四十話 だったらこれはチートだよ
帝国が倒れてから、ラライエに平和が訪れて数十世代分の時代が過ぎた。
安寧の日々は前触れもなく破られる。
魔族たちの領域である魔界より、強大な魔物たちを従え、たった一人の魔族が人の領域に進攻を始めたのである。
その者は魔王を名乗り、ただひたすらに殺戮と破壊のみを求める。
ラライエに生きる命に再び危機が訪れた。
魔王の使役する魔物はいずれも災厄扱で、並の兵士や冒険者では抗うことは難しい。
瞬く間に幾万もの命を飲み込み、魔物の領域が広がっていく。
新たに訪れた人類存亡の危機にラライエ中から勇者連盟の系譜である48名が集結する。
魔王と魔王が率いる魔物たちをうち滅ぼすために……。
ラライエ創成記より一部抜粋
1月23日。
ピリカが俺に魔法を使えるかもと言ってから、もうすぐ二ヶ月だ。
自室で脳内PCに撮りためていたアニメを鑑賞していたところに、ピリカが【はなまるの笑顔】で部屋に入ってくる。
「ハルトハルトぉ! お待たせ! これでハルトも魔法を使えるかもだよ」
「マジかぁ」
「まじまじ。だからちょっとお外に出てくれるかな?」
「わかった」
裏庭に出ると、ピリカは魔法陣を展開する。
俺を中心にして足元に魔法陣が広がっていく。
かなり大きいな。
ほぼ裏庭一面に広がっている。
俺の頭上にも足元とほぼ同じ魔法陣が二層に広がっている。
「なんかえらく大掛かりだな、ラライエに来た時の帰還陣程じゃないけど」
「そうだね、ピリカも初めてやってみる魔法だから……。確実性と安全性を重視したらちょっと大きくなっちゃった。燃費もちょっと悪いかな」
「確かに安全性は重視して欲しいな。ところで、これってどういう魔法なんだ?」
「えっとね、ゲームに出てきた魔法戦士のルロイが使っていた技を使うんだよ。ピリカがハルトのMPタンクになってあげる! ピリカの魔力を使ってハルトが魔法を使えばいいんだよ」
「あぁ、そういえばルロイってパーティーメンバーと自分のMPを共有するスキルがあったな。意外と使いどころが無かったけど……」
どうやら俺の格ゲードライバ同様、ゲームから着想を得たようだ。
そんな話をしている間に魔法が完成したようで俺の体が十秒程緑色に光り、やがて消えた。
「どうだ? うまくいってるのか? 体はなんともないけど」
「うん、うまくいってるみたいだよ。ハルトに向けて魔力の繋がりを感じるもん」
「俺は何も感じないけど、うまく行ってるならよかった。……それで、どうやって魔法を使うんだ? なんか呪文を唱えればいいのか?」
「…………」
「あの、ピリカさん?」
「ごめん、考えてなかったよ。ハルトが魔法を使いたいと強く念じたらピリカから魔力の供給が始まるようにはなってるけど…… 困ったね」
ピリカはいつものふわふわスマイルだ。
「俺が魔法を使う手段は呪文を唱えるか、魔法陣を使うかってことだったな」
「呪文はハルトには無理だよ。魂にマナの受容体が無いから、ハルトは声に魔力を込めることができないもん。猫が羽ばたいて空を飛べないのと同じだね。魂の在り様の問題だからどうしようもないよ」
どうやら、地球人に呪文で魔法を行使する素養はないみたいだ。
ロマンあふれる厨二ワードを並べて、圧倒的な魔法をぶっ放す同志たちの夢は異世界でさえ叶わないというのか……。
「そっか。まぁ、俺はラライエにとってはよそ者だから仕方がないな……。じゃぁ、魔法陣を使った呪紋を使う方法か」
「そうなるね」
「ピリカが光で出しているみたいに魔法陣を書く必要があるのか」
「光で描く術式は精霊固有の能力だよ。ピリカ自身をハルトに見えるように光を出しているのと同じ方法なの」
なるほど。
ミノタウロスの怪力とかドラゴンの火炎ブレスなんかと同じか。
魔力を使って発現するという、種族特有のスキルというやつだろう。
「……ということは、光以外の手段で術式を書く必要があるのか。それって俺にも書けるものなのかが問題だな」
「どうだろうね? 人間や亜人にはちょっと難しいと思うけど」
「まぁ、ダメ元でもいいからさ。ちょっと俺にもその術式ってのを教えてもらえることは出来るか?」
「いいよ! ハルトにならなんだって教えちゃう」
ピリカは即答でそう答える。
ひょっとして精霊たちの秘伝とかじゃないのか?
大丈夫なのだろうか。
ピリカに魔法陣の描き方を習い、ピリカの魔力でそれを発動させる。
実際はピリカにおんぶに抱っこの似非魔法使いでしかない。
それでも、自分で魔法を構築して発動できる気分だけは味わえるし、必要な魔法を自分の手元で使える意味は大きい。
それにぶっちゃけ気分だけ魔法使いでも、俺にも魔法を使えるようにと考えてくれたピリカの気持ちがうれしかった。
あと、ピリカの魔力を使わせてもらう以上、これだけは確認しておかないといけない。
「ピリカの魔力の上限ってどんなものなんだ? 俺が魔法使いすぎて、ピリカが休眠状態になったりしたら申し訳ない。どのくらい使っても平気なのかとか、目安があるなら教えてくれないか?」
「そんなことは気にせずにどんどん使って大丈夫だよ。ここはラライエだから精霊が世界の魔力を引き出すのは簡単だし【ピリカの世界】を維持するような莫大な魔力を消費するようなことも無いから」
えっと、それって……。
「そうか、ほぼ無尽蔵なのか」
「さすがに無限じゃないよ。でも人間一人が使う範囲くらいなら余裕だよ!あ、でも国一つ消し飛ばすとかすると魔力が目減りしちゃうかもね」
「ピリカさん、何気にチートじゃないのそれ?」
「チートって何?」
「レベル99が上限のゲームをレベル500のキャラで遊ぶことかな?」
「そっか、だったらこれはチートだよ。ピリカの魔力は少なく見積もっても人間の魔法使い10万人分以上はあるはずだもん」
マジかぁ。
ここに来て異世界チートが来たか。
完全にピリカ依存だけどな。
「それでこのMPタンクの持続時間と有効範囲はどのくらいなんだ?」
「持続時間は気にしなくてもいいよ。実質半永続魔法だからハルトかピリカが死ぬまで持続するよ。有効範囲は大体3kmくらいかな」
「それは凄いな。永続魔法なんてのもあるのか」
「長期間魔法の効果を持続できるだけの魔力を込めるか、供給し続ければいいだけだよ。前者はこのおうちの結界。後者は今、ハルトにかけた魔法かな」
「マジでルロイのスキル【MPタンク】まんまだな」
「うん! これって絶対ラライエ初の試みで、ピリカのオリジナル魔法だよ」
ピリカは満面の笑みで微笑む。
「そのピリカの頑張りを無駄にしないように、俺も魔法をものにしないとな」
「それじゃ、今日からピリカが魔法の術式を教えてあげる!」
すいません。少し修正箇所が多くて投下が遅れました。
次回、四十一話の投下は1時間後、4月14日の22:30ぐらいを見込んでいます。
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