線がこちらに向いてしまう。
俺とワニの視線がばっちり合ってしまう。
「あっ」
「見つかっちゃったね。どうするの?」
ピリカは淡々と状況を俺に告げる。
ラライエワニは当然のようにこちらに向かって移動を開始する。
スーッ殆ど音も立てずに泳いでくる。
しかも驚くほど速い。
これはヤバい。
ついに四十五話……。ストックの半分を溶かしました。
これでストックは折り返しです。
続きはよ!……って思って見てくださる神様のような方がいらっしゃれば
是非ブックマークと評価ポイントつけてください。
私のやる気ゲージ上昇につながります。
次回、四十六話の投下は明日、4月16日の21:30頃を見込んでいます。
よろしくお願いします。




