四十四話 ちょっと怖かった
「ハルト、いたよ。ゴブリンが7匹だね」
ようやく見つかったか。
「ちょっと数が多いけど俺一人でやってみるよ。気付かれてないよな?」
「まだ気づかれてないけど7匹いるからね、このままだとすぐに見つかるよ」
「わかった。すぐ準備する」
【プチピリカシールド】、【ブレイクスルー】を発動させる。
【フルメタルジャケット】と【レント】はすぐに発動できるように腰のポーチに仕込んでおく。
ここまで仕込んだところで、先頭にいたゴブリンが俺に気付いた。
「グギャ」とか「ギャウ」等、理解不能な声を上げて、周囲のゴブリンに俺の存在を知らせる。
ゴブリン達は俺が一人だけなのを見て、数で押し切れると判断したのだろう。
ゆっくりと俺との間合いを詰め始めた。
ピリカはいつでも戦闘に割って入れるように、樹上に身を潜めている。
最後尾にいるぼろい槍を持っている個体が多分リーダーだろう。
それにしてもこんな密林で槍か。
薙ぎ払って使うのは無理だから直線的な突きだけに警戒しておけばよさげかな。
棍棒を持っているのが二匹、錆びたナイフを持っているのが一匹、素手が三匹。
俺はポーチから【フルメタルジャケット】を三枚取り出して発動させる。
狙いは前列の武器を持っている三匹。棍棒とナイフを持っているやつだ。
相対距離は約30m。
【フルメタルジャケット】が最も威力を発揮するベストポジションだ。
エイミングも完璧で外す要素は無い。
空気を切り裂く音を置き去りにして、武器を構える三匹の眉間に弾丸が吸い込まれていく。
ゴブリン三匹は自分の身に何が起きたかも理解できず、苦痛を感じる間もなく崩れ落ちる。
俺は【フルメタルジャケット】発射と同時に次の行動に移っている。
三匹のゴブリンが倒れたことで射線が通ったので、槍を持っている推定リーダーに向けて【レント】を発動させる。
効果があるのか今ひとつわからないが、止まるわけにはいかない。
そのままゴブリン達に向けて猛ダッシュをかける。
訳が分からないうちに武器を持っている三匹が倒れたため、ゴブリン達は混乱している。
所詮は魔物か。
前衛がやられたなら、逃げるにしても迎え撃つにしてもすぐに動かなければな。
棒立ちなんて最悪手でしかない。
すでに俺はゴブリン達を攻撃範囲内に捉えている。
サイをゴブリンの鳩尾に打ち込む。
250kgを超えるデカネズミでさえ転がっていく一撃だ。
俺とほとんど体格の変わらない生身のゴブリンが耐えられる道理が無い。
ゴブリンがライナーで後方の茂みの中に飛んでいく。
生死は確認できないが、この戦闘中に起き上がってくることは無いだろう。
そのまま腰の回転だけで、反対側にいるもう一匹の側頭をサイで打ち払う。
『ゴッ』っと鈍い音と手ごたえがあり、ゴブリンの頭蓋が砕けた感覚が利き腕に伝わってきた。
ゴブリンは真っすぐに飛んでいき、木に頭をぶつけて崩れ落ちる。
どう見ても絶命しているだろう。
俺はすぐに残る二匹の方に意識を切り替えた。
状況を認識した二匹はようやく、俺に攻撃を開始する。
距離的に近い素手のゴブリンが俺を引き裂こうと爪を振るう。
これをサイによる左外受けで払いのける。
僅かに体勢が開いたそのタイミングで、槍を持ったゴブリンが俺に槍を突き入れてくる。
あ、これは躱せないわ、そう思った次の瞬間には槍の穂先が俺の胸板を貫こうと迫ってきている。
しかし、その槍が俺を突き殺すことは無かった。
俺に槍が届く少し手前で、突然現れた水晶の板が完全に槍の刺突を受け止めたからだ。
大丈夫と分かってはいても、やはりドキッとする。【プチピリカシールド】の有用性は実戦でも証明された。
俺は目前の槍をサイで叩き折ると【フルメタルジャケット】を発動させて素手のゴブリンの心臓を至近弾で打ち抜く。
役目を終えた【プチピリカシールド】の水晶板はその場で消失する。
この大きさの水晶が足の上に落下しようものなら骨折するかもしれない。
発動後は消失させる方が安全なので、魔力は余計に消費するが、別位相世界に戻す仕様にした。
そのまま、闇雲に振り回されてくる折れた槍を捌いて、ゴブリンにゼロ距離まで接近する。
【レント】の影響だろうか?反応が一瞬、遅れているように見える。
その隙を見逃さずに抵抗の時間も与えず、二本のサイでゴブリンの首を極めて一気にへし折る。
『ゴキっ』と音がしてゴブリンの首があり得ない方向に曲がる。
サイの束縛からゴブリンを解き放つとそのまま崩れ落ちた。
「ふ~ぅ、ちょっと怖かった。やっぱ魔物ってわかっていても、二足歩行の相手を殺すのは一抹の抵抗がまだあるな。これも平和ボケが染みついている日本人気質なのかもな」
「お疲れ、ハルト。回復いる?」
樹上からピリカがふよふよと降りてくる。
「すまない、頼むよ」
回復魔法で筋肉のダメージが癒えたのを確認してから、格ゲードライバを終了させる。
「今日はこれで終わりにしよう。ピリカのおかげで何とか形になる戦いにはなってきた」
「そう?よかった! ハルトがうれしいならピリカもうれしいよ」
「でも、今まで遭遇してきた魔物ってラライエでも弱い方なんだろ?」
「うん。ザコだね」
「……だろうな。地球にだってもっと凄いのも現れてたもんな」
悲観しても仕方がない。
そもそも俺TUEEEEをやりにラライエに来たわけでは無い。
必要以上の強さを追い求めても仕方がない。
生き延びること、あとは充実したオタクライフを送ることを求めていきたいものだ。
もう日が傾いてきた。
暗くなる前に家に戻りたい。
俺は荷物をまとめてピリカと家路につく。
(道らしい道なんてないけど。)
次回、四十五話の投下は1時間後、23:30ぐらいを見込んでいます。
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これがないと自分は……。




