三十九話 滅亡したいとしか思えないよ!
次は、ラライエの人間たちについて聞いてみることにする。
「ラライエの冒険者が魔物と対等以上に戦えるのは、やはり魔力のおかげか?」
「そうだね。ピリカたち精霊が魔法を使うときは、こうやって光や火を使って術式を組んで、そこに魔力を通すことで魔法を発現させるけど……。人間や亜人は声に魔力を込めることで、魔法を発現させるのが殆どだね」
ピリカは指先に【ピリカビーム】と同じような、光の魔法陣を作って見せる。
そこから光球を発現させ、説明してくれる。
「おおぅ、声に込めるか…… それって【呪文】ってやつだな?」
「うん、ハルトが持ってるゲームにもたくさん出てくるやつだよ。人間も術式組んで、魔法を発現させることはできるけど……。術式の構築はとても繊細だから……。ものすごく正確に書かないと、魔法が発現しないんだよ。とっさに正確緻密な術式を書くなんてできないから、声に術式を込める方法が生まれたんだと思うよ」
「なるほどな。でも時間がないなら、事前に紙にでも書いておけば良いんじゃないのか?」
「そういう手段で魔法を使う魔法使いもいるよ。人間たちはそういう魔法使いは【呪紋使い】って呼んでるね」
「やっぱりいるんだな。俺如きが考え付きそうなことなら、すでに実践する奴は出てくるよな」
「でもね、ラライエじゃ術式は基本使い捨てなの。一度魔力を通した術式は消失しちゃうから。それが、ラライエに定められている【摂理】だからね。例外はミスリルなんかの魔力に親和性の高い金属に書かれた術式だけだよ」
「となると、この方法で頻繁に魔法を使ってやろうと思えば、大量の魔法陣が書かれた紙が必要になるのか」
「人間や亜人は術式に対する理解がないし、それに術式の精度って0.1ミリ単位の正確な記述を要求されるものなの。でもね、この精度の術式を記述できる人間は殆どいないよ。だから術式の書かれた巻物は物凄く高価だって昔、聞いたことがあるよ」
ピリカがお気軽に使っているように見えた魔法が、それ程の高度技術だったとはな。
誤差0.1ミリ以下の精度を維持しながら、手作業で魔法陣を書くのは確かに職人技……ってあれ?
これってひょっとして、俺にもできそうな気が……。
しかし、魔法陣が書けても、MPゼロの俺が魔法を使う目は無いか……。
今は考えないでおこう。
12月3日。
ラライエに来て一年と七か月が経った。
相変わらずの、ジャングルのスローライフ生活だ。
そんな俺がここ最近、取り組んでいるのは周辺地図の作成だ。
ドローンで空撮を行い、その結果をもとに地形を確認する。
そして、脳内PCに地図データを落とし込んでいく。
今日も狩りの合間に空撮を行う。
「ピリカ、今日もよろしく頼むよ」
「はーい」
俺がドローンにコマンドを送信すると、垂直上昇を始める。
ピリカが少し遅れて、ドローンを追いかけて上昇する。
俺がピリカに頼んでいたのはドローンの護衛だ。
もちろん、ラライエにドローンなんてものは無い。
貴重な七機しかないドローンだ。
空を飛ぶ魔物に襲われて壊されても補充は利かない。
実際、今までに二回、鳥に襲われかけた。
襲ってきた鳥は二回とも【ピリカビーム】の餌食となった後、その日の食卓に載ることになった。
最初の空撮時に映っていたデカい鳥。
俺がガルーダと呼ぶことにしたアレにはまだ遭遇していない。
ゲーム機に動画ファイルを転送。
映像をテレビ画面に映して、ピリカに見せたことがある。
それを見たピリカは遠い目をしてこう言った。
「あ、これね。これにはあんまり関わらない方が良いかな」
俺も激しく同意だ。
一生遭遇したくない。
大きさ的に、腹の足しにもならないドローンを襲うとは思えないが、警戒はしておきたい。
ついでに地球に現れた魔物たちの動画も見てもらったが、やはり、ラライエにいる魔物たちで間違いなさそうだった。
やっぱりな。
ラライエと地球に一体どんなつながりがあるのだろうか?
数日後の朝、相も変わらずピリカはゲームに熱中している。
俺も十数年前にやり込んだやつだ。
ちょうど後半の見せ場のイベントだ。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「馬鹿を言うな! ルロイ一人でこれだけの魔物を防ぐなんて無茶だ! ここは皆で……」
「このままじゃ、巫女姫が生贄になって大魔王が復活してしまうだろうが!」
「しかし……」
「世界中の人間の命が掛かっているんだぞ! 行け! 俺もすぐに追いかける。こんな雑魚共、何千何万いても物の数じゃねえよ」
「すまん! 待っているからな! 必ず来いよ!」
画面の中の勇者パーティーは、魔法戦士ルロイを残して奥へと進む。
きょうびのRPGではベタすぎるイベントだが、RPG初心者のピリカにはかなり刺さっているようだ。
「あうぅ、ハルトぉ…… ルロイ、バカじゃないの? 絶対死ぬに決まってるよ」
「まぁ、そうだな」
せっかくガッツリ楽しんでいるのに、ネタバレをするのもなんだしな。
返答に困るな。
「大体、この世界の王様もどうかしてるよ。世界の命運をかけた戦いをたった五人に丸投げなんて……。 滅亡したいとしか思えないよ! ラライエの勇者とは違う意味で狂ってるよ!」
えぇ?
ラライエの勇者は狂ってるのか?
ピリカさん、たまに聞き捨てならない爆弾発言するよな……
ピリカはRPGのストーリーに入り込んでいる。
プリプリしながら魔法戦士のルロイが抜けたパーティーを大魔王城に突入させている。
「そうだ!ハルト!」
突然、うれしそうにピリカが声を張り上げる
一体どうしたんだ?
「もしかしたら、ハルトも魔法を使えるようになるかもしれないよ?」
「マジで? どうやって?」
「まだ試してみないと分からないけど、ちょっと色々準備があるからもう少し待ってね。うまくできそうだったら、知らせるから」
「そうか、もし俺も魔法が使えるのならすごくうれしい。期待してるよ」
「うん!」
ピリカはにかっと笑って、その後、真剣な表情でゲームを再開する。
よくわからないが、俺が魔法を使えるようになるための考えがあるのだろう。
だが、俺にやれることは無さそうな感じだ。
ピリカが次の話を持ってくるのを、気長に待つしかなさそうだな。
本日の投稿は以上です。都市伝説の十万字ブーストというやつはあるのでしょうか?
あったらいいな……。(どうやら無いらしいというのが今の定説らしいですが……)
まぁ、出来る事からコツコツと積んでいくのみです。
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