三十四話 魔物なんてこんなものだよ
「まぁ、よそ者の俺が気にしても、仕方がないことか。ラライエの環境問題よりも、明日の俺の命だ。ピリカ、すまないが他のタンクにも水を頼む」
「はーい!」
ピリカは次々とタンクに水を満たしていく。
そんなピリカを見て、俺は一つの疑問をピリカにぶつけてみる。
「ラライエじゃ、人間はみんな魔法を使うのか?」
「人間だけじゃないよ。魔物も木も草も、お魚だってラライエの命はみんな魔力の恩恵を受けているよ」
「マジかぁ……」
俺は何だか気が滅入ってきた。
下手したら、俺はラライエで最弱の生命体かもしれない。
「魔法という形で魔力を使うのは、人間とか亜人・魔族なんかの知性ある者達だね。魔物や動物なんかは、身体能力が高かったり、ブレスを吐いたりとか……。生来の能力という形で魔力の恩恵を受けているんだよ」
「ラライエ、もう何でもありだな」
「これがラライエの摂理なの。ラライエを作った神がそういう世界にしたから……。魔力はね、エーテルと並んで世界を創生し得るほどの【神の力】の一端なんだよ」
それはそうだろうな。
地球でも、魔物の超絶能力にやられっぱなしだもんな。
「神の力である魔力に干渉し得る可能性を【冒険とロマンのある熱い世界を生きるもの全てに!】…… なんて言って、ラライエの神は全ての命に与えたの。バカとしか言いようがないよ」
自分の世界の神様をバカ呼ばわりして、ピリカはプリプリと頬を膨らませている。
なんか可愛いと思ってしまった。
「ハルトのおうちにある本や写真で見たけど、地球の神は有能で立派だよ。そこに生きる命に魔法を使わせることなく、健全に世界を廻しているもん」
「そこに住んでいた者としては、そんなに健全だったのかは甚だ疑問だけどな。自分たちの生きる環境を汚し続けていると知りながら、それでも止まることもできないような種が、果たして健全と言えるのか…… とは思うよ」
「そっか…… 地球は地球で難しいんだね」
ピリカは少し寂しそうに言った。
「そういえば、ピリカ。今更だけど色…… プラチナ色になってるな。きれいだからいいけど」
「えへへ、そう? うれしいな。ラライエに戻ってきたからね! 完全回復だよ」
「青紫が完全回復じゃなかったのか?」
「【ピリカの世界】を維持するのに、力の殆どを使っていたからね。あそこではあれで完全回復だったの。魔法も一切使えないくらいだったから……」
「確かに【ピリカの世界】を壊さないと、帰還陣を使えないとか言ってたな」
「神様でもないのに世界を創成するなんて、普通は出来ないよ。神々が全く手を付けていない【どこでもない世界】だったから何とかなったけど……。それでも、あの大きさがピリカの精一杯だったの」
「そんなに力を使っていたのか?」
「ピリカの力の99.9997%をピリカの世界の維持につぎ込んでいたかな?」
「それは全部と変わらないぞ。そこまでして俺を助けてくれたのか…… 改めてありがとう」
「えへへ、ピリカ、ハルトのためなら何だってできるから……。だってピリカ…… ハルト大好きだもん!」
ピリカは【はなまるの笑顔】でそう答える。
「さて、折角助かったんだ。ここで飢え死にするわけにはい行かないな。水の心配はひとまず無くなったから、あとは食料の調達だ。ピリカ、人間が食べても平気な木の実や果物の見分けは付くか?」
「人間は危ないから関わらないようにしてるの。だからあんまり詳しくないよ。ごめんね」
俺が欲する答えが無かったことを気にしてか、少しシュンとしている。
「いいんだ…… じゃぁ、わかる範囲で教えてくれ。あとは、食べられそうな小動物を捕まえたり、森を切り開いたりできるなら、それを手伝ってくれれば助かる」
「任せて! ピリカ、頑張るよ!」
ピリカは少しだけふわりと浮かんで、ガッツポーズぽい決めポーズを取っている。
俺は準備を整えて、森に踏み入れることにする。
まずは、前日デカネズミを捨てた場所に行ってみる。
デカネズミの死体は……
あるにはあったが食い散らからされて、骨とわずかな肉片しか残っていなかった。
「やっぱり、血の匂いに誘われてこれを食べに来た奴がいたか。……というか、よくこんな死ねる不味さの肉を食べる気になったな」
「魔物なんてこんなものだよ。単純に弱肉強食? ……だっけ? 殆どがそれだけの存在なの。魂が穢れすぎているから…… 殺す、奪う、食べる、増える。そんな衝動だけで生きてるのが魔物だから」
ピリカはものすごく冷めた目でデカネズミの残骸を見下ろしている。
「えらい言われようだな。そういえば、魔物とそうじゃない動物に明確な違いはあるのか?」
「最近の人間の基準は知らないけど……。ピリカたちから見れば、生まれた時から魂が凄く穢れているのが魔物、生まれた時はいくらかきれいなのは魔物じゃない生き物だよ」
「魂を見たことが無い俺には、見分けがつきそうにないな」
そんなことを話していると、奥の茂みをかき分けて、俺たちの眼前に何者かが姿を現した。
次回、三十五話の投下は今から1時間後、4月12日の22:30ぐらいを見込んでいます。
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