四話 魔物はびこる地球で俺は淡々とオタクライフを送り続ける
日本で次の魔物が出現したのは、それから三日後……。
今度はスライムだった。
現れたのは某有名RPGのような【ピキー】とか言わない、ヤバい方のスライムだ。
もちろん、美少女が捕まっても服だけが溶けたりしない。
むしろ、服と骨以外があっという間にドロドロに溶ける。
スライム関連のSNSの映像は、思い出したくもないほど酷いものだった。
このヤバいスライムは、自衛隊が溶かされた人々もろとも、グレネードで焼き払ったらしい。
この数日で分かったことがある。
どうやら、地球規模で魔物が無作為に出現し続けているということである。
今のところ、出現箇所の予測は不可能。
出てくる魔物の種類も予想不可能。
一度の出現で複数同時には現れない。
必ず一体だけの出現である。
頻繁に出現するゴブリンやコボルトのような、比較的対応しやすいやつ。
まれに現れる地竜やベヒモスのような、戦車砲やロケット砲でも使わないと倒せないようなやつ。
果ては、ウィスプやワイト的な実体があるのかさえ謎で、手の施しようのないゴースト系みたいなのも出るようだ。
これら実体のないのは、タチが悪い。
数日にわたり散々殺戮を行った末、煙のように消えるようである。
銃弾も刃物も通じないので無敵である。
もう何でもありだ。
数週間もすれば、日本でも毎日のように、どこかの町で魔物が出現するようになっていった。
最初に出現したミノタウロスの時はものすごい扱いだったが……。
もうね、犠牲者数と情報量が追い付かなくなってきている。
報道もテロップがテレビ画面の上の方に出て、どこで魔物が出て何人死んだみたいな、淡々としたものになっていった。
国内の魔物による犠牲者は一か月で四万人を超えた。
過去に起こった大震災犠牲者の数を軽く超えてしまっている。
「こりゃ、もうどうしようもないな」
どんな状況になろうとも、俺の身の振り方は最初から決まっている。
「最期の時が来るまで俺はオタクライフを満喫するのみだ」
俺はひたすら引きこもり人生を送る。
そのための手を打っておいた方がよさそうだ。
翌日、俺の貯蓄の半分を切り崩した。
その資金で二週間かけ、庭の倉庫に水や食料を備蓄して常に満載しておくようにした。
考えることは皆同じのようで、日本中で買い占めが発生していた。
そのせいで、備蓄を揃えるのは結構大変だった。
かつて仕事で使っていた工具や機器等もしっかりと手入れをして、いつでも使える状態にしておく。
どこにいても危険なのだから、ここは思い切って動くべきところだろう。
何だか、我が家の倉庫がサバイバル拠点のようになってしまった。
魔物はびこる地球で俺は、淡々とオタクライフを送り続ける。
すべてはそのための備えだ。
最初の魔物が現れて四年が経過した。
俺も五十四歳になり、どちらかというとジジイ圏内に突入した。
世界の状況は悪化の一途だ。
だが、俺はまだ生きて引きこもりオタクライフを送っている。
世界中のほとんどの国々が、もはや国家としての機能を維持できなくなってきている。
もちろん日本も例外ではない。
海外の情報は、あまり入らなくなってきているので分からない。
国内だけでも、魔物被害の死者は年間五十万人を超える。
魔物が現れる以前のデータでは、この国の年間出生者数は大体、百万人弱で死亡者数が百二十万人弱ぐらいだ。
何もなくても減少傾向なのだが、これに年間五十万人の魔物被害者が上乗せされる。
一年で小さめの政令指定都市一つ分の命が、余分に魔物に奪われ続けている計算だ。
いつどこに魔物が現れるのか…… 誰にもわからない。
いつ死ぬことになるのかも…… 誰にも分からない。
極論を言えば、ホームレスと総理大臣の間にさえ、等しく魔物による死のリスクがあるとさえいえる。
国も保険会社も魔物によって命を落としても、一切保証してくれなくなった。
どこの大企業も魔物に殺されても労災扱いしてくれない。
戸締りをしっかりして家で寝ていても、会社で仕事していても死ぬときは死ぬ。
警察も自衛隊も魔物の対応で精いっぱいで治安維持も困難。
しかも、きわめて高い殉職率を誇る最もなりたくない職業のトップになってしまった。
電気・水道・通信などのインフラが止まってしまっている地域も出始めている。
そもそも、これらの維持は多くの人手・資材・技術の上に成り立っている。
誰かが設備を動かし続けないと、たやすく止まるのがライフラインだ。
ありがたいことに、俺の家はまだすべてのインフラが生きている。
命の危険を顧みず出勤し、社会を回す努力をしている人には頭が下がる。
俺にはもう無理だから……。
もはやこの国の社会は崩壊秒読みだ。
海外では事実上、滅亡状態の国も出ているとのニュースもあった。
どこかの国家元首がトチ狂って、道連れに核の発射ボタンを押したりしていないことが凄いと思ったりもする。
情勢はいよいよ魔物に殺されるのが先か、この国が滅亡してオタクライフを続けられなくなるのが先か、そんな様相を見せ始めている。
そんな五十四歳の秋の終わり。
11月23日。
祝日の昼下がり。
このどちらでもない形で、地球での俺のオタクライフは終わった。
少ない目ですいません。きりのいい所で分割が下手なだけです。
五話の投下は1時間後の4月2日22:30頃の予定です。