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四十一話 絶対に地球人が簡単に手にしてはいけない力だ。

 俺は素直にピリカに頭を下げる。

チョロイン状態とはいえ、何のメリットも無いにも関わらず、俺のために魔力タンクになってくれた上に魔法の伝授までしてくれるのだ。

感謝しかない。


 ピリカは嬉しそうに指先に一つの文字を光で描きだす。


 なんだろう? ひらがなの【み】の二画目がないような記号? 文字?

ラライエ第一共通語にも無いな。


「どんな魔法でも最初はこの文字が書き出しなんだよ。世界に対して【これから魔法を使いますよ】って知らせるための文字なの」


「なるほど、例外なく最初の書き出しはこれなんだな」


「うん、まずはこれを正確に書けるようにしようね。術式は精度が少しでも狂うと発動しないから……。大きさは関係ないけど、線の太さや長さの比率、角度は絶対に狂っちゃダメ。100分の1%狂ったら失敗すると思ってね」


「そ、それは厳しいな。手書きじゃ無理じゃないのか?」


「だから普通の人間じゃ無理だよ。腕のいいドワーフの書士職人なんかが既存のスクロールを模写するのが普通らしいからね」


「亜人にはやっぱドワーフもいるのか。やっぱり手先が器用なんだな」


「うん、それじゃ頑張って練習してね」


 これって普通なら無理ゲーだ。

一文字でも100分の1%狂ったらアウトの魔法陣を手作業で描き切るなんて……。

しかし、俺には俺にしかないチートスキルがある。

そう! 脳内PCだ。


 俺はピリカが描き出している文字を画像ファイルとして脳内PCに保存して、文字データ化して登録する。

精度は大事らしいので充分な容量を使う。

そしてペンを握る右腕のコントロールを脳内PCに渡す。


 40年くらい前はプリンタにペンをセットして、紙に直接文字や線を描写するペンプロッターというプリンタが結構あったのだ。

これを俺の体を使って再現する。

俺の腕を擬似的にペンプロッタープリンタ化して文字を書き上げる。

今、俺の手を動かしているのは脳内PCだ。

機械というやつは正確無比な作業を最も得意としている。

取り込んだ文字データをそのままシャープペンシルの文字で正確に再現して見せた。


「ピリカ、どうだ? この精度ならいけるか?」


 ピリカはじっと脳内PCが俺の手を使って書き上げた文字を確認する。


「…… すごいよ、ハルト! 最初の一回で完璧に書けるなんて!」


「うまくいってよかったよ。次はどうすればいいんだ?」


「次はこの文字! 術式の最後は絶対にこの文字で終わらせるの。この二つがわかれば、術式がどこから始まってどこで終わりなのか分かるんだよ」


「確かに…… 呪紋って円形の魔法陣に書かれているもんな。どこからが開始でどこが終了なのかは判断がつかないとだめだよな」


「そうだね、大掛かりな術式はそれだけ大きな魔法円が必要になるよ」


「わかった、それじゃ、この文字も書いてみようかな」


 再び文字をデータ化して、取り込んで魔法文字の2文字目をライブラリに追加する。

こうして、スローライフと魔法文字の学習を交互に行いながら、三週間かけて五百以上の魔法文字をライブラリに収納する作業を行った。


 脳内PCの時計は2月14日。

地球ではバレンタインデーだな。


 命がけでチョコレートを意中の男に渡しに行く女の子が、今の魔物あふれる地球にどれだけいるのだろうか。

異世界にいる俺には関係ないけど……。


 さてさて、ようやく術式記述のルール編に突入だ。

ちょっとワクワクするな。


「魔法はね、四つの決め事を順番に書き込んでエーテルに魔力(マナ)を注入するの。そうすることで、物質と事象に変換して世界の(ことわり)に働きかけて発動するんだよ」


「いきなり難しいな。その四つの決め事というのはどういうものなんだ?」


 ピリカは四つの決め事を一つずつ区切りながら話す


「この魔法陣で何を成したいのかを世界に示す」

「エーテルの用途と量を定める」

魔力(マナ)を使ってエーテルをどのような事象と物質に変換するのかを取り決める」

「その結果を導き出すためのプロセスを実行するって感じかな」


 おいおいおい。


 これってCOBOLに設計思想を置き換えられないか?


 COBOLというのはコンピュータのプログラム言語のひとつだ。

特に帳簿・伝票の処理や在庫管理などの事務処理系に強いのが特徴だ。

きょうびのコンピュータは圧倒的シェアを誇る表計算ソフトとそのマクロ言語が市場を席巻している。

……が、40年以上昔のワークステーションなんかは、結構この言語で組まれたソフトウェアが使われたりしていたものだ。

この言語は四大Divisionと呼ばれる四つの決めごとを記載してソースコードを作る必要があった。

つまり、この魔法術式はCOBOLに似通った考え方で記載できるのではないかということだ。


・IDENTIFICATION DIVISION

この魔法陣で何を成したいのかを世界に示し


・ENVIRONMENT DIVISION

エーテルの用途と量を定めて


・DATA DIVISION

魔力(マナ)を道具にしてエーテルをどのような事象と物質に変換するのかを取り決めて


・PROCEDURE DIVISION

その結果を導き出すためのプロセスを実行する


 実際のCOBOLとは少々違ってくるが、こんな感じだ。

COBOLは事務処理に特化したプログラム言語だが、やりようによってはゲームだって作ろうと思えば作れる。

つまりそれはこの魔法陣だって同じことじゃないのかな。


 やろうと思えばなんだって出来る神の権能……。


 ヤバいなこれは。


 しかもプログラム言語的に考えを組み立てて、魔法陣を構築できるのなら、PCを日常的に使っている地球人は魔法という力の行使を確実にラライエの人々よりうまくやってのけるだろう。


 神の力の一端であるこの魔法という力。

地球人に魔力(マナ)の受容体が無いことは本当に僥倖だ。

絶対に地球人が簡単に手にしてはいけない力だ。


 まぁ、俺はピリカの好意に甘えて使うけどね。

じゃないとラライエでは生きて行けそうにない。


 そんなわけで、俺の魔法への取り組みとスローライフを両立させる生活が始まるのだった。


 次回、四十二話の投下は1時間後、4月14日の23:30頃を見込んでいます。

そろそろ書き溜めているストックも折り返し地点です。

 ストックがある状態でも欠かさずに投稿するのって結構エネルギー使うのに

毎日書きながら投稿している人たちって天才すぎるでしょ……。

自分には絶対無理です。


 どうかブックマークと評価ポイントつけてください。

これからもよろしくお願いします。

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