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三十五話 ここは俺に任せてくれないか?

 姿を見せたその生き物……。

大きさは、小学生相当の俺と大差がない。

二足歩行でボロボロの服を着ている。

ただし、頭が犬のそれだ。

近年では、地球でもよく見かけるコボルトと呼ばれる魔物だ。

武装はしていないがその爪は長く鋭い。

血走った眼を釣り上げ牙をむき出し、うなり声をあげてこちらを威嚇している。

初めて遭遇していれば十分驚いたのだろうが、絶対にデカネズミの方が危険だろう。


 ピリカは光の無いゴミを見るような目で、コボルトに向かって人差し指を向ける。

昨日、デカネズミを瞬殺した【ピリカビーム】の体勢に入っている。

俺はピリカを制して、サイを抜いて構える。


「ピリカ待ってくれ。ここは俺に任せてくれないか?」


「ハルト、危ないよ? ピリカがすぐにやっつけるから」


「まぁ、本当にヤバい時は頼むよ。俺の力がラライエでどの程度まで通用するのか確かめておきたい」


「ハルトがそう言うなら……」


 ピリカはコボルトに向けていた指を下ろし、後ろに下がる。

俺は調息で呼吸を整えながら、コボルトの動きに注意を払う。

魔物の身体能力はデカネズミの時に体験済みだ。


 絶対に油断できない。


 小学生の時のいじめっ子とは違い、こいつは人間ではない。

問答無用で襲ってくる以上、決して相容れない存在だ。

もはや俺も中身は子供ではないし、こいつを殺すことに欠片ほどの罪悪感もない。


 ピンチになったらピリカが割って入ってくれるだろうから、死のリスクは少ないだろう。

だが、一撃で喉笛を食い破られたり、切り裂かれたりしたらさすがに死ぬだろう。

どんな些細な兆候も見逃さないよう、コボルトの挙動を注視する。


「ギャウッ!」


 コボルトが爪を振り上げて突進してきた。

大丈夫だ…… 見えている。


 左手の手首から肘に向けて握り込んでいるサイで、コボルトの初撃を捌く。

同時に、渾身の右中段突きをコボルトの鳩尾に叩き込む。


「グウェ!」


 確実に内臓が破裂したと確信できる嫌な手応えが、サイを通して伝わってくる。

だが俺は攻撃の手を緩めない。


 激痛で蹲っているコボルトの首めがけて、サイを打ち下ろす。

コボルトの首が折れて、コボルトは息絶えた。


「ふうぅ」


 大きく息を吐きだして、俺は緊張状態を解く。


「ハルトやったね!」


 ピリカは素直に俺の勝利を喜んでいる。


「ああ、何とかなったけど実際問題、今の俺ではコボルト一匹がやっとだ。二匹いたら勝ち目は無いし、相手が一匹でも奇襲を受けたら普通に死ぬな…… これは」


 端から見れば瞬殺に見えたかもだが、コボルトの瞬発力自体は古流拳法有段者の俺と大差はない。

つまり、それ程余裕があったわけでは無い。

こちらは、武装していたからあっさり倒せたが、素手だったら同じ結果になったかは分からない。


「こりゃあれだな。ピリカに助けてもらわないと、俺はこの森で長く生きられないな」


「大丈夫! ずっとピリカがハルトを護るから!」


「よろしくたのむよ」


 とりあえず、コボルトの死体はこのまま捨てていこう。

デカネズミ同様、別の魔物が食い散らかしに来るだろう。

とんでもないのが来る前に、引き上げた方がよさそうだ。


 今日の探索はこれで終わりにする。

無理に進むと、帰りになんか凄いのがお食事中の場面に鉢合わせしそうな気がしてきた。


 そんなことを考えながら上を見上げると、頭上を1mくらいの鳥が飛んでいるのが見えた。

あんな感じの鳥が狙って取れればいいのだけれど……。


「ピリカ、あの鳥、落とせないか?」


 ダメ元で言ってみた。


 ピリカは指先を鳥の方に向けて、ピッと光線を放つ。

それだけでポトリと鳥が落ちた。

すげぇ、【ピリカビーム】。

散弾銃でも一羽だけ単独で飛んでいる鳥を落とせるのかは結構微妙だろう。


 落下地点はそれほど遠くない。


 他の魔物や動物に横取りされる前に、鳥の回収に向かう。

10mほどジャングルを踏み込んだところに、鳥が落ちていた。

なんか、デカい雉のような鳥が横たわっている。


 それを回収して今日の探索は終了にする。

結界内に戻って、すぐに俺は脳内PCのジビエ解体資料を参照しながら、鳥を捌いてみる。

異世界の鳥なのでこれで正しいのかわからないが、それっぽく捌けた気がする。


 デカネズミの時と同じ要領で、バーベキューセットを使って焼いてみる。


 今度はどうだろうか?


 匂いはデカネズミよりはいい感じだ。

しっかり火が通ったのを確認して一口齧ってみる。


 ……うまい。


 所詮は素人の調理なので絶品とまではいかないが、十分食用になる。


「これはうまい。ピリカ、この鳥はラライエにはたくさんいるのか?」


「うん、結構見かけるよ」


「そうか、次もこれを見かけたら頼めるか? 貴重なタンパク源になりそうだ」


「この鳥はハルトのご飯に出来るの?」


「ああ、これが安定的に獲れれば飢え死にだけは回避できる」


「やったー! じゃぁ、これからもこれを捕まえようね!」


「はは、鳥ばっかりじゃ飽きてくるから明日もいろいろ探してみよう」


 当面はピリカに依存しつつ、スローライフの基礎を構築していくしかないようだ。



 日が変わって仕切り直しで探索を行う。

結果としては、ピリカ復活の効果は絶大だった。


 とにかく【ピリカビーム】がチートだ。


 今日一日で熊や虎のような魔物に複数回出くわしたが、すべて【ピリカビーム】一発で決着がつく。


 あと、黄色い果実だが食べても大丈夫そうだ。

脳内PCの資料では、黄色い実は食べると危険な種類も結構あるらしいので、ちょっと心配したが、これは大丈夫だった。


 何だかプリンスメロンのような甘みのある不思議な味わいで、デカいカブトムシが食べるのも納得だ。

なのでこれも追加で回収しておく。

カブトムシに恨まれたくないので、上の方の実は残しておくことにする。

登るのも大変だし……。


 木の実、小動物の肉、果実……。


 ピリカの助けがあれば、当面は生きていけそうな気がする。

 すいません!少し用事が出来てしまって投下が遅れてしまいました。

次回、三十六話の投下は30分後、4月12日、23:30ぐらいを見込んでいます。

 よろしくお願いいたします。

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