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三十六話 いやぁ、脳のリミッター大事だわ

 帝国に翻された反旗は大きなうねりとなり、帝国を押し戻す。

帝国軍を反抗勢力の主力が押しとどめる。

その間に、反抗勢力選りすぐりの精鋭五百が暴君ディランに挑む。

ディランの超越した力の前に、次々と戦士たちの屍が積みあがっていく。

しかし、彼らの命を捨てた戦いは少しずつ、ディランの余力を削り取っていく。


 自らの足で立っている戦士たちの数が十分の一になろうとしたとき、遂にディランの膝が地に付く。

この場に乗り込んだ五百の戦士たちの中でも最強と謳われていた一人の戦士が、その隙を逃すことなく槍を突き出し、ディランの心臓を貫いた。

暴君ディランを打ち取った時……

五百人いた精鋭で生き残っていたのはわずか48人。

人々はディランの心臓を貫いて戦いに終止符を打った戦士を【勇者】と称えた。

 

 しかし、その戦士【リデル】は告げる。


「私だけが勇者ではない。この戦いに身を投じた者すべてが勇者だ。そして、真に称えるべきは命尽きるまで戦い抜いたここに居ない英雄たちである! 倒れた仲間たちに勝利を報告できることを誇れ! 我ら全員が【勇者】だ!」


 帝国が倒れた後、王位に就くことを請われたリデルであったが、それを固辞して元の冒険者へと戻っていく。

リデルと共に戦った精鋭の47人もまた、本来の立場に戻りラライエ各地へと散っていく。

彼らは別れの際、揃いの太陽をかたどった紋章をあつらえて誓いを立てる。


【ラライエに危機が訪れれば、いついかなる時も国・種族・出自の垣根を超え、力を結集して共に戦わん】


 太陽の紋章を持つ48人の勇者達……


これこそが後の【勇者連盟】の始まりである。



          ラライエ創成記より一部抜粋





 ピリカとのラライエでのスローライフも、あれよあれよと半年が経過しそうだ。


 11月1日。


 あと約一か月でピリカに出会って一年か。


 睡眠・食事を必要としないピリカは俺が夜眠ると、リビングの大型液晶テレビでゲームを遊んだり、アニメを観たりするようになっていた。


 ピリカは異世界である地球の知識を、なんか偏った形で収集している気もするが、好きにさせている。

朝、目覚めてリビングに降りてみると、ファンタジー系のRPGをプレイしていた。

キャラのステータスや装備を見た感じだと結構やり込んでいる。


「おはよう、ハルト。今日も狩りに行くの?」


「いや、今日はちょっと試してみたいことがあるんだ。狩りは休みにしよう」


 俺はそのままG管(鉄パイプ)を持って裏庭に出る。


 今日はちょっと思いついたとある実験を実施しようと思う。

うまくいけば、俺の戦闘力は大きく向上する…… かもしれない。


 準備運動の後、棒術の演舞で体を動かす。

本来使っていた樫で出来た棒術用の棒は、ラライエに来てすぐデカネズミと戦った際に折れてしまった。

今は大きさ、重さ共に近い感覚のこのG管を使っている。


 体が温まってきたので、G管を置いていよいよ実験開始だ。


 この半年で分かったのは、俺の戦闘能力はこのラライエのどこともわからないジャングルでは最弱ランクだ。

食物連鎖最底辺の被捕食者カテゴリーだと言える。


 コボルトやゴブリンくらいなら、一対一でも何とかなるが、二匹になるとかなり厳しい。

デカネズミや熊・トラなどの肉食獣系の魔物が相手だと、万に一つも勝ち目は無い。


 俺がここで生きていられるのは、戦闘や狩り・飲料水の供給をピリカに依存しているからだ。

このままだといつか、強大な魔物に急襲されて一瞬で死ぬことになりかねない。

暇を見つけて拳法の鍛錬も行っているが、ラライエの冒険者ならまず負けないというデカネズミにすら一生敵いそうにない。


 この絶望的な戦闘力格差を少しでも埋めるために思いついたのが、テレビゲームの格闘ゲーム、所謂【格ゲー】からの着想だ。


 人間の反応速度はどうしても0.1秒程度のタイムラグがある。

もちろん出せる力にも限界がある。

某有名アニメや漫画にある【人間の脳は20%しか使われていない。だが、俺の暗殺拳は残りの80%を使うことができる】とかいうアレだ。


 俺のチートである脳内PCを使って、この人間の限界を超えてみようという試みだ。

脳内PCに身体制御を丸投げして、脳内ゲームコントローラで自分自身を格ゲーのように操作して戦闘力底上げの可能性を模索してみることにしたわけだ。


 拳法の型や捌きをモーションパターン化して、脳内PCに最高のパフォーマンスとフォームで実践させる。

 俺の知覚反応を超えてくる速度の攻撃を脳内PCが先に感知できた場合は、オートで回避または捌きを試みるように設定する。

そして、能動的に使う技や動きは、ゲームコントローラで俺が操作して判断を下す。

 要は、自分自身の肉体で格ゲーをやろうという寸法だ。


 脳内PCに俺自身の肉体を外部機器と認識させることができることは【どこでもない世界】で検証しているときに分かっている。

 なので、戦闘用の肉体制御ドライバを作り、インストールしてゲームコントローラで操作できるようにすればやれるはずである。


「じゃぁ、始めてみようかな……。格ゲードライバ、起動!」


 全身にぞわっと悪寒に似た何かが数秒走って、テレビゲームをプレイしているような感覚だけが残る。

全周囲ゲーム画面のバーチャル空間にゲームコントローラを握って立っているというか、そんな認識だ。


「とりあえず中パンチをポチっとな」


 試しにパンチボタンに設定したボタンを押してみた。(脳内コントローラだが。)

即座に俺の体が古流拳法の中段突きを超反応で繰り出す。


【ゴキっ】とか【ブチブチ】とかなんか嫌な音を伴って……。


 突きを放つと同時に、耐えがたい激痛が肩関節から先の俺の利き腕に襲い掛かる。

どう考えても相当不味いことになったのは分かる。

すぐに格ゲードライバを強制停止して、肉体の制御を自分の脳に戻す。


「ぐああぁっ! い、痛てぇ!」


 あまりにもの痛みに、裏庭の芝の上で転げまわってしまった。


 驚いたピリカがゲームを中断して、俺のところに駆けつけてくる。


「ハルト、どうしたの?」


「すまん、ピリカ。ちょっとやらかしてしまった。右手の肩と肘の関節を脱臼した。あと、多分あちこち腕の靭帯が切れてる。何とかならないか?」


 激痛にのたうちながら、ピリカに俺の状態を伝える。


「何とかなるよ! すぐに治すからね」


 ピリカが例の治癒術的な魔法を俺にかける。

程なく痛みは治まり、腕も元通り動くようになった。


「ふぅ、ありがとう。いやぁ、脳のリミッター大事だわ……。北の暗殺拳の継承者は無茶しすぎだ。潜在能力を全部開放しちゃダメだって、身をもって認識したよ」


 ちょっとジト目でピリカが俺の方を見ている。


「なにか、ヘンなことやったの? ダメだよ、このくらいなら治癒術式で完治できるけど……。首とか折れたりしたら、死んじゃうかもしれないから」


 ピリカがさっきまで外れていた俺の右肩をさすりながら、そんなことを言っている。


「ああ、すまない。もっと負担の少ないところから、少しずつ調整するべきだった」


 少々迂闊だった。

まずは、いつものトレーニングレベルのところから始めよう。

俺の肉体が耐えられる限界少し手前の負荷設定を探りながら、モーションを組む必要があるな。

脳内PCは俺と一体化しているとはいえ、所詮は機械だ。

定められたタスクを体が壊れようが容赦なく実行してくる。


 そこを考慮して、PCのプログラム自体にリミットを設けないとだめだな。

さらに俺自身もさぼらず鍛錬して、肉体を仕上げて限界値を都度アップデートする必要がある。


 結局、この方法では多少は戦闘力の向上が期待できるものの、爆発的な強さは獲得できそうにない。

いいところ、能力的には1.3倍増えれば万々歳くらいだとあたりを付けた。


 今まで、30の力を持つデカネズミに10の力で挑んでいたのが、13の力で挑めるようになったくらいか……。

やらないよりはマシだが、このジャングルで生き抜くには全然足りないな。


その後、ピリカとのスローライフを送りながら、格ゲードライバを慎重に時間をかけて調整していった。

結局、格ゲードライバが実戦で使い物になる形に仕上がるまでに、五ヶ月もかかってしまった。


 大急ぎの30分で原稿確認して次を投下するのは中々にハードでした。

本日の投稿はここまでです。

 三十七話の投下は明日、4月13日の21:30ぐらいを見込んでいます。

ちょっと、自分の置かれている状況が可視化できることがあって少しすっきりしました。

計画通り、ストックが溶けるまではこのペースで投下を続けます。

あとは、あまりがっつかずに自分のペースで原稿を済めさせてもらいますね。

 ……とはいえ、こんな駄文でも見てくれる人がいるのは心の支えであることに

変わりはございません。

 ブックマーク評価ポイント何卒宜しくお願い致します。

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